見出し画像

「SDGs実施指針改定に向けた提言書」を岸田首相に手交、SDGs基本法の制定や日本のターゲット設定の必要性を伝える

3月17日、SDGsの達成に向けて意見交換を行う「SDGs推進円卓会議」の民間構成員が、岸田文雄首相に「SDGs実施指針の改定に向けた提言書」を手渡した。この意義と注目したい内容を紹介する

12月に改定されるSDGs実施指針

SDGs実施指針とは、日本政府のSDGs推進のベースとなっている政策文書である。2016年に初めて策定され、2019年に一度見直されたが(※1)、2023年12月には4年ぶりに改定されることになっている。

今回の提言書は12月の改定に向けて、盛り込むべき内容や日本政府が取るべき施策案を示すもので、2022年に2回にわたって開催された「SDGs実施指針に関するパートナーシップ会議2022」での議論をもとにまとめられた。

提言の6つのポイント

1. 「SDGs 推進のための基本法」を制定し、持続可能な成長へ向けて国際社会をリードすること
2. 政府の中心的な政策の中に、SDGs を具体的に位置付けること
3. 日本におけるターゲットの明示的設定を行うこと
4. 誰も取り残さない社会的包摂を実現すること
5. 人類共通の脅威である地球環境の危機を踏まえ、持続可能な社会への変革のためのビジョンの形成と共有を行うこと
6. ビジョンに基づいた政策の形成・実施・評価を安定的に行える基盤の形成とステークホルダーの参画機会の拡大を行うこと

出所:同提言書(前文) https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100480582.pdf

SDGsを基本政策にするための立法化と予算化

まず、注目したいのは基本法である。提言書は、現在のSDGs実施指針では「法的基盤がぜい弱であり、政策の優先度も上がらない」と指摘。SDGsの推進には分野を横断した政策イニシアティブが重要であり、その第一歩として法的基盤の強化が必要になるとして「SDGs推進のための基本法(仮)」の制定を求め、その構成案も掲載している。

また、現実施指針でもSDGsの視点をさまざまな分野に取り入れていく「SDGsの主流化」がうたわれてはいるが、「実態は程遠い」として、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」の中にSDGsを具体的に位置付け、予算編成に組み込む必要があると述べている。

日本の国家計画としてのターゲット設定

2015年に国連加盟国が合意した「持続可能な開発のための2030アジェンダ」では、グローバルな目標を踏まえつつ、各国政府がそれぞれの実情に合わせたターゲットを定めることが想定されていた。しかし、日本独自の明確なターゲットはまだ設定されていない。このため「エビデンスと包括的議論に基づき明確なターゲットを掲げること」が必要であり、その上で各主体がPDCAサイクルを回しながらSDGsを推進することを提言している。

タ ーゲットの設定に当たっては、経済成長と分配の観点での「実践枠」と、一人ひとりの幸福と繁栄の観点での「戦略枠」という大枠を設定することを提案。パートナーシップ会議に寄せられた政策提言や参加者の意見を集約し、「日本としてのSDGsターゲット案」というワーキングドラフトを掲載した。

SDGsで目指す「ありたい姿」

パーナーシップ会議には企業のサステナビリティ担当者や市民セクター、研究者など多様な立場から、2022年の7月に220人、10月に190人が参加した。①人間(People)②繁栄(Prosperity)③地球(Planet)④平和と公正(Peace)⑤パートナーシップ(Partnership)――という5つのPによる分科会も開かれ、より詳しい提言はこの分野ごとにまとめられた。人権やジェンダーにも意識を向けた内容となっている。また、この2回の会議では若者による基調講演が行われ、次の世代を担う人たちの視点が取り入れられたという。

これら会議参加者の意見を集約した未来社会像を、提言書では「SDGsによって実現する『ありたい姿』」として、次の3点にまとめている。

(1) 「誰一人取り残さない」、人権が尊重される社会
(2) 「持続可能な経済・社会システム」への転換
(3) 持続可能な平和の実現

日本では現在、SDGsの認知度が約8割(※2)という高い比率にあるにもかかわらず、具体的な成果や行動に結びついていないという指摘がある。SDGsをどう捉え、次の世代に向けた変革をしていけるのか。この提言書をきっかけに、議論が深まることを期待したい。

(※1)SDGs実施指針 2019年改定版
 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sdgs/pdf/jisshi_shishin_r011220.pdf

(※2)電通、第5回「SDGsに関する生活者調査」
 https://www.dentsu.co.jp/news/release/2022/0427-010518.html

[参考]SDGs推進円卓会議 民間構成員

有馬 利男  一般社団法人グローバル・コンパクト・ネットワーク・
      ジャパン 代表理事
稲場 雅紀  GII/IDI懇談会NGO連絡会 代表
大西 連   認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい 理事長
春日 文子  国立研究開発法人国立環境研究所 特任フェロー
蟹江 憲史  慶應義塾大学大学院 教授
河野 康子  一般社団法人全国消費者団体連絡会 前事務局長
        NPO法人消費者スマイル基金 事務局長
渋澤 健      シブサワ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役
鈴木 千花  持続可能な社会に向けたジャパンユースプラットフォーム        (JYPS) 共同事務局長
関 幸子   株式会社ローカルファースト研究所 代表取締役
西澤 敬二  日本経済団体連合会 審議員会副議長/企業行動・SDGs委員長
       損害保険ジャパン株式会社 取締役会長
根本 かおる 国連広報センター 所長
則松 佳子  日本労働組合総連合会 副事務局長 兼 総合国際政策局長
比嘉 政浩  日本協同組合連携機構 代表理事専務
三輪 敦子  一般財団法人アジア太平洋人権情報センター 所長
       一般社団法人SDGs市民社会ネットワーク 共同代表理事
山口 しのぶ  国連大学サステイナビリティ高等研究所 所長

文:錦戸陽子
インプレス・サステナブルラボ 主席研究員。『インターネット白書』と『SDGs白書』の編集を担当。タテグミ代表。熊本県天草郡在住。

トップ画像:iPhotostock.com/suken
編集:タテグミ

+++

インプレスホールディングスの研究組織であるインプレス・サステナブルラボでは「D for Good!」や「インターネット白書ARCHIVES」の共同運営のほか、年鑑書籍『SDGs白書』と『インターネット白書』の企画編集を行っています。どちらも紙書籍と電子書籍にて好評発売中です。