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【7研アドカレDay24】EPISODE.4U -4U・オール・ザ・ウェイ-

    
 寒空が世界中に染み渡っていくような夜だった。

 聖夜の外気はひんやりと冷たい。ひとたび息をつけば、それが白いもやとなってほの暗いキャンバスに溶かされていく。

「うぅ~っ……やっぱり外は寒いわね……」

 凍える指先に息を吹きかけて、少女――九条ウメは、半ば震えるような声で口にした。
 手編みのマフラーとボアコートを身に着けているとはいえ、やはり地肌が露出する部分はひりつくように冷たく、そこだけ体温を持っていかれてしまう。

「ウメちゃん、手袋持ってきてなかったもんね……」

 その隣で心配そうにウメを見上げるのは、ダッフルコートにイヤーマフラー、ベージュ色のミトンで完璧な防寒を施した佐伯ヒナだ。しっかり者らしく、寒さ対策も万全。その小動物的な可愛らしさも、冬物の着こなし方によく表れている。

「うぅ……だいたい、今日はずっとスタジオでクリスマスパーティーをするはずだったじゃないのっ。それをあろうことか、バカエモコがいきなり外に出たいなんて言い出すもんだから!」

 ウメは思いっきり顔をしかめて、非難がましい目をもう一人の少女へと向けた。

 彼女――鰐淵エモコは、ワインカラーのロングコートを制服の上に羽織っている。黒タイツにブーツを合わせた彼女の容貌は、もともとの端麗な顔立ちと相まって、いっそう大人びて見えた。

「あら、さっそく責任転嫁ですか。恐ろしい人ですね。願わくはクリスマスプレゼントが届かないことを、わたしのせいにしないでくださいね?」
「はぁ!? な、なんなのよそれ! もしかしてアンタ、わたしがいまだにサンタの存在を信じてるとでも言いたいわけ!?」
「違うんですか?」
「違うわよ! アンタねぇ、バカにするのもいい加減にしなさいよ!?」
「ま、まあまあ……。ほらウメちゃん、もしサンタさんが来なくっても、それはたぶんウメちゃんが大人になったってことだと思うよ?」
「ちょっとヒナっ! アンタまでなに言ってるの!?」
「えへへ~、ごめんねウメちゃん」

 ゆるりと頬を緩めるヒナ。どこまでもマイペースな彼女を見ていると、ウメも怒りより先に、ため息がこぼれてしまうのだった。

「はぁ……。もういいわ。少しくらい手が寒くったって、どうってことないし……」

 しきりに手をこすりながらも、ウメは大人しく歩みを進めることにした。

 スタジオを出てから、4Uの三人は歓楽街へと向かう。クリスマスイブということもあって、トーキョー・セブンスはどこを切り取ってもお祭り騒ぎの様相を呈している。街中の至るところにホログラム・イルミネーションが施されていて、まるで電飾の世界を渡り歩いているような錯覚に陥るほどだ。

「うわぁ、綺麗だねぇ……!」

 きらきらと煌びやかに彩られた街並みを、ヒナは朗らかに眺めている。

 そんな彼女とは対照的に、エモコの口ぶりは外気よりさらに冷めきっていた。

「奇妙なものですね。自分たちとはなんの関係もないくせに、ここまで大掛かりにキリストの降誕を祝うのですから」

 と、口ではそう言うが、さんざめく夜の街にエモコが向ける視線は、存外にも穏やかだった。この特別な日の空気感は、エモコにとってもまんざらではないのかもしれない。

「――ていうか、いったいどこに向かってるわけ? これじゃあ、ただクリスマスイブの街を歩いてるだけじゃないの」

 色とりどりの景色に見とれながらも、ウメは性懲りもせずエモコに嚙みつく。
 それも仕方のないことかもしれない。――というのも、4Uの面々はつい先ほどまで、スタジオでメンバー内々のクリスマスパーティーを開いていたのだ。

