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SDGs達成を支援する国連報告書「GSDR 2023」。執筆中の科学者が内容を紹介

国連は、2023年にSDGsサミットの開催を予定しており、そこに合わせて発刊予定の「持続可能な開発に関するグローバル・レポート(Global Sustainable Development Report:GSDR)」の2023年版の準備を進めている。3月29日にオンライン開催されたジャパンSDGsアクションフォーラムでは、この「GSDR 2023」を執筆する科学者が登壇し、GSDRとは何か、2023年版がどんな内容になるのか、を紹介した。

「世界を変革しSDGsを達成するために、何がインパクトをもたらすか(GSDR2023から見えてくるもの)」と題した基調講演からレポートする。

持続可能な開発に関するグローバル・レポート(GSDR)とは

講演前半に登壇した国連経済社会局(UNDESA)のアストラ・ボニーニ氏は、次の3つの項目に焦点を当ててGSDRの背景と役割を説明した。

国連経済社会局(UNDESA)アストラ・ボニーニ氏

1. GSDRの役割と背景
GSDRは、最先端の知見を集約した「アセスメントのためのアセスメント(評価の評価)」である。目的は「エビデンスに基づく手段を提供し、科学と政策の接点を強化し、政策立案者やステークホルダーを支援する」ことにある。

UENDESAは、2014~2016年に3回のパイロット版となる報告書を作成。2016年に「持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラム(HLPF)」の閣僚宣言において、GSDRの4年置きの発行と6つの国連機関による支援が決定した。執筆を行うIGSのメンバーは、加盟国からの推薦に基づき、国連事務総長によって任命された社会科学、自然科学を代表する専門家で構成されている。

2. 2019年版で明らかになった重要なメッセージ
2019年版のGSDRは、持続可能な開発に関する当時の最新の科学的思考を加盟国に伝え、各国における政治宣言の実質的なインプットとなった。SDGsに関する行動の10年を呼びかけるとともに、SDGsへの統合的なアプローチ、資金の動員、各国での実施、知性の強化の決意が示された。

ここでの重要なメッセージは、世界は2030年までにSDGsを達成できる軌道に乗っていないということであった。不平等の拡大、気候変動、生物多様性の損失、不計画的な転換点をもたらす恐れなどSDGs達成に向けての動きが軌道から外れていると、科学的な考察を持って示された。

この課題を前に、個別の目標ではなく、複数のゴールを同時期に達成させていく「統合的なアプローチ」を捉えることとなった。例えば、飢餓ゼロの目標であれば貧困撲滅や健康と福祉との関連があり、共利益をもたらすといったことや、逆に、淡水利用のトレードオフとして温暖ガスといったマイナス面が考えられることなどだ。同時に複合的に見ながら、SDGsをどう達成していくかを考える必要性がある。

3. 2030年のSDGs達成に関する世界の現状と前進に向け2023年版GSDRがどのように貢献できるのか
現在は、新しい世界におけるさまざまな課題に直面している半面、転換点にもなり得ると考えている。パンデミックから学んだ教訓を徹底的に検証し、目標とターゲットの連動性を考えながら知識を構築することによって、誰も取り残されることがないように担保していかなければいけない。

そのためには、変革のためのレバー(方策)がどのようにうまく機能するかを特定し、さまざまな状況に適合する、具体的なエビデンスに基づいた解決策を提供していくことが重要となる。より知識を持って、気候変動、自然災害、紛争、人道危機、その他の重大な課題に備えていく必要がある。

GSDRは、単に成果物ではなく、科学、政府、市民社会、民間セクター間が協力していくためのプロセスを導くものである。科学を伝えて信頼を築き、さらには包摂的にエビデンスを生み出すことが、2023年版のGSDRが目指す課題の一つである。

執筆中の科学者が2023年版のGSDRについて説明

講演後半では、国連事務総長が任命する、独立した科学者グループ(IGS)のメンバーであり、カナダ水産海洋省の研究員であるナンシー・シャッケル氏が登壇し、2023年版のGSDRについて現段階の草案内容を紹介した。

