Putin's unwinnable war

われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。

2022年2月24日現地時間早朝に、ウクライナとの国境沿い、隣国ベラルーシ、そして2014年に併合したクリミアからロシア軍が侵攻を開始して早10日が経過。ウクライナ軍とウクライナ国民の苛烈な抵抗により、首都キーウ(キエフ)、第二の都市ハルキウ(ハリコフ)、チェルニヒウなどは陥落せず、ウクライナ側が確保している。ロシア軍はウクライナ側の抵抗に加え、兵站・補給の問題が指摘され、進軍速度は遅れているものの、この週末(3月5日、6日)は作戦を中断し、さらなる攻勢の準備を行いつつある模様。

これまで情報収集してきたこと、考えてきたことを一度文字に落としてみる。

情勢分析・予測

1.当初構想していたと見られる電撃的な首都キーウ攻略、ゼレンスキー政権の打倒に失敗後、混乱が見られつつも都市に対する砲撃爆撃を強化し、包囲戦を展開中。

2.ウクライナ側の抵抗で遅滞しているものの、ロシア側の軍事的優位は変わらず、クリミアから進撃した部隊の前進軸が南部で占領地域を拡大し、ドネツィク方面との連結を試みている。また、ケルソンを攻略後、黒海の主要港を擁するオデッサ方面に進軍する構え。

3.包囲中のアゾフ海沿岸部の港町マリウポリは数日中にロシア軍が入るものと見られ、東部と南部の接続が達成される。東部で対峙していたウクライナ軍部隊は撤退、防御線の後退を余儀なくされる。

4.ハルキウからルハンスク方面への前進軸がこのまま進めば、ドネツィク・ルハンスク両州のウクライナ側は挟撃される形となり、戦闘継続はやはり困難になる。東部においてロシア軍の拡大、勢いが増す可能性がある。

5.スームィ(Sumy)方面からキーウに向かっている部隊はこのままだと州内にドニエプル川東岸に到達し、キーウ包囲に加わるとみられる。チェルニヒウを包囲している部隊も攻略後は南進してキーウ攻撃に向かうだろうから、そうなると包囲がさらに強化されることになる。

6.ロシア軍は制空権確保を達成できずウクライナ側と争っている状況。近接航空支援が得られれば地上部隊の進軍も速まるだろうけど、ロシア空軍は事前の予想と異なり活動が低調。理由は複数考えられているが、ウクライナ側が抵抗を続ける上でこれは貴重な機会といえる。

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シンクタンクのInstitute for Study of War(戦争研究所)の作成マップ(上が初日、下が本3月6日時点のもの)を見ると、苦戦しつつも各地でロシア軍が前進しており、また支配下もしくはプレゼンスを有している領域同士が繋がろうとしている。ロシア軍の苦戦、想像以上の被害と作戦行動の拙さが取り上げられるが、全体を見ると各戦場でロシア軍は当初計画から逸れつつも軍事的勝利を収める方向。

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プーチンの戦争の帰趨

欧米諸国から武器弾薬、医薬品、人道物資と支援を受けているが、ウクライナが軍事的にこの戦争に勝利する可能性は限りなく低い。

1週間前に欧米が宣言した強化された経済制裁がロシア経済に打撃を与えているが、少なくともプーチンは制裁効果で戦争を終わらせようとは考えないだろう。

対ウクライナ侵攻の政治的目的、ウクライナの「非ナチ化(denazitification)」と非武装化(demilitarization) 、ロシアとの統一は達成されない。動員した約19万人だとドニエプル川側以東と南の主要拠点を掌握するのがせいぜい、西部まで展開して全土制圧はできないとみられる。

戦前の軍事力を背景にした威圧の段階から、プーチンは妥協や譲歩が求められる交渉で得られる程度の成果を必要としていない。キエフのゼレンスキー政府は交渉相手ではなく、降伏勧告の対象。

EU、NATOの団結し毅然とした対応は想定外だったろうけど、純軍事的に部隊派遣を伴う関与をしてこないうちは、プーチンは戦争計画を大きく変更しない。エスカレーションをちらつかせて牽制はするが、レッドラインはNATOの直接的参戦(飛行禁止区域の設定など)とするのではないか。

反戦デモや制裁、戦争の長期化と犠牲コスト増によるインナーサークルの離反、クーデター、などプーチンの失脚は喧伝できる「戦果」があるうちは起きなさそう。

この戦争がどのような形で終結するかはわからないとして、はじめからスマートな戦争、敵味方の損害被害を抑制し円滑な戦後統治へ移行するもの、の実行に失敗しているので、プーチンに勝利はもたらされない。いや、もたらされないよう、あらゆる措置を講じるべき。

欧米諸国の対抗措置にプーチンは核エスカレーションを行い、場合によっては限定核使用でNATOを抑止しようとする可能性。そのシナリオを考慮して、NATOとしてもエスカレーション管理策を準備しておく必要が出てくる。


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