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【新刊紹介】『SDGs白書2023-2024 持続可能なビジネスへの変革を目指して』――22人の専門家の寄稿と指標データで解説する変革への道

『SDGs白書』の最新版が6月14日に発売された。SDGsの進捗では、計測可能なターゲットのうち順調に推移しているのは15%程度しかないことが国連の報告書によって明らかになった。2030年の達成期限に向けて、私たちにはどんな変革が求められるのか、ビジネス、市民、ユース、教育、政策面など、多様な論点を22人の専門家が読み解く。本書の内容を、概要と各記事のリード文とともに紹介する。

発行主旨と内容紹介

『SDGs白書』は専門家の寄稿と指標データによって、SDGs達成に向けた日本の活動、現在地を解説する年鑑だ。2030年の目標達成期限に向け、私たちにはどんな行動が求められるのか、ビジネス、市民、ユース、教育、自治体、省庁、国際機関など多様なセクターの動きを解説している。

今年度版では、特に人間の安全保障、水の循環と保全、仙台防災枠組、プラスチック規制の国際条約、難民問題、ESD、気候変動対策と生物多様性、デジタル田園都市国家構想における地域幸福度(Well-Being指標)といったテーマとSDGsの関係に注目した。さらに世界的視点から、新時代の人間の安全保障についての特別寄稿も掲載するほか、国連が発表した「持続可能な開発に関するグローバル・レポート(GSDR)2023」のデータや、SDSNの「持続可能な開発報告書2023(Sustainable Development Report 2023)」などを参照しながら、SDGsの進捗状況を概観する。

不安定な情勢の中でビジネスを持続し、世界を変えるためのヒントを、SDGsの視点から考える一冊となっている。

『SDGs白書2023-2024 持続可能なビジネスへの変革を目指して』
編者:SDGs白書編集委員会
小売希望価格:電子書籍版 4,500円(税抜き)/印刷書籍版 6,300円(税抜き)
電子書籍版フォーマット:EPUB3
印刷書籍版仕様:B5判/カラー+モノクロ/本文238ページ
ISBN:ISBN978-4-295-60301-6
発行:インプレスNextPublishing

※インプレスNextPublishingは、株式会社インプレスR&Dが開発したデジタルファースト型の出版モデルを承継し、幅広い出版企画を電子書籍+オンデマンドによりスピーディーで持続可能な形で実現している。

以下、各記事の見出しとリード文を掲載する。

17目標でみる2024年の世界

SDGsの達成期限に向けて、日本、世界はいまどのような状況にある
のか。国連が発表したSDGsに関する報告書「Global Sustainable
Development Report(GSDR 2023)」のデータをはじめ、さまざまな
統計資料から現在地を確認する。

巻頭カラー「17目標でみる2024年の世界」誌面イメージ

Special Message:[シンポジウムレポート]GSDR 2023とSDGs 2030アジェンダ後半のビジネス変革に向けて

国際連合大学と慶應義塾大学SFC 研究所xSDG・ラボは、2024年3月1日、「GSDR 2023とSDGs——2030アジェンダ後半のビジネス変革に向けて」と題したシンポジウムを開催した。2023年9月にはSDGサミットが開催され、「Global Sustainable Development Report 2023(持続可能な開発に関するグローバル・レポート、GSDR 2023)」が発表された。SDGs 達成に向けた遅れが指摘されている中で開かれたこのシンポジウムの基調講演の内容から、課題を展望する。

[基調講演1]持続可能な開発と人工知能(AI)

チリツィ・マルワラ●国連大学学長、国際連合事務次長

[基調講演2]後半戦のゲームチェンジャーを求めて

蟹江憲史●慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授

第1部 世界の潮流

第1部では、ハイレベル政治フォーラム(HLPF)において2023年の重点
項目に指定された中から、目標6に関連する「水」について、また目標
11に関連する「防災」とSDGsの関係について取り上げる。さらに「新
時代の人間の安全保障とSDGs」と題した特別寄稿を掲載する。