 お互いにクリスマスプレゼントを持ち寄って交換し、その後はモバイルオーダーでたらふく美味しいものを食べた。「ケーキは別腹だよねぇ」という鶴の一声……ならぬヒナの一声によって、大きなクリスマスケーキも追加で注文。十二等分に切り分けたはいいが、そのうちのひと切れずつをウメとエモコが食べ終わるよりも先に、ヒナが残りのすべてを平らげていたことは言うまでもない。

 本来の予定であれば、九時ごろまではスタジオでゆっくり過ごし、それからめいめい解散する予定だった。しかしケーキを食べ終わる頃になって、エモコが出し抜けに「少し外に出ませんか」と提案してきたのである。

 もちろん、ウメとヒナはこぞって行き先を訊ねた。しかしエモコは多くを語らない。「ついてくれば分かりますよ」の一点張りで、結局のところウメもヒナも、この外出がなにを目的としているのか、いまだに知らされていないのだった。

「まあまあ。エモちゃんについていけば、そのうち分かるから!」
「アンタねぇ……そんなんじゃ将来、詐欺やらなんやらに引っかかるわよ?」
「大丈夫だよ~。エモちゃんだから、わたしは安心してついていけるんだよ?」
「さすが。ヒナ鳥ちゃんは道理をわきまえていますね」
「な、なによっ! なにも知らされてないのにヒョイヒョイついていくとか、そっちのほうがリテラシー的に問題じゃないの!」
「ウメ、あなたはいったいどこへ連れていかれると想像しているんですか?」
「ど、どこって……! そりゃあ、イブの日の夜に行くところで、なかなか口にできない場所って言えば――その……」

 ウメはもにょもにょと口ごもる。そんな様子を見て、ヒナは純粋な疑問を抱いた。

「……ウメちゃん? 顔赤いけど、どうしたの?」
「ふふ、放っておいてあげましょう。一人で勝手に破廉恥な妄想をして、勝手に恥ずかしくなっているだけですから」
「うぐ……バ、バカエモコっ! そんなんじゃないわよ!?」
「さて。どうでしょうか?」

 ウェーブを描いた艶やかな黒髪を振り乱しながら、ウメは必死になって否定する。
 そんな彼女の反応を楽しみながらも、エモコは飄々とした表情を決して崩さない。

 いつもどおりの、よくある光景だ。ヒナは柔和な笑みを浮かべて、仲が悪くても深い絆で結ばれているこの二人を温かなまなざしで見守る。

 やがてアーケード通りを抜け、歓楽街の喧騒とは少し離れた裏路地に到着。街明かりこそ途絶えることはないものの、センター街と比較すれば落ち着いた雰囲気で、人通りもそこまで多くはなかった。

「確か、ちょうどこのあたりだったはずですが」

 エモコは少しだけ歩調を早めて、ドミノのように立ち並ぶビル群を見上げている。

「ちょっとエモコ、やっぱり怪しい店に行く気じゃ――!」
「ああ、あのビルですね。さっさと行きますよ」

 エモコが指差したのは――あろうことか、各フロアに不気味な文字列が並ぶ雑居ビルだった。先立つエモコがビルの玄関口に立つと、ビルのテナント情報や広告のたぐいが各自のホロコンへと転送される。ウメがおずおずとその内容を確認すると……ちらっと見えたのは「料金表」「各種オプションあり〼」という、なんともおどろおどろしい文字列。

 間違いない。このビルのなかには、いわゆる「夜の店」がたくさん入居しているのだ。

「なんだか、ドキドキするねぇ」
「なにをニコニコしてんのよ!? ……って、ちょっと待ちなさいエモコ!? こんなところに入って、週刊誌に抜かれでもしたら……どど、どうすんのっ!?」
「相も変わらずキャンキャンとやかましいですね。たまには、しおらしくすることでも覚えたらどうなんですか?」
「し、しおらしくって……アンタまさか、そういう――!?」
「いいから行きますよ、ウメ」

 どきんと己の心臓が高鳴るのを、ウメははっきりと感じ取る。
 この感情がどこから来るものなのか。あるいは、どうやって吐き出せばいい代物なのか。今のウメには見当もつかない。

