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ゲーム感覚で楽しみながら生き物情報を収集することで生物多様性に貢献できるアプリ「Biome(バイオーム)」

生物多様性の保全は、SDGsにおいても重要なテーマである。その実現に誰でも気軽に貢献できるのが、生き物収集アプリ「Biome(バイオーム)」だ。このアプリでどのように貢献できるのかを紹介するとともに、生物多様性に関する政府の動きや企業にとっての意味を考えてみる。

ゲーム感覚で生き物を探して記録

「Biome」は、スマホを使って誰でも簡単に生き物の情報を記録・収集できるアプリだ。対象となる生き物は、昆虫や爬虫類に限らず、魚類や哺乳類、植物まで幅広いので、虫嫌いでも楽しむことができる。

生き物の情報を収集すると、ポイントを獲得できてレベルアップするなど、ゲーム的要素も持っている。

使い方は簡単で、例えば公園で昆虫などの生き物を見つけたら、スマホのカメラで撮影する(保存されている写真から選ぶこともできる)。すると、Biomeの生物判定AIが、何の生き物かを判定し、候補を示してくれる。

筆者が自宅で飼育しているアゲハ蝶をAIに判定させたところ

該当するものを選ぶと、生物の名前や分類とともに「コレクション」に追加される。位置情報やタグを付けることもできる。


登録すると「ゲット!」のメッセージが表示される


生き物を登録するとポイントを獲得できる


ポイントがたまるとレベルアップしたり、使える機能が増えたりする


マイページには生き物が分類ごとに登録される


候補の中に該当するものがなければ、自分で情報を追加する。もし、何の生き物か見当が付かない場合は、「質問」に投稿・公開することで、他のユーザーが答えてくれることもある。

Biomeは、単に収集するだけでなく、SNS機能も備わっており、自分のコレクションを他のユーザーに公開したり、他のユーザーのコレクションを閲覧したりできる。質問はその中の一機能で、つまり他のユーザーの知見を利用できるわけだ。

これによって、珍しい生き物であっても、最終的に何かを知ることができる。生き物でつながる集合知をうまく利用していると言えるだろう。

ユーザーによって登録された生き物がマップ上に表示される
(位置情報の付加を許可した場合)

筆者もBiomeを試したところ、この集合知の恩恵を受けることになった。

自宅のベランダで見つけた昆虫だが、詳細は不明。形状からカミキリムシの仲間だろうと予想したものの、手元の昆虫図鑑には載っておらず、正確な名前は分からなかった。

そこでBiomeで質問したところ、数分足らずで「トガリバアカネトラカミキリ」ではないかとの提案をもらった。この名前で調べたところ見事にビンゴ。全国にいる昆虫博士の知見を借りることができた瞬間であった。

Biomeは図鑑も備えており、見つけた生き物についての名称や生態、生息分布、他のユーザーの投稿を見ることができる。

目指すのは生物情報可視化プラットフォーム

Biomeには他にも、「いきものクエスト」と称する、生き物探しを促進するための企画が用意されている。クエストは、生き物の種類や地域、期間を限定した収集ミッションだ。例えば、「東京都千代田区で10種類投稿」や「春によく見るトカゲの仲間たち」などがあり、達成するとポイントやバッジが取得できる。

「クエスト」と称する、ゲーム感覚で参加できる企画も多数用意されている

Biomeを開発するバイオームが目指すのは、生物情報可視化プラットフォームだ。生物多様性を実現するには、まず生物多様性の可視化が必要となる。しかし、生態系は地域ごとに異なるため、生物情報の収集や可視化は容易ではない。

そこでバイオームは、不特定多数のユーザーが楽しみながら生物情報を収集できるBiomeを開発・提供することで、生物情報の収集と可視化を可能にした。つまり、Biomeの真の目的は、ユーザーの手を借りて生物情報を可視化することであり、政府も取り組む「ネイチャーポジティブ(自然再興)の実現」に貢献することだ。

バイオームでは、Biomeで収集した生物情報を活用した生物多様性の可視化ツールやデータ分析サービスなども提供している。

植物や動物に限らず、AIでそれが何かを判定するアプリは他にもあるが、その先に生物多様性という目的がある点で、Biomeは一線を画する。

Biomeで収集したデータを活用した生物多様性の可視化サービス「BiomeViewer」

生物多様性は企業にとっても重要に

SDGsの観点でも生物多様性は重要だ。直接的には、目標14と15およびそれぞれのターゲットで掲げる自然環境や生態系の保護・回復、そして持続可能な利用の促進に該当する。

【目標14】持続可能な開発のために、海洋や海洋資源を保全し持続可能な形で利用する

【目標15】陸の生態系を保護・回復するとともに持続可能な利用を推進し、持続可能な森林管理を行い、砂漠化を食い止め、土地劣化を阻止・回復し、生物多様性の損失を止める

SDGsとターゲット新訳」より

その実現は、環境破壊の阻止、温暖化緩和(=脱炭素)といったものが前提であり、ひいては人間にとっての持続可能性を実現することにもなる。生物多様性は、単に生き物に対する愛護だけではなく、人間や社会にとっても重要なのだ。その影響は、政府の取り組み、そしてビジネスにも広がっている。

国家戦略にも盛り込まれた生物多様性

毎年5月22日は、国連が制定した「国際生物多様性の日」となっている。1992年5月22日に「生物の多様性に関する条約」が採択されたことに由来し、2000年に国際デーとして制定された。

この条約では、生物多様性を「種」「遺伝子」「生態系」の面から捉え、その保全などを目指しており、日本は18番目の締約国となった。

これに関連した日本政府の動きとして、1995年に「生物多様性国家戦略」を策定して以降、定期的な見直しを行っており、2023年3月31日には第六次戦略「生物多様性国家戦略2023-2030」が閣議決定された。また、2008年5月に「生物多様性基本法」も成立している(同年6月施行)。

SDGsとともに重要な目標「30by30」

先述の「生物多様性国家戦略2023-2030」には、「30by30(サーティ・バイ・サーティ)」のロードマップが組み込まれている。30by30とは、「2030年までに陸と海の30%以上を保全する」という国際的な目標だ。

2021年6月のG7サミットで約束され、2022年12月の生物多様性条約 第15回締約国会議(COP15)で採択された国際目標「ポスト2020生物多様性枠組み」にも盛り込まれている。企業にとっては、SDGsと同様に重要なトピックとして、直接的・間接的に関わっていくことになるだろう。

これまでは、ESG対応の一環として、気候変動に関するリスクと機会の開示を推奨する「TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)」が注目されてきた。今後は「TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)」の認知が急速に進むことが予想される。生物多様性についても、企業としてどう関わっているか、貢献しているかが問われるということだ。

例えばKDDIは、2023年4月にKDDI Green Partners Fundを通してバイオームに出資し、それによる「ネイチャーポジティブの実現」への貢献をアピールした。このように、さまざまな形での関与や貢献が増えていくだろう。

文:仲里 淳
インプレス・サステナブルラボ 研究員。フリーランスのライター/編集者として『インターネット白書』『SDGs白書』にも参加。

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