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D&D和物【猿の怪】序

 目がさめたのは
 ひとの肉を食べたときだった

 それまでも、なかまや、木の実や、花や、虫を見ていたけれど
 それがいったいなになのか、見ている自分がなになのか。
 それがわかって目の前が――ぱあ、と開けたのは あの時だった。


 林の中にぼかんと開けた、日の光があたたかな空き地だった。
 まだ湯気を立てている柔らかな胆にぞぶりと歯を立てて。血肉の甘さにほうと空を仰いだのだった。
 おれを生んだ雌が、やはり血で濡れそぼった口を拭い、満足そうに「おいしいねえ」と笑った。
 昔、おれがまだその首にしがみついていた頃。木のうろの中にあった、蜂の巣から白い蜂の子をほじくり出して食べたとき、この老いた雌、母が同じような貌をしていたことを思い出した。
 おれは「おいしいねえ」と答えた。

 一跳びほど離れたところで、まだもがいているひとの雌の首に、弟がしがみついていた。地べたに転がって、弟の指を引き剥がそうとしている。弟は何度も首筋に噛みつこうとして、代わりにそいつの耳たぶや頬を食いちぎっている。

「!」

 一声、叫び声が響いた。群れの誰もが、それどころかもがくひとの雌ですら、驚いて固まった。
 叫んだのは群れの長だった。
 体の下に、おれたちが襲ったひとの中で、一番大きな雄を組み敷いている。そいつはもう息をしていない。しぶいた血が長のたてがみを赤く染めている。
「使え」
 からんと、腕ほどの長さのなにかを、長は組み合った弟たちへと放った。
 きん、と恐ろしい臭いがした。鋼の臭いだ。
 山刀だった。
「今のお前なら、使える」
 長は、そう言った。ひとの肉を食うまでは、怒りや苛立ちの叫びにしか聞こえなかった長の声が、今はもうハッキリと意味がわかる。

 弟はうなずいて山刀に手を伸ばし、ひとの雌へと振り下ろした。
 三度で、ひとは動かなくなった。


「よく喰え」
 長は目を細めていった。
「この山は、我らのものだ」
 おれたちの群れ、二十頭からの猿たちが、喜びを叫んだ。

最初の相手

 日本の昔話における怪物退治で「もっとも最初のPCにちょうどイイのはなにだろうな」と考えたとき、答えは一つだった。

 狒々、である。

 いや、本当にあちこちの昔ばなしに出てくるのよ。狒々や猿神といった人食いの化け物を、旅をする武芸者や行者が退治する話。
 生け贄を要求する山の神(を語る狒々や猩猩や猿神)に対し、生け贄の身がわりとなった武芸者が立ち向かうパターンは『岩見重太郎の狒々退治』として有名で、錦絵などのモチーフになっている。本項の頭にある絵もそれだ。

https://www.arc.ritsumei.ac.jp/archive01/theater/html/maiduru/dgiwami.htm
より引用「岩見重太郎狒々退治の図、歌川芳年」

 狒々退治は助けを必要とする人からの依頼であり、導入しやすいこと。
 相手が人食いの化け物であり、退治を悩まなくて良いこと。
 強めの単体として出してPCたちに工夫してもらっても良いし、手下として
他の猿を出しても良いと、バリエーションをつけられること。
 なんなら、洞窟に住んでいることにして、天然洞窟系ダンジョンにすることだってできること。
 どうだろう?

 モンスターとしての狒々をデザインするとして、真っ先に思いつくのは、人間並みの精神系能力値(【知】、【判】、【魅】)を持つ猿だと考えて、『Monster Manual』に掲載されたエイプやジャイアント・エイプをベースに作るというもの。
 ただし前者は脅威度1/2で中型で小さすぎるし(手下としてはちょうどイイかも)、後者は脅威度7の超大型で大きすぎる(古い映画のキングコングくらい)。
 あと、『Monster Manual』にはバブーン(ヒヒ)もいるのだけど、こちらは小型サイズなので、配下の猿にちょうどいいかも。

 物語における立ち位置から類推すると、狒々の脅威度はオーガ(脅威度2)と同じくらいが適切なのだろう。
 その場合、取巻きの猿はコボルドやゴブリンくらいの脅威度にするとイメージしやすい。猿ならある程度道具が使えるので、あり合わせの武器を持たせてもよいし、落ち武者狩りして鎧や兜を着てるなどと考えたら、ゴブリンの鎧を脱がし、武器を粗末なものに変えて、とかでも充分なはず。
 猿類として与えたい特殊能力としては、枝渡りのような特殊移動だが、5版なら登攀移動速度を持たせればよいだろう。

取巻きの猿をバブーンからデザイン、つか武器を持たせただけ。

 じつは、類人猿型のデーモンであるバルルグラから完全耐性や抵抗、呪文能力をオミットすると狒々にはちょうどいいのかも。
 このあたりは、どんなセッションにしたいかによる。

 なお、今回のキャンペーン、なるべくデータはもとのD&Dのものを読み替える、ガワを変える、などして対応しようと考えている。
 新規に作成する時にも、既存のモンスターをベースに考える。
 D&Dのモンスターって、まず能力値やAC、hp、基本的肉体攻撃能力といったクリーチャーの躯体≒シャーシとも言える部分があり、それにカスタムパーツとしての武器の使用や、毒やブレス、各種特殊攻撃がある。
 さらにクリーチャーの種別を表現するものとして、種別毎に共通する完全耐性や抵抗、脆弱性が等が設定される。例えば、アンデッドが[死霊]や[毒]に完全耐性を持っていたりというふうにだ。
 こうした要素の重ね合わせや取捨選択で、望む形の妖怪化け物の類いを作っていく。
 グリーンスタッフを捏ねてフルスクラッチをするんではなく、キットバッシュで対応していくといえばいいかしらん。

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