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アマゾンが再生可能エネルギーの大規模導入をコーポレートPPAで実現

クラウドサービスを提供するテックジャイアントの多くは、その膨大な電力消費量ゆえに再生可能エネルギーの導入に積極的だ。発電施設の建設や機器の省電力化など、さまざまな方向からカーボンニュートラル実現に取り組む。そんな中、国内でアマゾンと三菱商事が大規模な再生可能エネルギー購入契約を結んだと発表した。

一般家庭5600世帯以上の電力を太陽光で調達

2021年9月8日、アマゾンと三菱商事は日本における22MW(メガワット)太陽光発電プロジェクトでの電力購入契約(PPA:Power Purchase Agreement)を締結したと発表した。

現在、三菱商事の電力小売事業子会社であるMCリテールエナジーは、首都圏と東北地方の450か所以上の拠点で太陽光発電設備を開発している。これらは2022~2023年にかけて順次稼働する予定で、すべての設備が稼働すると年間2万3000MWh(メガワット時)の電力を生成できるようになる。これは、日本の一般家庭5600世帯分以上の電力に相当するという。両社の電力購入契約は、コーポレートPPAを使った集約型太陽光発電プロジェクトとしては日本初で最大としている(オフサイト型コーポレートPPA自体は、セブン&アイ・ホールディングスが2021年3月31日に発表し、6月1日から稼働している)。

また、アマゾンが供給を受ける電力は、買い取りに要する費用を再エネ賦課金という形で利用者に求めるFIT(固定買取制度)ではない。このため公的な助成金への依存や日本の納税者の負担増しはないとしている。

アマゾンでは、2030年までに全世界の事業を100%再生可能エネルギーで賄うという目標を掲げ、「世界最大の再生可能エネルギー調達企業」をうたうなど、各国で取り組みを進めている。三菱商事とは、2021年2月にも同社の子会社エネコと、オランダでの洋上風力発電プロジェクトでコーポレートPPAを結んでいる

参考までに触れておくと、2021年9月7日に経済産業省資源エネルギー庁が公表した資料「再生可能エネルギー政策の直近の動向」によると、2019年度の再生可能エネルギー導入量で太陽光発電は5万5800MW(年間6900万MWh)となっている。また、2030年度の目標は10万3500~11万7600MW(年間1億2900万~1億4600万MWh)としている。従って、今回の「22MW(年間2万3000MWh)」という数字は、日本全体の太陽光発電量の2000分の1程度という規模感になる。

今後国内でも広がりが予想されるPPA

アマゾンと三菱商事との間で結ばれたコーポレートPPAは、法人が発電事業者から再生可能エネルギーの電力を長期間購入する契約だ。太陽光発電や風力発電のコストが低下してきたことで、資金力のある企業が再生可能エネルギーの導入量を増やすために利用されている。現在、実績のほとんどは米国だが、今後はアジア太平洋地域でも広がるとみられている。

アマゾンが利用する電力の大部分は、アマゾン ウェブ サービス(AWS)やそれを支えるデータセンターで消費される。巨大なデータセンターでは膨大の電力を消費するが、電力小売事業には各国ともさまざまな規制があり、再生可能エネルギーの直接的な確保は難しい。データセンターに発電設備を併設する手もあるが、周辺地域の環境に依存するため選択肢としては非常に限られている。しかし、データセンターのある場所と同じ電力系統内の電力事業者から、コーポレートPPAによる卸売りで直接購入することはできる(発電施設が事業所と異なる場所にあるケースは特に「オフサイトPPA」と呼ばれる)。

アマゾンに限らず、グーグル、マイクロソフト、アップルといったテクノロジー企業の多くが、PPAによる再生エネルギー導入でカーボンニュートラル実現に取り組んでいる。

サービス選定では電源種別にも注目

現在、ウェブサービスをはじめ、さまざまなITシステムがクラウドサービス上で運用されており、この流れは今後さらに加速するとみられている。コンピューティングパワーの上に成り立つテクノロジー企業にとって、電力は不可欠な存在であり、事業規模が大きくなればその消費量もコストも増す。コストと品質のバランスを見ながらクラウドサービスを選定することになるが、これからは従来の経済合理性だけでなく、再生可能エネルギーの利用有無を踏まえた評価――ESG的視点――が当然のように求められるだろう。データセンターやクラウドサービス事業者にとっては、どのような電力を導入するかがビジネスに直結し、それを利用する企業はどのサービスを使うかがブランディングにも影響するようになるだろう。


文:仲里 淳
インプレス・サステナブルラボ 研究員。フリーランスのライター/編集者として『インターネット白書』『SDGs白書』にも参加。