1-1 特別寄稿

新時代の人間の安全保障とSDGs

星野俊也●大阪大学大学院国際公共政策研究科ESGインテグレーション研究教育センター 共同代表

日本が推進し、「誰一人取り残さない」というSDGsの基本理念に反映されている「人間の安全保障」の概念には今、「誰もが皆、力を合わせて」現状を突破するという、新たな意味合いが込められている。

1-2 HLPF 2023重点項目の視点

持続可能な水の利用と保全

谷口真人●総合地球環境学研究所 教授

世界の農業灌漑による急激な地下水貯留量の減少につながる我が国の食料輸入や、水道施設の維持管理問題、ボトル水の増加傾向など、水に関連するネクサスの視点が持続可能な水利用に重要。

SDGs 達成に不可欠な仙台防災枠組の実施

松岡由季●国連防災機関(UNDRR) 駐日代表

2015年に採択された国際指針「仙台防災枠組」も中間地点を越え、進捗の遅れが浮き彫りに。気候変動の脅威が増す中で災害リスクを減らすためには、枠組実現に向けた高いコミットメントと行動が求められる。

第2部 変革のアクション

第2部では、国連機関、中央省庁、自治体、市民社会、若者、教育などセクター別の動きを振り返るほか、国内の産業界の取り組み事例を紹介する。また、気候変動対策と生物多様性、プラスチック規制の国際条約、難民とSDGsなど分野別の話題を専門家の寄稿によって解説する。

2-1 国際機関・中央省庁の動向

人道・開発・平和の連携(HDPネクサス)

ハジアリッチ秀子●国連開発計画(UNDP) 駐日代表

非人道的な戦争や紛争は多大な犠牲を出し、また脆弱な国で暮らす多くの人々が身の危険を感じ極度の貧困状態に置かれている。今こそさらなる人間の安全保障という理念に基づく協力は必須であり、日本も重要な役割を果たしている。

中央省庁の2023年の取り組みと2024年以降に向けた取り組み

有馬孝典●外務省国際協力局地球規模課題総括課 課長

「SDGs実施指針」は2度目の改定。我が国の持続的成長と国際社会全体の持続可能性との視点が明確に。2025年の自発的国家レビューを目指し、ステークホルダーとの連携を一層進める。

SDGs推進円卓会議の提言から考える日本のSDGsの課題

稲場雅紀● SDGs推進円卓会議 民間構成員

2023年末のSDGs実施指針改定に向け、SDGs円卓会議から首相に手交された提言。民間の意見を吸い上げ、基本法の制定や独自ターゲットの必要性を訴えた提言の論点から、日本のSDGs政策の課題が見える。

2-2 産業動向

シンポジウム報告:企業の推進者が語る「2030 アジェンダ後半のビジネス変革」

SDGs白書編集部●インプレス・サステナブルラボ

航空、車、金融など4社のサステナビリティ推進者が語った変革への実践と成果、2030年への展望。シンポジウム「GSDR 2023とSDGs」より、パネルディスカッションの内容をレポートする。

第一生命による中小企業のSDGs 取り組み支援――中小企業向けSDGsガイドラインの提供

大澤直之●第一生命保険株式会社生涯設計教育部 フェロー

「中小企業向けSDGsガイドライン」は、中小企業のSDGsへの取り組みの実態を把握した上で、課題解決を図る手助けとして作成された。作成の経緯と反響、および今後の目標についてまとめる。

ファッション産業からムーブメントを

山下徹也●伊藤忠ファッションシステム株式会社 所長代行・上席研究員

ファッション産業には、生産時の環境負荷だけでなく、雇用倫理の問題などまだ見えていない問題点が存在する。生活者と企業双方が抱えるさまざまな課題を把握し、好循環を生み出すサステナブル市場を実現するための取り組みについて述べる。

水産業の可能性を広げるフィッシャーマンジャパン・ブルーファンドの取り組み

津田祐樹●株式会社フィッシャーマン・ジャパン・マーケティング 代表取締役社長

漁業団体とフィンテック企業が海洋環境保全に特化したインパクト投資ファンドを開始。「海の豊かさを守る」という指針を軸にした投資により、ブルーエコノミーの発展に貢献する。