 気づけばエモコに先導されて、ウメとヒナは非常階段を昇っていた。

 薄闇のなか、簡易的な照明だけがちらちらと明滅している。直方体に切り抜かれた手狭な空間は、それぞれが歩む一つひとつの足音を、ことさら誇張するかのように響かせてきた。こつん、こつんという音が折り重なっては離れていき、奇妙なリズムを刻む。

 やがてエモコは、とあるドアの前でぴたりと立ち止まる。

「――って、屋上じゃないの!」
「店に入るなんて、一言も喋ったつもりはありませんが」
「でも、屋上にはなにもないんじゃ……」

 ヒナがきょとんと首をかたむける。するとエモコは、そのクールな口元にわずかばかりの笑みを含ませた。

「ヒナ鳥ちゃんの言うとおりですね。ここには確かに、なにもない――」

 ですが、とエモコは逆接の言葉を紡いだ。

「ここには『なにもない』があるんです」

 がちゃり、と堅牢な扉を開ける。
 その言葉どおり、屋上に目立ったものは見当たらなかった。

 ――だが。

「うわぁ! すごいねエモちゃん、スカイタワーがばっちり見えるよ!」

 大きな瞳をきらきらと輝かせながら、ヒナは思わず驚嘆の声を上げる。

 その先にあったのは――ポストモダン建築が浸透したトーキョー・セブンスにおいてひときわ異彩を放つ、享楽都市のランドマークともいえる存在――セブンス・スカイタワーの威容だった。

 超高層ビルが立ち並ぶトーキョー・セブンスの特別区では、地上付近からその全貌を臨むことは難しい。にもかかわらず、この屋上からは七色に彩られたスカイタワーをはっきりと視認できる。その姿を遮るものはなにもない。写真を撮るのにおあつらえ向きな位置取りだ。

「……へぇ? なかなかいい場所を見つけたじゃないの」

 穴場と言うには完璧するロケーション。普段は辛口のウメだが、これには舌を巻かざるをえない。

 林立する巨大ビル群を押しのけるようにして、スカイタワーは突き抜けるような夜空へと一直線に伸びている。世界一の美しさとも謳われる、トーキョー・セブンスの夜景さえをも背景にしてしまう、絶対的な存在感を誇示していたのだった。

「ずっとマップで探していたんです。……この三人で、とびきりの写真が撮れる場所を」
「……へ? 写真?」

 ウメが眉をひそめると、エモコはなんでもないような顔で応じた。

「ええ、そうです。要するに、落ち着いて自撮りを撮れるスポットに移動してきたんですよ」
「はぁぁ!? 自撮り撮るためにって……!? ていうか、写真ならさっき嫌になるほど撮ったでしょうが!」
「まったく。ウメは分かっていませんね。特別な日の、特別な一瞬を切り取るのなら――」

 ホロコンのカメラ機能を起動させて、エモコは慣れた手つきでデバイスを持ち替えた。

「そこに『特別の意味』を与えなければ、なんの感動もありませんからね」
「特別の意味……? どういうことよ、それ」
「それを言葉で語るほど、野暮なものはありませんよ。ウメ」

