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希望

✳︎今日のひとこと

ブログで以前に簡単に書いたことがあるのですが、もう少しだけくわしく書いてみたいと思います。
デヴィット・リンチの分厚い自伝を読んでいたのですが、彼はもともと映像の中に、無意識に潜むなにかを描く人だったのが、TM瞑想をするようになって急に飛躍したんですよね。
そこで初期作品「イレイザーヘッド」(赤ちゃんができて結婚する男の人の深層心理をなんの脚色もなく掘り下げた名作)を観直してみたら、撮りたいことはほとんど変わっていない。その技術が深まり、丸くなり、洗練されていった、それだけなんです。そのことに勇気をもらいました。そもそも創作する全ての人には、そんなに多くの引き出しはないはずだと思っているからです。
私は彼のキャリアのど真ん中をずっとリアルタイムで観てきたので、最初は自分が何に惹きつけられているかわからなかったのですが、今はわかるようになりました。「なぜか知っていること、夢でしか見たことのないこと」が描かれているからです。それは彼個人の好みを超えて、万人の心の奥に沈んでいる海に届いているからです。
たとえば私はなぜか「三軒茶屋という街の冬の夕方」がとても苦手なんです。なにかいやな思い出でもあるの?と聞かれたら全くなく、当時男の親友が住んでいたり、死んだ友だちとしょっちゅう会った場所でもあり、みんなで楽しく飲んだり笑ったりしたいい思い出のほうがいいいのです。
なのに、私の中の「淋しく、そのことが辛く、自分が消えてしまいそうになる」場所はいつも冬のあの街なんです。きっと誰の心の中にも、なにかと言い知れない方法でリンクしたそういう街があるのでしょう。そのことを完璧に理解させてくれるのが、彼の映画なのです。

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吉本ばななです。やがて書籍になるときにはカットされる記事も含めています。どくだみちゃんは散文、ふしばなはブログ風です。コメントはオフですが…