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台湾の教育現場に学ぶ:AI活用・ICT化で進む教員養成の取り組みーー「New Education Expo 2024」セミナーから

前回は「New Education Expo 2024」の展示会場の様子から、GIGAスクール構想の下で進む教育現場のICT化が活気づく状況をお伝えした。今回は、同イベントで行われたセミナー「教育情報化の現状と次代のための教育を考える」から取り上げる。台湾の教育現場におけるAIとICT技術の具体的な導入事例が紹介された中で、教員養成や研修体制への取り組みに注目した

台湾で進むAIやDXの導入、問題解決型学習やSTEAM教育の推進

コーディネーターを務めたのは、日本教育情報化振興会会長で、富山大学名誉教授の山西潤一氏である。冒頭で、山西氏は「日本のGIGAスクール構想の次の段階であるNEXT GIGA※では、1人1台のデバイスをどのように活用していくかが重要な課題である」と述べた。また「一方、台湾では1人1台のデバイスはまだ普及していない地域もあるものの、AIやDXの導入、そして問題解決型学習やSTEAM教育の推進が進んでおり、日本の教育改革において参考になる点が多い」とセミナー開催の趣旨を説明した。

※NEXT GIGA:2020年度からすべての児童·生徒に1人1台の端末を提供することを目指し開始された「GIGAスクール構想」の次のステップとして、2024年度から端末のスペック更新や利活用の拡充を図る取り組み。

教育リーダー「シードティーチャー」の役割

本セミナーでは、台湾から招かれた文部科学省技術評価委員会委員のツァオ·ツォンリ(Tsao, Tsung-Li)氏と高等学校ネットワーク管理マネジャーのチャン・ジージェン(Chang, Chih-Chien)氏が、それぞれに自身の取り組みを報告した。両氏は学校で教鞭を執りながら、台湾の教育現場における「seed teacher(シードティーチャー)」としても活動している。seed teacherとは、STEAM教育や問題解決型学習などの新しい教育アプローチを先導し、他の教員たちにその実践を広める役割を果たす教育リーダーを指す。なお、seedとは「種」を意味することから、教員たちへ「種まき」をするという役割を示している。

左から、コーディネーターを務めた富山大学名誉教授 山西潤一氏、台湾からのゲスト、高等学校ネットワーク管理マネジャーのチャン・ジージェン氏と文部科学省技術評価委員会委員のツァオ·ツォンリ氏

本記事では、ツォンリ氏の報告内容に焦点を当てて紹介する。

教育現場のICT化を推進するための教員養成プログラム

ツォンリ氏が紹介したのは台湾·新北市の事例である。同市は、コロナ禍を機に教育カリキュラムが大きく変革し、タブレット端末を活用した教育が進められている。「自主的な学習能力を育成することを目的として、すべての小学生にタブレット端末が配布され、いつでも情報にアクセスできる環境が提供されている」と同氏は説明した。

こうしたICT化を進めるために注力しているのが、教員の養成プログラムである。技術やプログラミング専門の教員だけでなく、全ての教科の教員を対象に、デジタル技術を活用した指導が行えるようにトレーニングを提供し、認定資格制度も設けている。「現在、新北市の教員の84%に当たる2万5000人以上が資格認定を取得している。こうした取り組みにより、教師と子どもたちとのインタラクションが強化され、技術を活用した教育活動が促進されている」とツォンリ氏は述べた。

AI活用と同時に情報リテラシーを学ぶ

プログラミング教育についても説明があった。以下のような言語やツールを段階的に取り入れられ、小中高と、体系的に学べるように設計されているのが特徴だとツォンリ氏から説明があった。

小学校:
週1コマの授業で、Scratch、micro:bit、Google AI、ChatGPTを使用。
中学校:
週1コマの授業で、Scratch、micro:bit、Google AI、Python、C++を使用。
高等学校:
週1コマの授業で、Python、C++、JavaScript、Oracle、Google AI、その他のAIを使用。

小学校からAIが積極的に取り入れられているが、デマや偽造画像といったメディアや情報技術に関連する社会的な問題についても学ぶとともに、倫理的な側面や情報の信頼性についての理解を深める授業が実施されている。

知的財産、コンテンツの正確性、プライバシー保護など、AI社会における課題についてディスカッション授業の例を説明するツォンリ氏。

高校のプログラミング教育における専門的なアプローチと能力検定

高校レベルでは、Python、C++、JavaScriptなどのプログラミング言語を学ぶために、オンラインコースやサマーキャンプといったアクティビティープログラムが用意されている。教員向けの資格制度は高校教員にも適用されているが、ここでは推奨レベルではなく、技能試験にも合格し資格認定を取得した教員だけが授業を担当できるという基準が設けられている。

台湾では、高校生を対象にしたプログラミング能力検定「APCS(Advanced Placement Computer Science)」という試験が実施されている。この試験では、コンピューターサイエンスの基礎知識をはじめ、プログラミング問題、アルゴリズム、データ構造などの問題が出題され、総合的な理解力が評価される。大学のコンピューターサイエンス関連学科への入学評価基準の一つとしても利用されており、主に高校生を対象としているが、中学生や大学生も受験可能となっている。

このAPCSに特化した授業も提供されている。APCSコースの教員は、APCS試験と実施試験に合格した後、ワークショップに参加して「準講師資格」を取得する。その後、評価やフィードバックを通じて授業効果の追跡に協力し、正式な「講師資格」認定を得ることができる。このようなプロセスからも、より専門的なプログラミングの授業が展開されていることが見て取れる。

山西氏は「日本では、小学校で2020年度から、中学校で2021年度からプログラミング教育が必修化されているが、小中高を通じた系統的な指導には至っていない現状がある。これに関しては、指導教員の課題もあるだろう。台湾の教員養成の事例は参考になるのではないか」と述べていた。

文・写真:遠竹智寿子
フリーランスライター/インプレス・サステナブルラボ 研究員

トップ画像:iStock/Khanchit Khirisutchalual
編集:タテグミ

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