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福島みずほさん、台湾へいってください


 自民党副総裁の麻生太郎が訪台した(2023年8月)と聞いて、これは一種の「ねじれ」であり「倒錯」現象だと思った。台湾と麻生太郎は真逆だからだ。

台湾といえば、いまやアジアで数少ない民主主義の国であり、しかも(どこかの国と違って)それがよく機能している。そのひとつの証左として、政権交代がしばしば起きる。為に、政治家に緊張感があるという(いつクビになるか解らない)。政権交代があるということは、主権在民が機能しているということだ。国の「主人公」は国民だということ。政治家は「主人」に「雇われている」人たちなのだ。そのことをどれほどの日本人が認識しているだろう。

日本と異なるもうひとつの点は、政府も国民も民主主義についてきわめて自覚的であるということだ。台北には総統府がある。といってもそれは支配者を顕彰するための施設ではない。蒋介石の独裁を経て、民主主義のために戦った台湾人の歴史が展示されている。また、「国家人権博物館」なるものがあり(日本にはないよね)、自由を勝ち取るための犠牲になった人々の名前が石碑に刻まれている。重要なのは、そうした施設が単なる歴史的記念物ではなく、現在に地続きになっている、ということなのだ。

また、台湾はアジアで唯一、同性婚が合法であり、、LGBTQに対する理解促進に関してもきわめて先進的である。さらに細かいことになるが(神は細部に宿る)台湾では、公判に際して、すべての捜査記録証拠を弁護士側が閲覧、謄写できる。被告本人でさえ閲覧できるという。国家権力たる検察、警察による捜査、証拠収集能力は圧倒的であり、民間の弁護人の遠く及ぶ所ではない。故に、国家権力が集めた証拠の数々をすべて弁護側に開示することは、公正な裁判のため不可欠なはず━━なのだが、我国ではそうなっていない(アメリカのシステムも台湾と同じである)。検察の証拠開示は検察の裁量に任されている。ということは、検察が、弁護側が有利になるような証拠は開示しないということになる。その時点で日本の刑事裁判は、検察に圧倒的に有利になる。有罪率99%という、先進国でダントツの数字(欧米では60~80%だという)もむべなるかなである。被告人が刑期を終えて後、被告人に有利な証拠がみつかる、といることもある。日本のシステムはえん罪の温床といわれているのだが、改まる気配はない(私見だが、証拠の全開示がないのに、裁判員裁判をやるのは順番が逆だろう)。

そこで麻生太郎だが、日頃の数々の言動(妄言)はことごとく民主主義とは相入れぬものばかりだ(いちいちあげるまでもないだろう)。台湾のリベラリズムと共通するものは何もない。然らばなぜ訪台したのか。唯一、台湾と共有するのは中国に対する強い警戒感。しかし、彼の訪台が台湾にとりプラスに働くとは到底思えない、むしろ台湾を誤解させることにもなりかねない。台湾に行くべきは、民主主義を大事に思う人、リベラリズムを信条としている人だろう。日本の政治家で一人あげるとすれば社民党の福島みずほである。

社民、福島さんの、愚直にデモクラシーの価値観を追求して止まぬ姿勢は、いまの日本の政界にあって貴重な存在である。身近なこととして、私は外国人に日本語を教えるサークルに入っているが、一人の留学生が在留資格で当局とトラブルになったとき、福島みずほさんに助けられたと言っていた。福島さんの政治信条は先にあげた台湾のデモクラシーとことごとく一致する。中でも、台湾における公判での証拠開示システムは、まさに人権側弁護士福島みずほの目指すところであるに違いない。LGBTQのことも含め、福島さんの夢は、かなりの程度台湾で実現されているのである。福島さんこそ訪台すべきなのだ。台湾では間もなく新しい総統が選出される。国のトップが国民の直接選挙でえらばれる。新総統がだれであれ、台湾の民主主義は変わらない。福島さん、この機に台湾を訪問し新総統を励まし。アジアの民主主義のためともに奮闘することを誓ってください。

 ところがである。

 ここにもひとつ、とんでもない「ねじれ」「倒錯現象」があるのだ。2020年7月12日付「朝日新聞」朝刊に掲載された「各政策への政党の立ち位置」と題したグラフがある。この少し前に、参院選があり、それを受けての各党の性格を判り易くグラフにしたもの。「憲法改正」にしても「対北朝鮮外交」にしても、どの党の立ち位置も「まあ、そんなものだろう」と大体予想通り、ひとつだけダントツに異彩を放っているのがあった。「日本にとって中国は」の項目、左端「脅威」、右端「パートナー」と表示されているグラフの中、公明、共産、立民、れいわでさえ中間をとっているのに、ひとり社民だけ「パートナー」だというのだ。これにはア然とした。これは麻生太郎の訪台以上の倒錯現象という他ない。