 ひょいひょい、と手招きをするエモコ。ウメは釈然としないながらも、軽く息をついてから彼女の下へ駆け寄っていく。

「ほら、ヒナ鳥ちゃんも」
「うんっ!」

 リーダーであるヒナを中心に、少し照れくさそうなウメは向かって左手に。そしてホロコンを持つエモコが、より二人に密着するように上半身を入れ込ませていく。

 無数の光がまたたく、トーキョー・セブンスの夜景をバックにして。目玉のスカイタワーを隠してしまわぬよう、エモコは最適な角度を見つけ出す。

「それでは、撮りますね」

 続けて、パシャリ、パシャリというシャッター音が立て続けに響いた。
 そのときに流れた静寂は、ひょっとするとこの日初めての沈黙だったかもしれない。

 けれど、その静けさは……ぜんぜん嫌なものではなくて。むしろこの一瞬を、それぞれに強く感じさせるような意味合いさえも含まれているような気がして。

「――はい。もういいですよ」

 エモコは数枚の写真をチェックしたあと、すぐにアプリでウメとヒナにシェアした。

「わぁ、とっても綺麗に撮れてるね! さすがエモちゃん!」
「……まあ、悪くないんじゃない?」
「まあ、こう見えて腕には自信がありますから」
「初めて聞いたわよ、そんなの!」
「でも、エモちゃんの撮る写真はいつもよく撮れてるよねぇ。プロダクションの人も、エモちゃんが撮る写真はいつも構図が上手いって褒めてたよ」
「当然ですね。なにも考えず、ひたすらパシャパシャとピンボケ画像を撮りまくるどこかの誰かさんと違って、一枚も二枚も上手です」
「ちょっと! それ誰のこと言ってんの!」
「あ、あはは……まあまあ、ウメちゃんのことじゃないかもしれないし……」
「言わずもがな、もちろんウメのことですよ」
「やっぱりわたしのことじゃないの!? ……い、言うほど下手じゃないわよ、たぶん……」
「ウメの撮ったまともな写真なんて、いまだかつて見た試しがありませんが」
「もう、エモちゃんってばー。ウメちゃんだって、ときどきはいい写真撮ってるよ?」
「ときどきってなによ、ときどきって!」
「まあ、価値観は人それぞれですし。...…それにしても、ヒナ鳥ちゃんはいつも他人に甘いですね」
「えへへ~、そうかなぁ?」
「なんでそこで照れるのよ!?」

 ――そんな調子で、にぎにぎしい会話はいつまでも続いていった。

     ×××

    人生は映画のようなものだと、エモコは考える。

 切り取られた一瞬が、幾重にも折り重なって連続していく。そうすることで、やがて景色は変わってくる。

 一枚一枚を手に取ってみても、それほど変化は感じられないのに。たった二時間座っているだけで、物語は結末に達してしまうのだ。

(……まったく、早いものですね)

 あれから四年の月日が過ぎた。

 ホロスクリーンで英文のコラムに目を通しながら、エモコはゆったりと革張りのソファに腰かける。ネスレの最新式マシンで挽いたエスプレッソに口をつけると、つんと指すようなぬくもりと苦みに、思わずため息がこぼれる。

 ――今でも、何度も夢を見る。

 あの映画のことは、きっと死ぬまで忘れられない。

(あれほど面白い映画は、世界中どこを探しても見つかりませんね)

 エモコはホロコンを操作し、スクリーンに映画のワンシーンを次々と映し出す。

 その映画には音声がなかった。脈絡のあるストーリーがあるわけでもない。なにか特別な演出もなければ、誰もが憧れるようなスーパースターが登場するわけでもない。

(それでも。わたしにとって、この映画こそが――)

 次々に移り変わっていく写真たち。

 そのなかにあった一枚に、エモコは強烈な郷愁を覚える。とっさにスライドショーを停止させて、エモコはゆっくりと全体像を見回すように、その画像を眺めた。

 セブンス・スカイタワーを背景に、セルフィーで自分たちの姿が収められている。

 中央でひまわりのような満面の笑みを浮かべるヒナ。
 その隣、少し不服そうにカメラから視線を逸らすウメ。
 そして――そんな二人に寄り添い、高々と右手を掲げるエモコ。

 あれは確か、高校二年の冬だったか。
 思えば、自分から「写真を撮ろう」なんて言い出したのは、あの日が初めてだった。……そう、あのクリスマスイブの日。

(それまでは、写真なんて……と、そう思っていたものでしたが)

 賑やかな記憶がよみがえってくる。

 中学でウメに出会い、高校からはヒナが加わった。4Uとしてメジャーデビューを果たし、数えきれないほどのライブをこなしてきた。ナナスタの面々や空栗姉妹とも、公私ともに幾度となく関わり合った。

 騒がしくも楽しい毎日。ありふれた日常。当たり前の日々。

 あの頃のエモコはまだ、写真に対してなにか特別な感情を抱くことはなかった。被写体になるのは嫌いではなかったが、そうして切り抜かれた一コマにことさら興味を抱くこともなかった。