2-3 市民社会動向

SDGs 達成に向けた市民社会の提言

井川定一●開発人道支援コンサルタント
堀内葵●特定非営利活動法人国際協力NGOセンター(JANIC)シニアアドボカシーオフィサー

2023年、広島のG7サミットや国連のSDGサミットにて、市民社会は人権や環境問題についてさまざまな提言を行った。国際協力の指針改定についても意見を提出している。今後も状況を注視していきたい。

もういちど「変革」とは何か、考える――若者(ユース)が考える2030年に向けた変革とは

大貫萌子、落合航一郎● SDGs-SWY

SDGsが目指す「変革」は道半ばであり、抜本的な行動が求められている。若者は新しい価値観や柔軟な発想を持って、他のステークホルダーと協働し、既存の社会システムが抱える課題に向き合う必要がある。

教育セクターの取り組み――ESDの現状と課題

佐藤真久●東京都市大学大学院環境情報学研究科 教授

持続可能な社会の担い手づくりに関する国連プログラムが実施されている。国内ESDの取り組みはSDGsで活性化した。今後は、さらに多様な主体の能力開発や人的資本の蓄積にもESDの知見が活用できる。

先進事例に学ぶ地域におけるSDGsの実践と課題

高木超●慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任助教

SDGsはこの数年で全国の自治体にさらに広く浸透。市の事務事業とSDGsを結びつけた運用や住民が生活を通しSDGsを身近に感じられる工夫など、SDGs未来都市に選定された中での先進事例を紹介する。

2-4 課題別動向と話題

気候変動と生物多様性のシナジー

森田香菜子●慶應義塾大学経済学部 准教授

気候変動と生物多様性の両問題の同時解決と、それを実現する社会システムの在り方を、SDGs達成とともに考えることが求められている。気候変動と生物多様性の関係性と、その政策的・科学的議論を紹介する。

プラスチック規制の世界動向

塚原沙智子●慶應義塾大学環境情報学部 准教授

2022年3月、第5回国連環境総会再開セッションにおいてプラスチック汚染解決に向けた法的拘束力をもつ国際条約の制定が決議され、2025年までの締結を目指している。国際社会が条約制定を目指す背景と今後の交渉の見通しについて述べる(本記事は2024年3月に執筆)。

難民とSDGs――日本の取り組みと課題

滝澤三郎●東洋英和女学院大学 名誉教授、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR) 元駐日代表

紛争や気候変動など多様な理由で世界の難民数は増加の一途。日本は鎖国から「受け入れ」へと政策を転換。SDGsの目標全てが難民問題解決や平和とつながっており、SDGsの達成で日本は世界に貢献できる。

第3部 SDGsの指標

SDGsでは17目標のもと、169のターゲットと248(重複を除くと231)のグローバル指標がある。第3部では、日本のローカル指標として、内閣府の自治体SDG推進評価・調査検討会<自治体SDGs推進のためのローカル指標検討WG>が作成した「地方創生SDGsローカル指標リスト」をもとに、統計データを紹介。また、「地域幸福度(Well-Being)指標」やSDSNによる「SDGインデックススコア」など、最新の動きを概観する。

3-1 指標研究

デジタル田園都市国家構想における「地域幸福度(Well-Being)指標」

南雲岳彦●一般社団法人スマートシティ・インスティテュート 専務理事

暮らしやすさと幸福感を可視化する地域幸福度(Well-Being)指標はスマートシティ化やまちづくりの合意形成に必要。Beyond GDPやサステナビリティなど世界の潮流と整合しつつ日本の文化にもつながる。

3-2 ローカル指標

3-3 世界における日本の位置付け

SDGインデックス2023――世界の持続可能な開発の進捗と日本の位置

ターレク・カトラミーズ●芝浦工業大学システム理工学部環境システム学科 教授

SDSNが報告する世界動向。SDGs達成に向けた進捗は3年連続で後退し、複数の国際危機による影響は大きい。日本のランクは2017年以降で最も低く課題も多いが、他国への波及効果を示すポイントは上昇。

