サプライチェーンCO2データを見える化――Green x Digitalコンソーシアム実証実験
2050年のカーボンニュートラル実現に取り組むGreen x Digitalコンソーシアムは、サプライチェーンにおけるCO2排出量の可視化を試みた実証実験を行い、その成果を発表した。また、見える化の基盤となる、データ項目や共通データフォーマット、APIなどに関する技術文書「データ連携のための技術仕様」も公開した。
サプライチェーンCO2見える化に必要な企業間データ交換
Green x Digitalコンソーシアムは、環境関連分野のデジタル化や新たなビジネスモデル創出などの取り組みを通じて、2050年のカーボンニュートラル実現に寄与することを目的に、2021年10月に設立された。一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)が事務局を務めており、2023年8月1日時点で155社が参加している。サプライチェーンにおけるCO2排出量の可視化や再生可能エネルギー導入などにも取り組んでいる。
ちなみに、名称の「Green x Digital」は「グリーン カケル デジタル」と読む。
2023年8月4日に記者説明会が行われ、同コンソーシアムの「見える化WG(ワーキンググループ)」が中心となって進めてきた「サプライチェーンCO2データ見える化に向けた企業間CO2データ交換の実証実験」の成果が発表された。
取引先のCO2まで把握することの難しさ
そもそも、「サプライチェーンCO2データの見える化」とは何か。例えば、パソコンメーカーの場合、自社の工場で製品を組み立てて、それを市場で販売する。1つの製品には、多くの部品メーカーが関わっており、その部品の製造にもさらに多くの企業(サプライヤー)が関わる。
工場での製造はもちろん、製品や部品の運輸といったあらゆる活動からCO2などの温室効果ガス(GHG)は排出される。このようにほとんどの事業は、1社だけでなく関係する企業の活動があってこそ成り立っている。そして、社会全体で脱炭素を達成するには、これらを可能な限り正確に把握する必要がある。そうでなければ、本当のCO2排出量が見えない。
このように、事業からどれだけCO2が排出されているかを把握する取り組みは「カーボンアカウンティング」とも呼ばれ、排出元や計測範囲によって以下のように分類されている。
スコープ1:事業者自らによるGHGの直接排出量(燃料の消費)
スコープ2:他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
スコープ3:企業のサプライチェーンからの間接的な排出(出張や輸送など)
※カーボンアカウンティングについては以下の記事も参考にしてほしい。
データ連携のためのルールと技術仕様を策定
脱炭素を目指す上でカーボンアカウンティングは重要だが、実際に行うには非常に難しいことが課題でもあった。関係各社が同じ基準で正確にCO2排出量を把握し、そのデータを統合しなければならないからだ。カーボンアカウンティングのための企業ITシステムはいくつもあり、導入することで企業は自身のCO2排出量を把握できる。それをサプライチェーン全体に広げるには、仕組みが必要となる。
Green x Digitalコンソーシアムの実証実験は、まさにこのスコープ3を含むサプライチェーン全体のCO2排出量を把握=見える化するための取り組みだ。具体的には、共通の算定や共有方法のルール・ガイドラインを「CO2可視化フレームワーク(Edition 1.0)」として、データ連携のための技術仕様を「データ連携のための技術仕様(Version 1.0)」としてそれぞれまとめた上で、実際にデータ連携を行った。
実証実験には32社が参加し、2022年10月~2023年6月に行われた。記者説明会では、スコープ3のCO2可視化を含めて「当初の目的をすべて達成できた」として成果がアピールされた。
実証実験そのものの成功とともに注目したいのは、具体的な成果物でもある以下の2つだろう。
同様のデータ連携に向けた取り組みは海外でも進められており、既にWBCSD PACT※という業界標準ともいえる先行事例が存在する。Green x Digitalコンソーシアムでは、まずそれらとの相互運用性を重視して、データ項目とAPI仕様を共通化した。その上で、より多くの課題を解決できるフレームワークと技術仕様にしたという。これは目的を考えれば当然で、可能な限り広くデータ連携できることが何よりも重要だからだ。
また、企業ごとに状況はさまざまであるため、なるべく柔軟に、より多くの企業が参加・連携できる包括性も重視された。さらに、製品・製造情報のやりとりは、企業の秘密情報に関わる可能性もあるが、それらを保護できるようなデータ開示方法を採用している。これは、包括性とともにデータ流通の促進につながる。
社会実装の先にある新時代のビジネスルール
Green x Digitalコンソーシアムでは、今回の成果を踏まえ、今後は社会実装に向けてフレームワークと技術仕様の周知・普及、グローバルへの発信を行うとともに、PACTでの採用の働きかけやさらなる改善・改良を進めていくとしている。
世の中が脱炭素化へと進む中で、このようなCO2可視化フレームワークが当たり前になると何が変わるのか。例えば、詳細な分析が可能になると、ある部品のCO2排出量が多いことが分かり、そのメーカーに削減を要請するなど、取引関係の中でCO2排出量が評価や条件の1つとして意識されるようになる。そして、これがサプライチェーン全体でドミノのように連鎖していく。
CO2排出量を理由に、取引が止められることが出てくるかもしれない。少し世知辛い気もするが、これが新しい時代のビジネスルールとなる可能性は高いだろう。
文:仲里 淳
インプレス・サステナブルラボ 研究員。フリーランスのライター/編集者として『インターネット白書』『SDGs白書』にも参加。
トップ画像:記者説明会の発表資料より
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