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進化したミライのメガネ?――オートフォーカスアイウエア「ViXion01」を体験

近くから遠くまで、自動でピント合わせを行うウエアラブルデバイス「ViXion01(ヴィクシオンゼロワン)」が誕生した。メガネのように装着して使うが、その体験は従来のメガネと異なる。近視の筆者が体験する機会を得られたので、その使用感とともに紹介する。


見ることをサポートするデバイス

ViXion01は、ViXionが開発・販売するウエアラブルデバイスだ。同社が「オートフォーカスアイウエア」と表現するように、「オートフォーカス」つまりピント合わせを実現している。

オートフォーカスアイウエア「ViXion01」
(出所:ViXion)

核となる技術は、瞬時に形状を変化させられる小型レンズで、それを制御するための機構やバッテリーなどを含めて、顔に装着できるコンパクトなサイズに収めたところが画期的だ。

レンズの詳細については社外秘とのことだが、類似の技術は「液体レンズ」や「ポリマーレンズ」として注目されている。従来のカメラなどのレンズは、複数枚を使うことで対象の拡大/縮小やピント合わせを行う半面、小型化には限界があった。しかし、液体レンズやポリマーレンズは、レンズを電子的に制御して形状を変化させ、焦点距離を変えることができるため1枚で済み、構造的にも小型化しやすい。そしてこれは、人間の目のレンズ(水晶体)と同じ働きでもある。

ViXion01のデザインは、ヘッドマウントディスプレーのようにも見えるし、ちょっと奇抜なサングラスのようにも見える。従来のメガネのようなデザインにもできたが、「これまでにないデバイス」であることが一目で伝わるようにしたいという考えから、未来を感じさせる特徴的なデザインにしたという。

デザインはnendoの佐藤オオキ⽒が担当。左右のツルの形状が異なるのは、「これまでにない製品だと⼀⽬で伝わるようなデザインにしたい」と佐藤⽒が強くこだわった部分だという
(出所:ViXion)


実際、メガネとは異なる体験であり、使用中は注意すべきこともあるので、周りから見てもただのメガネではないことが伝わるデザインは必然でもあったのだろう。

見ることの課題解決会社としてHOYAから独立

ViXion01を開発したViXionは、もともとHOYAの社内事業として発足した。HOYAはメガネやコンタクトレンズの分野での大手企業だが、その一部門として2018年に視覚障害者向けの暗所視支援眼鏡「HOYA MW10 HiKARI」を開発・販売。2021年にViXionとして分社し、見え方に課題を抱える人向けの製品として2022年にViXion01を開発した。

ViXionの開発者によると、HOYA MW10 HiKARIの開発・販売を行う中で、多くの視覚障害者に出会ったことで課題を知り、それらを解決したいという思いからVixion01の開発に至ったという。医療機器ではないが、技術の可能性や課題の解決手段を示すものとして、非常に価値のある挑戦的な製品だと言える。

画期的なレンズとピント合わせの仕組み

ViXion01がしていることは、従来のメガネのそれと似ているものの、同じではない。

一般的に近視や遠視というものは、眼球の形状やピント調節機能が問題となり、焦点が合わないために生じる。メガネでは、肉眼のレンズ(水晶体)に対してもう1枚レンズを加えて焦点位置を変えることで、見え方を改善している。レンズを加えるという点では、コンタクトレンズや眼内レンズ(ICL)も同じ原理だ。レーシック手術の場合は、肉眼のレンズそのものを加工していることになる。

これらの解決策で見え方は改善されるが、遠近を見る際のピント調節は自身の水晶体でやる必要がある。そのため、加齢などでピント調節機能が衰えてくると、見るものの距離によってレンズ(メガネ)を変えることになる。メガネをかけるとテレビはよく見えるが、手元で小さな文字を読むときは外すといった、いわゆる老眼が分かりやすい例だろう。

ピント調節の解決策として、私たちはメガネの付け外しや複数のメガネ(ルーペの使用もこれに当たる)を付け替える。また、遠近両用レンズや累進レンズといった、1枚のレンズ内に複数の焦点を含めることでピント調節を解決する方法もある。

筆者も、長年メガネをかけているが、8年ほど前から累進レンズを使用している。ただし、焦点の差には限度があり、遠くも近くも「ほどほどの見え方」で我慢しているというのが実際だ。遠くはよく見えないし、極小の文字を読む際はメガネを外している。

ViXion01では、先述のようにレンズそのものの形状を変えることで、メガネの付け外しや累進焦点レンズの役割を包含する。

ViXionで代表取締役社長を務める南部誠一郎氏は、ViXion01の役割を「ピント調整のアウトソーシング」と例えたが、これは非常に分かりやすく的を射た表現だ。ただのレンズではなく、もう一つの水晶体を追加するとも言えるだろうか。

ViXion01体験記

さて、長々とViXion01について紹介してきたが、ここからは6月28日に開催されたViXion01の体験会の感想を述べていく。なお、筆者が体験したのは、数分間という短い時間で、製品版とは少し異なる試作版であることを断っておく。長時間使用して慣れると印象や使い勝手は変わるかもしれないので、数ある感想の一つとして参考にしてほしい。

着け心地に違和感やメガネとの違いは少ない

まず着け心地については、日常的にメガネをかけている筆者として違和感はなかった。重さは、スペック上は55gなので平均的なメガネより重いが、気になるほどではなかった。

