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デジタルを介して寄り添う気持ちをつなぐ、 “心のバリア”を超えるアプリ「袖縁」

街中で障害のある人や高齢者を見かけて「手助けが必要かな?」と思いながらも、気負ってしまって見過ごしてしまった…という経験はないだろうか。そんな気持ちの敷居を低くする、障害者や高齢者と支援者をつなぐスマホアプリ「袖縁」の取り組みを紹介する。

心のバリアフリーを後押し、「袖縁」の取り組み

東京2020オリンピック・パラリンピックを機に都市環境の公共交通機関や施設を中心にバリアフリー化が進んだ。しかし、物理的なハード面のみ整備されてもそれが生かされない場合がある。そこには「心のバリアフリー」とも称されるソフト面での配慮が必要となってくるからだ。

例えば、スロープがあっても車いす利用者が1人で安全に利用するのは難しいかもしれない。視覚障害者の道標となる点字ブロック上に無造作に荷物が置かれていたら、本来の役目は果たせない。そこには「気付き」と「思いやり」が必要だ。

また、気付いたり気に留めたりしたとしても「迷惑かもしれない」「どう手伝っていいか分からない」などと声を掛けるのをためらってしまうという話もよく耳にする。一方で、障害がある人も、手を貸してほしいと頼みにくいこともあるだろう。

こうした場面で、障害者や高齢者など配慮が必要な「要配慮者」と支援する人をマッチングさせてしまおうというのがスマホアプリ「袖縁(そでえん)」の取り組みだ。

要配慮者と支援者の思いをアプリがつなぐ

JSOLと袖縁の共同開発による「袖縁」は、現在、iPhone用アプリとしての開発が進められている。公式サイトによれば、「2021年度上期からのβ版の実証実験や試行によるUI/UXの充実を経て、2021年度中のリリースを予定」しているという。支援者側としての登録は、個人ではなく、お店や公共施設などの事業者となる。また、利用希望の際は、「要配慮者」「支援者」共に公式サイトから問い合わせが必要となる。

アプリの仕組みは、「要配慮者」が依頼内容をアプリで送信し、支援者が内容を事前に把握し対応するというシンプルなもの。機能としては「出迎え依頼」「手助け依頼」「トイレ案内」が、事業者側の機能としては「引継ぎ」機能が、それぞれ用意されている。「引継ぎ」機能は、最初に対応したスタッフとは別のスタッフの対応が必要になった際などに使う。また、人によって障害の特徴や注意してほしいことなどはさまざまだ。アプリでは、その内容を「あんちょこ/トリセツ」機能に記載し依頼書と一緒に送ることができるようになっている。

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袖縁の名称は「その場で出会ったこの縁を大切に」との思いからことわざの“袖振り合うも他生の縁”を略して付けられた。

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視覚に障害がある人の特徴に合わせて、弱視でも見えやすいような画面設計となっている。また、iPhoneの読み上げ機能「VoiceOver」に対応しているので全盲の人でも利用が可能だ。

「誰も取り残さない社会」への積み重ね

JSOLと袖縁は、このアプリによる事業を通じて「障害がある方のみならず、ケガや病気、高齢者となり体に不自由を感じる人にとって住みよい社会の実現を目指したい」としている。大規模衣料品店での視覚障害者、聴覚障害者、ベビーカー使用者などを対象としたものも既に行われている。

「袖縁」によってお互いへの「気づき」や「声掛け」がしやすくなることで、いつしかデジタルを介さない場面でもそれが自然にあたりまえになっていくのではないだろうか。「誰も取り残さない社会」とはこうした一つ一つの場面での積み重ねなしには広がっていかない。袖縁の正式リリースが待たれるところだ。

文:遠竹智寿子
フリーランスライター/インプレス・サステナブルラボ 研究員

編集:タテグミ
トップ画像:Stock.com/Yulia Sutyagina

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