見出し画像

自作のエロ本、大学にて消失

性癖 リョナ
発症したの保育園のバラ組で大人に言われるがまま何の役に立つのか分からないカスタネットの練習をさせられていた頃だ。
当時の僕はとても早起きでおまけに寝起きが良かった。
休日なんかには、朝の6時頃にはベットから出てリビングにいた。こんなこと今では出来ない。
その時間に起きている家族なんていなかったから、それから母親が起きてくる8時までの2時間の間は誰の監視も受けずに自由に動ける最高の一時であった。こっそりとお菓子や朝食用のパンを食べながら、テレビをつける。その時の僕の娯楽の大半はテレビであったと過言しても良い。
日曜の6時からは幼児向けのアニメが流れている。この時間に起きてこっそりとテレビを見ていた子供が日本中にたくさんいたのだろう。アニメが2本流れて特撮ヒーローものが始まる。
ここだ。まさにここ。
僕の性の目覚めはここにある。しかし、この時はまだそれをエロいものとして認識はしていない。ただふわふわと頭の中で雲のように掴みどころなく漂っているだけだ。たまにそれは出てきて身体の下半身をピンとさせ、口の中が酸味で広がる現象を引き起こすのだ。しかし、しばらく経つとそれは無くなっていく。
そして段々とこの現象が発生するのには、ある一定の規則性があることが分かっていく。その規則とは、女性(主にSっ気のある傲慢な態度の)が雑魚だとみなしていた相手にボコボコにされることであった。それが分かってからは、寝る前に良くその妄想をするようになった。すると口内に似たような酸味が出てくる。幼少期はその酸味がないと上手く眠れない身体になっていた。

それが「リョナ」として一種の性癖であると知るのは小学生の頃だった気がする。こっそりと親のスマホでエロサイトを見ていた時にその単語を覚えた。そしてこの時に雲であったものがしっかりとした固体となり、一つの存在として生まれた。
やはり言葉によって人間の思考の幅は増えていく。単語として認識したその日から、思考は明確により鮮明になっていたのだ。

ただこれが普通の人の性癖と若干のズレがあるということにも気づいていった。小中学生の頃だ。
周りの男子達の間では、エロ伝道師によってより新しいエロ情報を仕入れ、それを無知な男子に教えるというエロの円環構造が生まれていた。今思えばこれは一種の通過儀礼であったのだろう。
そうして友人達と自分のエロデッキを出していくのだが、みんなが興味あることは女性の陰部であり、艶かしい身体であり、己の性器であった。
対して僕はというと、傲慢な女性が酷い目に合うというシチュエーションが好きなのであって、神秘の部分に興味があるのかと言われれば然程なかった。
そして僕はここで疎外感を感じながらも、自分の欲望に忠実に生きようと決心する。
この時、みんなはAVを手に入れ出す。
いち早くネットを駆使し始めた奴が違法のエロサイトでAVの視聴方法を伝授し始めたたのだ。

ここで僕はAVの道へは進まなかった。

これが、後々の性の考え方に対して大きな転換点となった気がする。

皆んなは上級生や友人から数多のエロ情報を入手することが可能であった。しかし、僕に関して言えばその情報では全く満足できなかった。その為、自分で開拓していくしかない。
この時、僕は中学生だ。中学になるとスマホを手にした。それからはネットで漁る。ネットで漁っていくと「リョナ」系列のものは簡単に見つけることが出来た。ただ、そこにはとてもハードでグロいものも多く、それに関しては拒否反応を起こしてしまった。
どうやら僕はソフトなものが好みらしい。加えて、身体の触れ合いなどは見たくなかった。そこに興奮するものはなかったのだ。
そこで僕は自分で自分の欲求を解決することを試みるようになる。

具体的に言うと、お気に入りのイラストを見つけ、それを色んなキャラクターで模写するというを始めた。
すると持っていたノートはあっという間にエロで支配されていく。当時好きだったのは、イナズマイレブンGOのベータというキャラだ。一時期のノートにはベータ一色になった。

月日が流れていく中で、自分の許容範囲が増えていき、身体の触れ合いも抵抗感なく見ることが可能になっていった。この事は僕を少し落ち着かせてくれた。やはり、他の人とは違うことで興奮している自分が不安であったのだ。
好んで見るわけではないが、それなりには性器にも興味が湧くようになってくる。これは高校ぐらいの時だ。徐々に免疫がついていったのだ。ゆっくりゆっくりと僕はいわゆる「普通」の感覚に近づいていっていった。

