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ハイテク産業の新たな拠点、米国バージニア州の魅力とは――CEATEC 2023より

バージニア州は全米の中で、特にテクノロジー企業の進出が際立つ州であることをご存じだろうか。利便性の高いロケーションや充実したインフラ、税制面のメリットなどビジネスに適した環境がそろっており、それが大規模かつ多様なハイテク産業エコシステムの展開につながっている。同州はテクノロジー分野の人材育成にも注力し、教育システムへの投資や多岐にわたるプログラム提供など、手厚い施策を積極的に推進している。

本稿では「CEATEC 2023」から、米国バージニア州経済開発機構日本事務所のディレクター・坂口恵氏による「テクノロジー企業の対米進出先としてのバージニア州の魅力」と題したオンラインセッションの内容を取り上げる。

ハイテク産業の一大拠点に急成長、アマゾンなど巨大テック企業の進出で注目

バージニア州は米国東海岸の中央部に位置し、面積は本州の約1/2、人口は約864万人(2021年)である。坂口氏によれば、近年、560以上のテクノロジー企業が進出しており、ハイテク産業の一大拠点として急成長を遂げ、過去10年間で7万5000人以上の新規雇用を創出しているという。

バージニア州のハイテク産業エコシステムは、大規模かつ多様であることが特徴。AI、産業オートメーション、教育テクノロジー、フィンテック、ヘルステック、IoTなど幅広い分野の企業が集まる。(出所:米国バージニア州経済開発機構)

巨大テック企業もこの波に乗り、新たな拠点として同州を選択している。例えば、マイクロソフトは新たなソフトウエアの開発拠点の設置を計画しており、1500人の雇用も見込んでいる。一方、アマゾン·ドット·コムはすでに、同州北部のアーリントンに総額25億ドルをかけた「第2本社」の開設を進めており、2023年5月には一部施設がオープンしている。これにより、2030年までに2万5000人の雇用が創出されるとアマゾンはみている。

自然環境を取り入れたデザイン手法「バイオフィリックデザイン」を取り入れた、アマゾンの第2本社キャンパスのイメージ(出所:アマゾン·ドット·コム)

テクノロジー企業にとってのバージニア州の魅力とは

坂口氏はテクノロジー企業にとっての同州の魅力について、以下のような要因を挙げている。

まずは、ロケーションの利便性の高さである。高速道路網が整備され、米国の首都ワシントンD.C.や東海岸における経済活動の中心地域にもアクセスしやすい。州内には16の空港施設があり、大型コンテナに対応したバージニア港もあるなど、国内外への交通·物流のハブ基盤がそろっている。

通信·データインフラ環境については、総延長2000マイル(約3200km)を超える光ファイバーケーブルが整備されており、ダークファイバーに関しては世界最高レベルの集積度となっているそうだ。さらに同州は、大西洋をまたぐ光ファイバーケーブル網のコネクションポイントともなっている。

他にも米国内最低水準となる6.0%の法人税(※)、州税・地方税を合わせた法人税負担率についても全米平均を大きく下回ること、他州に比べ建設コストがリーズナブルといった費用面のメリットや、着手しやすい産業用地が準備されているなど、企業がビジネスを展開しやすい環境が整っている。

同州は、再生エネルギー供給にも力を入れている。ドミニオン・エナジーは、2015年以降、太陽光の発電能力を630%拡大しているほか、州沖合に建設中の洋上風力発電施設は2026年の完成予定だ。マイクロソフトは、州内の太陽光発電プロジェクトから315MWの電力を購入しているが、これは単一企業による太陽光エネルギーの購入量としては全米最大となるという。

ドミニオン・エナジーの洋上風力タービン(出所:ドミニオン・エナジー)

優秀なテクノロジー人材が集積

バージニア州が持つ“人材供給力”もハイテク産業推進の鍵となっている。テクノロジー関連の雇用は約31万5000人で、ハイテク産業における雇用者総数としては全米3位だ。人口増加州であり、190万人近いミレニアル世代が居住するなどの特徴も備える。

同州には軍関係施設があり、毎年数万人レベルで優秀な人材が退役し民間に移る。多くが学士以上の学位を持つ退役軍人はハイテク産業向けの貴重な人材となっており、州はさまざまなプログラムで彼ら彼女らのセカンドキャリアを支援する。

同州には、バージニア工科、バージニア、ジョージメーションといった全米でもトップクラスの州立大学があるが、コンピューターサイエンス学科やデータサイエンス学科からは、テクノロジー産業分野のリーダーとなる専門性の高い人材が多く輩出されている。州内33の大学でコンピューターサイエンス専攻の学科を設ける他、40あるコミュニティ·カレッジでは企業ニーズに合わせたハイテク分野のトレーニングプログラムを実施するなど、州としても積極的に教育システム構築に取り組み、投資する。バージニア州進出企業向けには、人材採用·開発ニーズに合わせて、同州がトレーニングプログラムを無償提供するなどのインセンティブも用意されている。

既存の太いパイプラインに加え、将来に向けた育成までをカバーする人材戦略が同州の強みとなっているようだ。

総額20億ドルを投じるテクノロジー分野における教育施策

現在、バージニア州は総額20億ドルを投じて「ハイテク人材育成プログラム」を進めている。このプログラムでは、2023年から2043年までの20年間で、コンピューターサイエンスの学位取得者数を現行レベルから3万2000人増やすこと目標としている。

プログラムは、全州のK-12(小・中・高等学校)レベルでのハイテク人材強化プログラムに始まり、コミュニティ・カレッジ、大学・大学院における数百レベルでの学科新設、IT·STEM分野を強化する各種プロジェクト、設備投資、インターンシップまで、包括的で充実した内容となっている。

以上のようなバージニア州の取り組みは一過性のものではなく、未来を見据えた持続性とスピード感を感じさせる。教育現場への多額の投資や実践的なプログラムの内容を見ても、州内におけるハイテク産業エコシステムをバックアップし、さらに推し進めるための本気度が伝わってくる。本セッションは対米進出を検討するテクノロジー企業向けのものであったが、教育システムや人材育成への取り組みなど日本で参考になる面が多々あるのではないだろうか。バージニア州の今後の動向にも注目していきたい。

文:遠竹智寿子
フリーランスライター/インプレス・サステナブルラボ 研究員

トップ画像:iStock/Wirestock
編集:タテグミ

米国バージニア州経済開発機構 日本事務所

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