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【インターネット白書】のバックナンバーを振り返る―2020年の10大キーワード

『インターネット白書』では、毎号、注目すべき技術やビジネスを「10大キーワード」として取り上げ、その概要やポイントを紹介している。今回は、『インターネット白書2020』の10大キーワードを振り返るとともに、その後どうなったのか、現在までの状況について確認していこう。

注目の技術・サービス・ビジネスをピックアップ

年鑑『インターネット白書』の巻頭企画「10大キーワードで読む○○年のインターネット」では、直近の業界動向を踏まえつつ、これから登場する技術、注目すべきサービスやビジネスモデルを、編集委員会や業界識者の意見を参考に10個ピックアップして紹介している。

将来予測とまではいかないまでも、ビジネスのヒントになり得るものを選んでいるつもりだが、果たしてその見立ては当たっていただろうか。また、その後の動きはどうなっただろうか。

最新版の『インターネット白書2022』が間もなく発売予定だが、今回は『インターネット白書2020』(2020年2月発刊)の10大キーワードについて振り返ってみたい。

このタイミングで前号の『インターネット白書2021』ではなく、あえて2020年という前々号を振り返るのは、2020年に予定されていたさまざまな物事がコロナ禍で停滞・延期したからだ。2020年のキーワードを振り返るには、今が適切ではないかとの考えからだ。

なお、『インターネット白書2020』はアーカイブ(PDF)が無料公開されており、10大キーワードのページも以下から読むことができる。

『インターネット白書2020』10大キーワード

『インターネット白書2020』では、以下のトピックを10大キーワードとして取り上げた。それぞれの現状について見ていこう。

01「5G」
02「サブスク」
03「デジタルプラットフォーマー規制」
04「信用スコア」
05「プログラマブルマネー」
06「OMO」
07「エッジコンピューティング」
08「低軌道衛星通信」
09「ディープフェイク」
10「RE100」

01【5G】五輪・パラを弾みに関連サービスの普及を促進

東京オリンピック・パラリンピックは1年後へと延期になったが、5Gサービスは各社とも予定どおりスタート。iPhoneを含めて5G対応端末も登場したが、5Gならではのサービスや体験はまだ乏しい。

「真の5G」と言える5G専用設備を使ったスタンドアローン方式が2021年後半から始まっているが、その真価を発揮するのはもう少し先になりそうだ。

折り曲げられるディスプレー構造の「フォルダブル」は、サムスン電子など一部のメーカーが引き続き改良を加えて新製品を投入し続けている。また、2画面構成という点では、マイクロソフトのAndroidスマホ「Surface Duo」も注目されている。ただし、いずれも端末価格が高価なため利用者は一部の熱狂的ファンに限られている。

02【サブスク】広がる定額化、ネット大手はゲーム市場で激突

コロナ禍での娯楽として、見放題サブスク型の動画配信サービスは広く定着した。ゲーム分野では、2020年11月にそろって次世代機を発売したソニー・インタラクティブエンタテインメントとマイクロソフトを筆頭に、サブスク型サービスのプレイヤーは増えているものの、ビジネスとしては模索が続いている。グーグルは、プラットフォームとしての「Stadia」(日本では未提供)は継続するものの、自社のゲームスタジオビジネスからは撤退している。その他、さまざまな商品やサービスのサブスク化は広がっている。

03【デジタルプラットフォーマー規制】各国で対抗処置や市場健全化に向けた法整備が進行

市場に対して高い影響力を持つプラットフォーム事業者への規制は、世界中で引き続き検討・実施が行われている。OECDでは、これらの事業者による税逃れを防ぐデジタル課税のための国際条約を策定中で、2023年の実施を目指している。日本でも「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」が2020年5月に成立し、2021年2月に施行された。規制対象の事業者として、アマゾン・ドット・コム、楽天、ヤフー、グーグル、アップルなどを指定している。