 そのときはまだ、映画は序章に過ぎなかったのだ。ゆえに結末なんて考える必要もなかった。ただひたすら、流れに身を任せていればよかった。

 ――だが。存外にも、映画は面白かった。

 面白ければ自然、熱中する。熱中すれば、時間の経過を忘れてしまう。
 時間が経てば終わりが近づいてくることなんて、少し考えれば誰にでも分かるはずなのに……映画の虜となってしまった人間は、そんなことにすら気づけない。

 そしてようやくあるとき、思い出したように結末を悟るのだ。
 エモコの場合、それが四年前のクリスマスイブ。
 そのとき映画は既に、クライマックスに向けての足踏みを始めていた。

(……こんなことなら。最初のうちからもっと写真を撮っておくべきでしたね)

 音もなく響きわたる物寂しさを背にして、エモコは怜悧な目を細める。

 ――すると。

 ホロコンから着信音が鳴る。聞き慣れた『プレゼント・フォー・ユー』のワンフレーズが流れてきて、エモコは思わず顔をほころばせた。

 空中に浮かび上がった着信表示に手をかざす。すぐにホロコンは映像通話モードに切り替わり、スクリーンにはすっかり大人びた二人組の姿が投影された。

『ほら、感謝しなさい! どうせ一人で寂しくしてるアンタのために、このウメ様がわざわざ国際電話をかけてあげたわよ!』
『エモちゃーん! わたしもいるよ~!』

 慣れ親しんだ親友の声に、エモコは温かな吐息をついた。

『なんですか? こんな時間に……』
『こんな時間にって、そっちはイブの夜じゃないの! メリクリよメリクリ!』
『えへへ~。ちなみにこっちは今、ちょうどお昼くらいだよ~』
「わざわざご苦労なことですね。暇なんですか?」
『そんなわけないでしょーが。今日も撮影やら、アルバムの打ち合わせやらでチョー忙しかったんだからね! わざわざ時間取ってあげてるんだから感謝しなさい』
「勝手にかけてきておいて感謝を要求するとは。常人の発想ではありませんね」
『アンタに言われたくないわよ!』

 心がすっと軽くなった気がした。
 今だけは、あの頃のままの気分でいられる。

『ねえねえエモちゃん! 今日ね、エモちゃんのためにケーキ買ってきたんだ~!』
「ケーキ? わたしにですか?」
『うん! ちゃんとチョコプレートに【エモちゃんへ Merry Christmas】って描いてもらったんだよ!』
『ヒナ、それどうするつもり? 海の向こうのエモコに送りつけるってわけにもいかないでしょ』
『そ、そうだね……ええっと、それじゃあわたしがエモちゃんの代わりに食べるね!』
『アンタ、もしかして最初からそのつもりで買ってきたわけ!?』
『あ、ウメちゃんもケーキ食べる? えーっとねぇ、ここのホイップクリームとさくらんぼと、ここに載ってる砂糖菓子なら食べていいよ~』
『それ、ただのトッピングじゃないの! ケーキ食べてるって言わないわよ!』
「……ふふっ。相変わらず、ヒナ鳥ちゃんは変わりありませんね」
『えへへ、そうかなぁ?』
『アンタそれ、べつに褒められてないわよ!』

 ――そうやって繰り返される、いつもどおりの4Uがそこにはあった。

 たまらなく愛おしくて、ぎゅっと抱きしめたくなる。

 ひとり感傷的な想いに浸っていた、異国でのクリスマスイブ。
 まるでそんな自分を見透かしたかのごとく、はるか遠くのトーキョー・セブンスから電話をかけてくれた親友たちに――、

 エモコはいまこそ、ありったけの感謝の気持ちを伝えようと思った。

「ありがとうございます――ウメ、ヒナ。おかげで寂しさもどこかへ吹き飛んでしまいましたよ」





ごあいさつ


――聖夜(ここ)まで、歩いてきた

みなさんこんばんは。7研連合アドカレ企画も早いもので、今日と明日を残すのみとなりました。

昨日の記事は23時あたりに投稿されていましたね(さっき?)。立て続けに解釈は自由サークルの本気を見せつけられた気がします。他大学の7研は弊研とは別方向に手が込みまくっていて大好きです。もっとやってくれ。

……あれれ? 耳をすませば、シャンシャンと愉快な音が聞こえてくる……?