ViXion01を体験する筆者

装着準備として、まずレンズの位置を左右にスライドさせて、目の真正面に来るように調節する。続けて、左右片目ずつピント調整の初期設定を行う。片目をつぶって、開いた目のほうで、ある一点を見ながらピント調整用のダイヤルを回す。ちょうど、カメラのファインダーで視度調節を行うような感じだ。

目の位置にある丸い穴の開いたパーツがレンズで、指でつまんで左右の位置を調節する

これまでにない体験だが視野の狭さは厳しい

一番の問題である見え方だが、まず視野の狭さが非常に気になった。レンズのサイズが直径直径5~6mm程度と小さいためだが、穴からのぞいているような見え方になる。カメラのファインダーや双眼鏡をのぞくような感覚で、視線は常に正面に向けている必要があるので、周辺を見るには顔全体を動かすことになる。慣れていないせいもあるが、ここはメガネの代わりにするのは難しいと実感した点だ(そもそも、ViXion自身も「メガネを代替するものではない」と強調していた)。

ViXion01で見えるイメージ(GIF動画)
(出所:ViXion)

ViXion01は、かけたまま部屋の中を自由に動き回るのではなく、1か所にとどまって使うほうが安全だろう。もっとも周辺視野が必要なら、外せば済む話でもある。

なお、視野について1点だけ補足しておくと、体験で使用した試作機は、鼻あて(ノーズパッド)のパーツが製品版とは異なり、眼球とレンズとの距離が少しだけ遠くなっているとのこと。製品版では、使用者に合わせて鼻あての形状を変えて調節できるので、わずかでもレンズを目に近づけられるなら、視野もいくらか改善されると思われる。もちろん、鼻の形状によっても個人差が出る。

さらに、レンズのサイズは将来的に2倍程度までは大きくできるだろうとのことで、次期バージョン(ViXion02?)が出るなら、視野の問題が解決される可能性はある。

一方、ピント調節についてはこれまでにない体験だった。視線を向けたものにピントが合い、くっきりと見えるようになる。ピントが合うまで一瞬のタイムラグはあるものの、ちょうどカメラのオートフォーカスでピントが合うような感じだ。

望遠鏡のようにズームイン/アウトするわけではないので、対象が拡大/縮小するわけではないが、はっきりと見える。サイボーグになった気分というか、「身体の一部が機械化されたらこんなふうになるのでは?」という感覚であった。

ViXion01は、視線を向けた先にある対象物との距離を計測し、それに合わせてピント調整している。そのため、対象物の性質によっては、距離計測がうまくいかず、ピント調節も適切にできない場合もある。鏡やガラスなど、反射したり透過したりするもの、また小さすぎるものは苦手なようだ。

筆者が体験したのは部屋の中だけだが、手元のスマホからホワイトボードの文字まで、しっかりとピント調節が機能していた。なお、距離計測機能をオフにして、ピントを手動で調節することもできる。手元の作業など、見る対象が決まっている場合はそれで解決できる。

利用シーンは限られるが大きな可能性を秘める

事前の期待が高かった分、実際に体験して視野の狭さが非常に気になってしまったが、逆に言えば、歩き回らず、見る対象がある程度固定されている状況なら、非常に有用な製品である。工作など細かい作業を行う際にスタンド拡大鏡が使われるが、その代わりとしても重宝するだろう。

他にも、読書のように1点を注視するような行為であれば、視野の狭さがネックになることは少ないと思われる。

また、メガネのように個々に合わせてレンズを作るのではなく都度調節できるので、1つを複数人で共有できることも利点だ。この汎用性や柔軟性は、メガネやコンタクトレンズにない利点だろう。また、同じ人間でも朝と夜で目の調子が大きく変わることもあるが、そのようなケースにも対応できる。

南部氏は体験会で「ピント調節を任せることで、楽に物を見ることができる」と説明していたが、まさに見ることの障害を取り除く製品になっている。

まずは「分かる人」に試してもらい評価を聞く

ViXion01は一般流通しておらず、クラウドファンディングを通しての提供となっている。クラウドファンディングの期間は2023年6月29日~8月24日だが、現時点で目標金額の500万円をはるかに上回る2億円の支援を集めており、期待の高さがうかがえる。

クラウドファンディングでの価格は7万800円(送料・税込み)と、メガネのように気軽に買える価格ではないが、これまでにない唯一無二の製品なので、その価値をどう考えるか。いずれにしても「これから世に問う」段階の製品であり、万人に今すぐ購入を勧められるものではない。クラウドファンディングという限定された形での提供も、そういった前提を理解した上で、それでも使ってみたいという、いわゆる「分かる人」をターゲットにするためだという。

ViXion01について、その背景も含めて筆者が知る限りの情報を書いてきたが、使用感については実際に体験してもらうのが一番だ。機会があるならぜひとも実際に体験して、この製品を評価してみてほしい。東京都世田谷区にある蔦屋家電+など、以下の場所でViXion01の体験会が予定されている(詳細はViXionのウェブサイトを参照)。

  • 東京都:蔦屋家電+(2023年6月29日~8月24日)

  • 愛知県:TSUTAYA BOOKSTORE 則武新町(2023年8月5~6日)

  • 広島県:エディオン蔦屋家電(2023年8月12~13日)

  • 福岡県:六本松 蔦屋書店(2023年8月19~20日)

  • 千葉県:柏の葉T-SITE(2023年8月20日)


文・写真:仲里 淳
インプレス・サステナブルラボ 研究員。フリーランスのライター/編集者として『インターネット白書』『SDGs白書』にも参加。

トップ画像:ViXion提供

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