『SDGs白書2022』巻頭言――蟹江憲史氏からのメッセージを公開
『SDGs白書2022 人新世の脅威に立ち向かう!』から、應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授 蟹江憲史氏から寄せられた巻頭言を掲載する。蟹江氏はSDGs白書の編者である慶應義塾大学SFC研究所xSDG・ラボ代表およびジャパンSDGsアクション推進協議会会長として、日本におけるSDGs推進に取り組んでいる。
巻頭言──刊行に寄せて
ウクライナにおける紛争がコロナ禍に重なって世界に大きなインパクトを与えた2022年。身近に感じられるようになってしまった気候危機と合わせて、複合的な影響とリスクが世界を覆っている。次なるパンデミックや自然災害、そして海洋プラスチック汚染といった諸課題が大きく目の前に立ちはだかる今、SDGs達成へ向けた行動が、これまでにも増して「待ったなし」の状態を迎えている。
しかし、日本の現状を見ると、そのような危機感とは裏腹に、政策的にも行動面でも、実効性のあるスケールアップに乏しいことが気になってくる。もちろん、行動を変え始めている企業はある。いくつかの政策は、SDGs達成を目指すような形になってもいる。国民のSDGs認知度も75%ほどになり、SDGsを「知っている」市民の人数は世界に誇れるレベルにある。
にもかかわらず、SDGs達成へ向けた行動が、持続可能な社会へ向けた変革を伴っているかというと、まだまだそのレベルには達していない。2022年の参議院議員選挙を見ても、SDGsを正面から取り上げ、その達成を目指すことを前面に掲げる政党はなかった。SDGsは大事だ、みんなで目指そう、という掛け声だけが響き、本気で目標達成を目指す動きはまだほとんど見られない。
SDGsは目標を設定することから始まる。目標を設定し、その進捗を測ることで、さまざまな仕組みが動き出し、行動変容につながることが、目標ベースのガバナンスの面白いところである。まずはSDGsに準じた日本独自の目標を作ることから始めるというのは、理にかなった取り組み方だと思われる。
日本政府はSDGs推進本部と合わせて、ステークホルダーによる円卓会議を設置した。2019年には円卓会議構成員がステークホルダー会議を開催し、その結果を提言としてまとめた。その年末には日本政府SDGs実施指針改定があり、現在の実施指針の多くの要素はその提言に基づいて作成されている。これに続く活動として、2022年、同じく円卓会議構成員は、「パートナーシップ会議」という名の国民会議を立ち上げた。国連総会が4年に1度SDGsを取り上げる年である2023年へ向けて、日本にとってのターゲットを国際社会に表明しようという取り組みである。
政治が率先して政策を推し進めてくれることは、SDGs推進にとって非常に重要だ。ただ、政治や政策の動きが緩慢なときには国民の側から動きを起こして突き上げていくことが、日本のSDGsと民主主義にとって、政治主導の政策推進以上に重要な動きになると思う。いずれが先になるにしても、事態が急を要することに変わりはない。SDGs実現へ向けた折り返し点が迫る今、次なるステップを考える手助けとして、現状を把握するこの白書が資することができれば幸いである。
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 教授/
SFC研究所xSDGs・ラボ代表
蟹江 憲史(2022年7月)
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