そうです、本日はクリスマスイブ! みなさんはいかがお過ごしになる予定でしょうか。僕は家に引きこもるか、逆張りして四条河原町に遊びに行くか悩み中です(←このへんが非リア的思考)。

ということで、今回のアドカレは同大ナナ研のisakaがお送りしました(本編はもう終わったので過去形)。のっけからif小説本編を始めるというややトリッキーなことをしたんですが、もちろん無理矢理読ませてやろうという魂胆です。ちょっと長かったかもしれませんが、毎日アドカレをお読みになっている皆さんにとっては、赤子の手をひねるより容易く読み終えてしまったことでしょう。

さてさて。以下では、この小説を書き上げるにあたっての裏話などをしていければなぁと思っています。


1.プロット構想


アドカレ開始早々、僕はノリでイブに予約して「4Uif書きますw」と豪語しました。これは完全に早計でしたね。いちおう間に合わなかったときのために保険をかけておいたんですが、バトンが繋がっていく様子を見ると「あ、これ落とせないやつだ」というのがだんだん分かってきまして。早め早めに取り組まないと間に合わないと思い、初旬からプロットを考え始めました。

最初の構想は以下のような感じです。

4Uif『EPISODE for you ―エモーショナル・ブレイズ―』
・亜麻百合高校に入って一年目、文化祭での話
・少し前まではコピーバンドで、他のバンドのカバーを演奏していた
・その頃のウメの原動力は、やはりアイドルを潰すこと。攻撃的な作詞が多かった
「あなたの音楽って、こういうものなんですか?」
・一刻も早くデビューしたくて、あらゆるレコード会社にCDを送るがすべて却下

ワイのワードファイルより

”ガチ”のやつを書いてみたくて、実はこういう過去編みたいなのを考えてました。ちなみにこの時点ではガチガチに考証もやる予定だったのです……が、中旬あたりまで私生活がかなり忙しく、本文どころかプロットも投げっぱなしの有様。考証なんてする余裕はどこにもなかったらしい。

このプロットでいくのはさすがに厳しいと判断。バイト先で根菜を袋詰めしながら、新たな方向性を考えます。そもそもイブに投稿する小説なのだから、舞台設定もクリスマスイブにしてはどうか? あまり重いテーマを入れず、かけ合い重視の小説にしたらどうか? このようなことを延々と考えた結果、最終的に現在の形にたどりついたわけです。


2.タイトル決め


これは本文を書き始める前、新幹線の中で決めました。

4U関連のエピソードって(4Uに限らずですが)、洋画のタイトルになぞらえたサブタイトルが設定されていることが多いですよね。たぶん茂木さんの趣味だと思います。残念ながら僕は映画に疎いので、自分の引き出しから持ってくることはできませんでした。

しかし心配は無用。こういうときこそ、万能グーグル先生の出番です。

せっかくだからクリスマスを題材にした映画がいいなと思い、いろいろ調べた結果『ジングル・オール・ザ・ウェイ』という作品にたどり着きました。シュワちゃん主演のコメディ映画ですね。堂々とパロったからには、後できちんとTSUTAYAに借りにいこうと思いました(小並感)。

isakaは自他ともに認める英語弱者なので、タイトルの意味が分からず。それもグーグル先生に訊いてみることにしました。all the wayにはいくつかの意味があるようですが、このタイトルでは「道中ずっと」という意味で使われているようです。つまり『ジングル・オール・ザ・ウェイ』は、「道すがら、ずっと鈴を鳴らして」が直訳となるわけですね。


3.その他


本来、作家は自分の作品について深く語るべきではないと思います。解釈は読者の自由だからね。ただ今回は企画小説的なところもありますし、自分なりに工夫した点なんかをいくつか挙げてみようと思います。