付録

SDGsの169ターゲットを分かりやすく翻訳した「SDGsとターゲット新訳」と「企業のためのSDG行動リストver.1」。これらの情報は、研究が進むにつれ、更新される可能性がある。このほか2023年12月に改定されたSDGs実施指針の全文を掲載する。

  • SDGsとターゲット新訳

  • 企業のためのSDG行動リスト ver.1

  • 持続可能な開発目標(SDGs)実施指針 改定版


 「SDGs白書編集委員会」構成団体紹介

慶應義塾大学SFC研究所xSDG・ラボ(xSDG Laboratory, Keio Research Institute at SFC, Keio University)
慶應義塾大学SFC研究所xSDG・ラボ(エックスSDG・ラボ、2017年10月設立)は、多様で複雑な社会における問題解決をSDGsという切り口で実現するためのトランスディシプリナリーな研究を実施し、出版物やウェブサイト、講演会等を通じて、積極的な成果発信を国内外に対して行うことを目的としている。学生および研究コミュニティと連携しながら、企業や自治体との共同研究課題を中心に、産官学連携による活動を推進してきている。特に、xSDG・ラボが推進する「xSDGコンソーシアム」(2018年6月設立)では、企業や自治体など、SDGsを取り巻くステークホルダーとのコラボレーションにより、SDGs目標達成へ向けた先進事例や優良事例を作り、また、SDGsに関することがらの標準化を通じたスケールアップを目指している。
https://xsdg.jp/

SDSN Japan(Sustainable Development Solutions Network Japan)
SDSN(持続可能な開発ソリューション・ネットワーク)は、持続可能な社会を実現するため、学術機関や企業、市民団体をはじめとするステークホルダーの連携のもとに解決策を見出すとともに協働して実践していくことを目的としている世界規模のネットワークである。この目的のもと、世界各地に活動の拠点が形成されており、SDSN Japanは、世界のSDSNネットワークを構成する日本のハブとして、2015年に設立された。SDGsをはじめとするサステナビリティの課題への取り組み、多様なステークホルダーとの協働のためのプラットフォーム構築、各国・各地域ネットワークとの連携による国際動向のフォローおよび日本における各種活動の海外への発信など広範囲にわたる活動を展開している。
http://sdsnjapan.org/

蟹江 憲史(かにえ のりちか)
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授/SFC研究所xSDG・ラボ代表。東京大学未来ビジョン研究センター(IFI)客員教授、総合地球環境学研究所客員教授、理化学研究所客員主管研究員。日本航空サステナビリティアドバイザー、MSS顧問など、さまざまな外部委員を務める。北九州市立大学講師、助教授、東京工業大学大学院准教授を経て現職。欧州委員会Marie Curie Incoming International Fellowおよびパリ政治学院客員教授などを歴任。SDSN Japan議長、日本政府持続可能な開発目標(SDGs)推進円卓会議構成員、内閣府自治体SDGs推進評価・調査検討会委員および地方創生SDGs官民連携プラットフォーム幹事、政府内外での委員などを兼務する。専門は国際関係論、地球システム・ガバナンス。2013年度から2015年度までのSDGs設定へ向けた国際交渉の際には、環境省環境研究総合推進費戦略研究プロジェクトS-11(持続可能な開発目標とガバナンスに関する総合的研究プロジェクト)プロジェクトリーダーを務め、SDGsの形成に貢献した。主な近著に『SDGs(持続可能な開発目標)』(中公新書、2020、著)、『持続可能な開発目標とは何か:2030年へ向けた変革のアジェンダ』(ミネルヴァ書房、2017年、編著)、『Governing through Goals: Sustainable Development Goals as Governance Innovation』(MIT Press、2017年、共編著)などがある。国連によるSDGsの進捗評価報告書『Global Sustainable Development Report 2023』には、15名の独立科学者の一人としてとして国連事務総長から任命された。博士(政策・メディア)。
https://kanie.sfc.keio.ac.jp/

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インプレスホールディングスの研究組織であるインプレス・サステナブルラボでは「D for Good!」や「インターネット白書ARCHIVES」の共同運営のほか、年鑑書籍『SDGs白書』と『インターネット白書』の企画編集を行っています。どちらも紙書籍と電子書籍にて好評発売中です。