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それぞれの神様

✳︎今日のひとこと

雨が降ってきそうなので、小走りでスーパーの袋を持って道を急いでいたら、前から自転車に乗った近所のコーヒー屋さんのお姉さんがやってきました。
お姉さんは私を見るとはっとした感じで、
「写真、写真見せなくちゃ」
と、雨が降ってきて先方は自転車だったのに、すごくいい顔で言うのです。
私は雨に濡れるのがさほど気にならないし、もう家も目と鼻の先だったので、自転車のわきに立ち止まりました。

そのお姉さんがかけねなくコーヒー豆を愛していることは、そのお店に行く全ての人が知っています。そしてどこか無骨で、ていねいで、あたたかいそのあり方を近所のみんなが応援しています。

焙煎もしている彼女はコーヒーのルーツをその目で見たくて、コーヒー発祥の地と言われるエチオピアに行ったそうなのです。
そのときに不思議な光が写っている写真があって、ぜひばななさんに見てほしかったんです、と前にお店に立ち寄ったときに言っていたのです。
いつも思うのです。好きなアイドルがいる国、シェフなら自分が作っている料理の生まれた国、好きなスポーツが発祥した地。行きたくなって当然ですよねって。そして彼女はやっぱり行動したのです。私よりも少しお姉さんであろう年齢なのですが、彼女はコーヒーに関係あるところならどこにでもすっとんでいくのです。

エチオピアにはコーヒーの神様と言われているような木があって、その木を守っているのは代々同じ一族で、その一族のおじいさんと彼女がコーヒーの神様の木の下でにっこり笑っているんだけれど、たとえ多少観光仕様だったとしても全然許せるっていうくらい、おじいさんがいい顔をしていて、葉っぱから光が降り注いでいて、彼女もとてもいい顔をしていて、それは彼女がコーヒーを深く愛してるからなんだなって思いました。

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吉本ばななです。やがて書籍になるときにはカットされる記事も含めています。どくだみちゃんは散文、ふしばなはブログ風です。コメントはオフですが…