ひとつは人称について。

小説には語り手と呼ばれるものが存在します。ストーリーを構築するうえで重要なのが、この語り手の存在です。たとえば物語の登場人物が、彼/彼女の視点から語っていく形式を「一人称視点」と呼びます。当然、地の文では彼/彼女が知り得る情報だけが開示されていきます。

これのメリットとしては、なにより没入感を読者に与えやすくなる点でしょう。ライトノベルなどでも多用されますが、一方で手法としてはやや難しい形式とも言われています。実際一人称で地の文を書くのは難しく、とくに二次創作の場合、ハードルは爆上がりします。キャラに成り代わって心情を描写するわけですから、なかなか筆が進みません。

そしてもうひとつ。一人称視点と比肩する代表的な書き方として「三人称視点」があります。物語に登場するキャラクターたちの言動について、そこには存在しないはずの「誰か」が客観的に語っていく方法です。映画やドラマで言うところの「カメラさん」に近いかもしれません。

三人称視点はメタ的な要素が強いため、かなり書きやすいです。地の文の文体を変にいじる必要もありませんし、作者が好きなタイミングで情報を開示できます。作中設定の説明などにおいて、一人称視点の場合は大幅な制約がかかるのですが、こちらはかなり融通が利きます。しかしその反面、物語の没入感は一人称視点に比べて劣ってしまう傾向にあります。

今作では全編にわたって三人称視点を採用しました。さらに詳しく言えば、前半部分は「三人称視点」を、後半部分は「三人称-単一視点」として、エモコに対象を絞った書き方をしています。地の文の心情描写についても、前半と後半ではその度合いが大きく異なっています。単一視点では客観性を保ちながらも、よりキャラクターを深く掘り下げるときに向いていますね。

もうひとつはかけ合いについて。

僕はエンタメ小説を書くので、会話文はとくに重要視しています。なるべく自然な流れで、魅せたい部分を出していくのは難しい作業ですが、筆が乗ってくるとめちゃくちゃ楽しい部分でもあります。

今回は(というかいつも)、とりわけウメとエモコの掛け合いを軸にしていますね。ヒナはそこに上手いこと乗っかりつつ、彼女らしい個性を残していくイメージを持って書きました。ええ、このへんはね、有識者と意見が分かれる部分でもあると思いますよ。でもやっぱり解釈は自由だから!

僕としては、4Uらしい楽しげなやり取りを描けたかなと思っています。しかし、まだまだ実力不足の身。もっともっと愉快なかけ合いを展開させられるよう、今後も精進していきたいですね!



4.Q&Aコーナー



最後にQ&Aのコーナーに参りたいと思います。ちなみに質問は募集していないので、全部自分で考えました。

Q:ウメ(orエモコorヒナ)はこんなこと言わないですよ(笑)
A:解釈は自由!解釈は自由なのです!

Q:セブンス・スカイタワーって何?
A:作者が創造した建造物。777m

Q:なんでエモコは着信音で微笑んだの?
A:ウメorヒナから着信があった場合のみ『プレゼント・フォー・ユー』が流れるよう設定している

Q:つーかエモコどこ行ってんの?
A:知らない

Q:は?
A:解釈の余地を残した。本当は考えるのがめんどくさかっただけ

Q:ナメてんの?
A:本当に考えてたとしても開示しない。それが作家だよ(ニチャァ)

Q:ハルウメの小説書いてください
A:教義に反するのでNG

Q:エ(モ)コひいきしすぎだろ
A:最高の女だからね、しょうがないね


おわりに


ということで、今回は『EPISODE.4U -4U・オール・ザ・ウェイ-』をお届けしました。皆さんに楽しんでいただけたなら幸いです。

明日はいよいよアドカレ最後の日ですね……。

「ないセトリダービー」の行方が気になって仕方ありませんが、ひとまず座して待ちたいと思います。

それでは、また近いうちに――…………


特報①


実はもう一本記事あります!!!!!!!!!!!!!!!!!!


二本目は新入会員のみゆさんによるライブレポとなっています! ぜひぜひお楽しみに~!!


(isaka)







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