04【信用スコア】拡大する市場と立ちはだかる抵抗感

機微な個人情報でもあるため社会の懸念も強く、広く受け入れられている状況までにはなっていない。「Yahoo!スコア」は、データの扱いに対してユーザーの懸念が強かったため2020年6月に撤退している。一方、「LINEスコア」や「J.Score」は継続中で、与信情報をレンディングサービスに提供している。このようなパーソナルデータの領域は、情報銀行や改正個人情報保護法、DFFT(Data Free Flow with Trust)といったトピックでも議論が続けられている。

05【プログラマブルマネー】金融システムのデジタルトランスフォーメーション

フェイスブック(現メタ)が中心となって進めてきたステーブルコイン「Diem」(旧Libra)は、金融当局からの同意が得られず、2022年2月に発行を断念した。一方、エルサルバドルではビットコインを法定通貨としたが、IMFは高いボラティリティーを懸念して見直しを求めている。なお、ブロックチェーン技術自体は、その応用の一つである「NFT」が2022年に注目される事態となっている。

06【OMO】さらに進むリアルとデジタルの融合

コロナ禍によってリアル店舗での活動が縮小したため、あらゆる産業でオンライン対応が進んだ。これまでは消極的だった事業者もデジタル化に取り組んだことで、図らずもOMO(Online Merges with Offline)が実現されることになった。コロナ禍が完全に終息しない状況が続く現状では、常にリアルとデジタルの両方で対応できるようにしておくことが常識となりつつある。

07【エッジコンピューティング】より高い要件に応えるシステムの実現

工場でのデジタルツインや分散クラウドの利用が広がることで、エッジコンピューティングの利用も進む。そのために不可欠な5Gは、2021年にエリア整備が進み、2022年にはスタンドアローン方式のフル5Gが本格稼働する。

08【低軌道衛星通信】大気圏を飛び出したインターネット

無線基地局の設置が難しい海上や山岳部でのインターネットアクセスを実現する手段として低軌道衛星(LEO)による通信が注目されている。この事業を手がけるワンウェブは、2020年にコロナ禍での経済的影響から破産申請を行う事態に陥った。しかし、その後再生してサービス提供に向けた準備が進められている。日本でも、KDDIがスペースXの衛星通信サービスを利用すると発表するなど、少しずつ動き出している。

09【ディープフェイク】偽造AIと検知AIの果てしなき戦い

扇動のために政府の要人や有名人を使ったものや単純なポルノなど、依然としてディープフェイクの悪用と巧妙化は続いている。技術そのものの発展も著しく、娯楽アプリでの応用(例えば、人物の顔写真を異性や異年齢の画像に変換するものなど)や映像制作現場での採用なども広がりつつある。

10【RE100】脱炭素化への取り組みが重要な経営戦略に

2020年10月16日に行われた菅義偉総理大臣(当時)の所信表明演説で、日本は2050年のカーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことが宣言された。これにより、あらゆる産業界で取り組みが検討・促進されることとなった。実現の難易度が非常に高い目標ではあるが、府省庁を中心にグリーン成長戦略を策定。再エネの導入拡大や省エネ化でITやデジタル技術の有効活用が期待されている。

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2020年は、コロナ禍によって産業界だけでなく社会そのものが大きな影響を受けたが、それらの困難を乗り越えるためにIT活用が進んだ1年となった。ソーシャルディスタンスを強いられたことで、実店舗ビジネスは大きな打撃を受けたが、ECをはじめとするオンラインビジネスの多くは成長することになった。それまでのデジタル対応の有無が明暗を分ける形になったが、同時に日本のDX化を推し進めるきっかけにもなった。

翌年の『インターネット白書2021』では、「ポストコロナのDX戦略」と題して2020年のコロナ禍におけるインターネット業界の動向をまとめている。また、間もなく発売する2022年版では、インターネットサービスにおけるコロナの短期的影響と中期的影響を分析した寄稿も掲載している。



文:仲里 淳
インプレス・サステナブルラボ 研究員。フリーランスのライター/編集者として『インターネット白書』『SDGs白書』にも参加。

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インプレスホールディングスの研究組織であるインプレス・サステナブルラボでは「D for Good!」や「インターネット白書ARCHIVES」の共同運営のほか、年鑑書籍『SDGs白書』と『インターネット白書』の企画編集を行っています。どちらも紙書籍と電子書籍にて好評発売中です。