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多様な環境の子どもたちに伝わる映像教材を! ボランティア1000人が参加した「やさしい字幕」プロジェクト

2021年12月24日に発表された第5回「ジャパンSDGsアワード」(主催:SDGs推進本部、本部長:内閣総理大臣)にて、SDGs推進副本部長(内閣官房長官)賞を受賞したNPO法人eboard(イーボード)の「やさしい字幕プロジェクト」を取り上げる。

学習サイトの運営やICTを活用した学習の支援などを行うeboardは、インターネット上で学べる「ICT教材eboard」を提供している。「誰でも、どんな環境にあっても学ぶことを諦めてほしくない」という思いから作られたICT教材eboardは、公立学校や非営利の活動、家庭での利用については、無料で使うことができる。

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やさしい字幕プロジェクトの立ち上げ

2020年春、コロナ禍における1回めの緊急事態宣言が出た。全国の学校で全面的な臨時休校措置が取られる中で、家庭でのオンライン教材としての需要などからICT教材eboardが約100万人に利用された(3〜5月)。一方で、聴覚障害がある子や日本語支援が必要な子に配慮されたオンライン教材が社会的に不足していることから「映像授業に字幕を付けてほしい」という要望が相次いだ。そこで、eboardは、保有する映像授業に字幕を付けるプロジェクトをスタートさせた。

【やさしい字幕プロジェクトとは】
字幕のニーズがある以下のような子どもたち(7万人以上)の学びを
保障する取り組み
・ろう・難聴の子どもたち
・外国につながる子どもたち(日本語の支援を必要とする)
・学びでの困り事を抱える子どもたち(学習障害・発達障害・認知特性など)

なぜ「やさしい字幕」だったのか

当初、動画内の講師の言葉に合わせ通常の字幕を付けてろう学校の先生に見てもらったところ、手話を第一言語とするろうの子にはそのままでは難しく、シンプルで分かりやすい日本語を使った字幕が必要であると分かってきた。

さらに、書き換えにかかる時間を見積もると仕上げまでに合計約1万時間、職員全員で取り組んでも1年以上かかってしまうことが分かり、ボランティアを募ることになった※1。

eboardでは「やさしい日本語」※2も参考にしながら、文章の簡素化や標準化、学年に応じた習っていない漢字のかな化などの細かな「やさしい字幕」用のルール決めをしてマニュアルを作成し、これを基に各ボランティアが人力で作業を行った。

最終的には、18の企業・団体の社員・職員、個人のボランティアを合わせて1000人以上の協力を得て、eboardが公開する小学1年生〜中学3年生が対象範囲の約2000本の映像授業に字幕が付けられた。さらに、セールスフォース・ドットコムから受けた新型コロナウイルス関連の緊急支援の寄付を活用して、学校・教育現場における「やさしい字幕」の実証も進められている。

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シンプルで分かりやすい日本語を用いることで自動翻訳で得られる外国語字幕の精度も上がるため、「外国につながる子ども」の学習支援での活用も期待される。

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「ジャパンSDGsアワード」は、SDGs達成に向けた企業・団体などの取り組みを促し、オールジャパンの取り組みを推進するために、2017年に創設された。SDGsの目標4「質の高い教育をみんなに」を主とした活動におけるSDGs推進副本部長賞の受賞は、これが初めてとなる。

デジタルやICTだけでは補い切れていなかった「気遣い」や「配慮」というエッセンスを人の手で加えて、より幅広い環境にいる子どもたちが活用できる教材に完成させた「やさしい字幕プロジェクト」は、「共生社会」や「誰一人取り残さないデジタル化」の実現を考える上での良い事例となるのではないだろうか。

文:遠竹智寿子
フリーランスライター/インプレス・サステナブルラボ 研究員
画像:eboard
トップ画像:iStock.com/ scyther5 
編集:タテグミ

※1
https://note.com/eboard/n/ne0224b8579d9
※2
「やさしい日本語」とは、在留外国人に向けて、災害時の避難情報や日本で生活する上でのルールなどを正しく理解してもらうために、難しい言葉を言い換えるなど相手に配慮した分かりやすい日本語のこと

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