IGSメンバー/カナダ水産海洋省研究員 ナンシー・シャッケル氏

草案となる「SDGsの進捗状況」「SDGsに向けた変革の加速」「持続可能な変革のためのツール」「エクスチェンジに向けたプラットフォームの強化」の4章の概要を以下にまとめた。

1章 SDGsの進展の状況
主なトレンドとしては、2019年版に引き続き「生物多様性の損失」と「気候変動」が挙げられる。さらに2023年版では「経済」「人口動態」「インフォデミック」が重要なトレンドとして追加された。「インフォデミック」では、情報社会における情報操作や偽・誤情報などがSDGsや科学にも影響を与えると考えている。

2章 SDGsに向けた変革の加速
2019年版では、変革に向けてのエントリーポイントになるものとして「人間と能力」「持続可能な経済」「持続可能な食料システム」「エネルギーの脱炭素」「都市・都市の中の開発」「グローバルな環境・共有財産」といった6項目を挙げていた。また、きっかけを促すテコ的役割となるものとして「ガバナンス」「経済と資本」「個人と団体行動」「科学技術」の4項目を示していた。2023年版では、これらの道筋を表すものとして「準備」「開始」「加速」「安定」という、変革に向けての4段階を加えた。

3章 持続可能な変革のためのツール
持続可能で公正な経済を実現するためのツール(判断基準)として、FSC、MSC、ASC、GOTSといった認証制度、あるいは海洋・漁業の国際認証制度が非常に効果的である。消費者がこれらを通じて参加することで、持続可能性を実現することができると考えている。

「The Earthshot Prize」「White Lobster」「THE MASHARIKI INNOVATIONS IN LOCAL GOVERNANCE AWARDS PROGRAMME」「ジャパンSDGsアワード」といった地域や国レベルでの各アワードについても、実績や貢献度を評価する基準となるものであることから促進している。

4章 科学、社会、政策などプラットフォームの強化
科学と政策のインターフェースが重要と考え、焦点を当てている。どのような行動も科学的根拠に基づくことが条件となり、また、政策立案者は、社会的価値と目標を担う必要がある。政策の実施には、研究者、大学、研究所、NGO、コミュニティグループが参画可能だが、何より重要なのは私たち全員が参加することであり、社会の進歩に向けての志気が必要である。

各章の各要素についてグローバルでは取り組みが進んでいるが、ローカルレベルではこれからとなる。実際の企業、政府、地域社会の政策において、科学がどのように貢献できるか。そのために必要な一般的なツール(判断基準)やロードマップも本章に含んでいる。

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2人の登壇内容を受けて、ジャパンSDGsアクション推進協議会会長で、慶應義塾大学SFC研究所xSDG・ラボ代表の蟹江憲史氏は、「ここまでGSDRの中身を丁寧に話してくれたのは世界で初めてのことだ。まさに今、こういった議論をしているところで、ここからいろいろなインプットをいただき展開していく」と述べた。

蟹江氏は、シャッケル氏と同じく、GSDRの執筆に携わるIGSのメンバーとして日本から唯一選出されており、GSDR 2023の3章を担当しているという。「私たちがやっているのは、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)やIPBES(生物多様性および生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム)を、SDGsの観点から切り込み直していくこと。今、日本でもSDGsへの関心が大変高まってきている中で、GSDRを見れば、(SDGsに関する報告内容が)ひとまとめになっていて、どういった対応をしていくべきかが分かる、そういった位置付けになるべきではないかと考えている」とも語っていた。

なお、ジャパンSDGsアクション推進協議会が編者に参画している『SDGs白書2022』(現在準備中)でも、セッション内容を詳しく紹介する予定である。

文:遠竹智寿子
フリーランスライター/インプレス・サステナブルラボ 研究員

画像:ジャパンSDGsアクションフォーラム配信より

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