 現在の中国の体制、政治、外交、ほぼすべて社民=みずほさんの価値観とはま逆ではないか。福島みずほさんが最大の価値をおく人権の尊重、言論、表現の自由、集会、結社の自由、LGBTQの権利擁護、どれも中国には存在しないものばかり。それどころか、そうした価値観を「西洋のものにすぎない」と切ってすて一顧だにしない。かつてはそれでも多少は民主化に向かうのでは、と思わせた気配もあったが、習近平体制になり、その可能性はゼロになった。一時、中国でかなりあったNPOも、欧米とのつながり、を理由にことごとくつぶされた。LGBTQの団体も然り。#Metoo運動も出かかった途端につぶされた。人権派弁護士は次々と逮捕されている。その公判は公開もされない。(みずほさん、あなたの同僚がひどい目にあっているのに、それでも「パートナー」なのですか)。ウイグル人はその民族性をことごとく抹殺されほぼ全員が収容されているような状態。それでも「パートナー」、全く説明がつかない。

既視感があった

旧社会党時代の過ち再び

 この「説明がつかない」で思い出した。社民の前身、社会党の時代、私の次のような趣旨の投書文が「朝日新聞」の投書欄「声」のトップに掲載された。

「社会党が日頃唱える護憲、反戦平和、民主主義、人権の尊重には大いに賛同するのだが、対朝鮮半島への政策となると、さっぱり判らなくなる。即ち、北朝鮮を『正統』とみなし、韓国をアメリカのかいらいと見て「『韓』国」とわざわざかっこ付きで表示。なるほど韓国の朴政権は民主派を厳しく弾圧している。ということは、民主主義のために戦う人々―政治家、学生運動、新聞等—がいるということでもある。一方、北朝鮮は独裁者金日成のもと、全体主義は徹底しており、政権に批判的なメディア、野党は存在しない。社会党が価値をおく言論の自由、表現の自由、人権の尊重などはカケラも存在しない…」

 こうした社会党の全く説明のつかない教条主義がどれほど日本の反戦・平和運動にマイナスに作用したか知れない(同じことが民主主義反戦平和を標榜する月刊誌「世界」にもいえた。金日成主席を反戦・平和の政治家として扱っていたのである)。しかし、ソ連も崩壊しさまざまなことが明るみに出て、社会党も社民党になり頑なな教条主義ともおさらばしたのかと思っていたら、教条主義は「ダイ・ハード」(死なない)だった。北朝鮮に代わって「パートナー」になったのが中国だったのだ。社民の政党機関誌を見ていたら「日中友好」の文字が目に飛び込んできた。その記事には中国における人権弾圧、ウイグル人へのジェノサイド、香港弾圧への言及は一切なかった。自分たちのドグマにとり不都合な現実は見ないのだろう。しかし、現実に目をつむる政治なんてあるだろうか。なぜ、こんな説明のつかないことをするのだろう。香港で多くの人々が、中国共産党による弾圧に対抗し戦っていた時、現地に飛んで、アグネス・チョウさんの傍らに立ち、連帯を表明することこそ、福島みずほさんが為すべきことではなかったのか。

 いまからでもおそくはない。ぜひ、台湾へいってください。それは単に新しいリーダーを表敬訪問するというだけではない。多くの人にあい、様々な場所をおとずれて台湾の民主主義について学ぶ機会ともなります。それは今後の社民党の在り方について大きなプラスになるに違いありません。当然、蔡英文前総統とも面談をする機会をもつでしょう(みずほさん、蔡英文にあいたくありませんか?本音では会いたいのではありませんか?)。そうすればともに民主主義のために奮闘するアジアの女性政治家同士、話はつきないはず。一方、(想像してみてください)、みずほさんが「パートナー」と呼ぶ中国の習近平氏に会ったとして、いったいなにをはなすのですか?福島さんが日ごろ感心を持つ。人権の尊重、言論の自由、権力をチェックするメディア、野党の役割等、これらすべてを否定する人物と話すことは何もないはず。それでも「パートナー」ですか?
自らの価値観を根こそぎ否定するような政策から一日も早く脱皮して、社民党が真のデモクラシーの党になることを期待します。台湾訪問は。そのための大きな分岐点になるでしょう。。

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