自分でノートに模写することは今でも続いている。
模写したイラストは捨てずに取っておくようにしているので何冊かノートが溜まった。模写する以外にもアイデアをノートに記しておく癖があるので、貯蓄しているノートの量は大分多い。
そして最近、これまでの人生で最高傑作だと言えるようなイラストを描くことができた。
詳しくどんなイラストであるかは言えない。そこにはプライバシーがほしい。だから最高傑作であるとだけ言っておく。
僕はそのイラストが気に入りすぎてしまい、イラストが描かれたノートをリュックに入れて大学に持って行った。勿論、友人達に見せるわけではない。単に側に置いておきたかったのだ。
大学の授業というのは暇な時間がたくさんある(本来は無いのかも知れないが)。その時間に僕は、リュックからノートを取り出す。周りがこちらを見ていないことを確認して、チラリとそのイラストを見る。「やはり良く出来ている」と感心し、再びそのノートをリュックの奥の方にしまう。そんなキモいことまでやっていた。
外で何かをするつもりはない。しかし、例えば、猛烈に落ち込んでしまった時にこのイラストを見ると元気がもらえるのだ。
それはもうお守りと言っても過言ではないものになっていた。
それほどそのイラストは大のお気に入りであったし、ただのエロいイラスト以上のパワーを付与してしまっていた。

そんな日々に終わりが訪れる。
ある日、家に帰ってリュックからノートを取り出そうとすると、そこにはノートが無いのだ。
何度探しても見当たらない。家中を探しまわった。どうしても見つからない。
そして最悪のシナリオが浮かんだ。


大学に落としたかもしれない。

その日最後に見たのは大学だ。つまり大学には持っていったということだ。ほぼ確定だ。
どうすれば良い…。もし、誰かに拾われて中身を見られでもしたら…。
…多分どうにもならないのだが、それでも「何これキモっ」と言われたりしているようであれば可哀想だ。イラストが可愛いそうである。
どうにかして見つけたい。誰かがゴミと勘違いして捨ててしまう前に救いあげたい。
直ぐにでも大学に向かいたかったが、もう時間的に大学は閉まっていた。その日は不安な夜を過ごした。
翌朝、大急ぎで大学に向かう。この日一限があればいつものように遅刻せずにすんだであろう。
大学につき、昨日行った場所をくまなく探す。
席の下、机、廊下、トイレ、ありとあらゆる教室。しかし、どこにも見当たらない。
なんなら、全部綺麗に掃除されていてゴミ一つない。さすが私立だ。お見それする。
こうなったら方法はもう一つしかなくなる。

最後に残された行動。それは、学生センターに行き、落とし物がないか確かめるしか方法がなかった。流石にこれは恥ずかしい。もししっかりと保護されていたとしたら僕が「あの〜ノートって…」と話し始めた瞬間、事務員のおじさんはこの男があのイラストを描いた男か!という目で見られるに違いない。そんな屈辱感を味わってまでそのノートが必要なのだろうか。…必要だ。どんな犠牲を払っても必要な事に違いない。
まさか、大学でレンタルショップでAVを借りるのと同じテンションになるとは思いもしなかった。
勇気を振り絞って学生センターに入って行き、事務員のおじさんに話しかける。
「すみません、あのノート落とし物ってありませんか?」
出来るだけ平常心で、ノートの中身がまさかエロイラストで埋め尽くされているなんて知らないかの如く。なんなら、勝手にイタズラされたという程で、言葉を発した。
「ノート?ちょっと待ってね」
事務員のおじさんは何やら分厚いクリアファイルを取り出し、ペラペラとページをめくっていく。
「いつ頃無くしたのかな?」
おじさんはこちらを見ない。
「あっ、昨日落としまして」
おじさんの手は止まらない。ペラペラとページ。めくっていく。そして、クリアファイルをバタンと閉じるとこちらを向いた。
おじさんの顔は無であった。そして淡々とした区長で、「そんな落とし物はないよ」
と言葉を発した。
僕は学生センターから出て行くことしかできなかった。肩はがっくりと落ちていただろう。

もう僕のあの素晴らしいイラストが描かれたノートはこの世に存在しない。どこか彼方に消えてしまったのだ。涙がツーと頬をつたる。
その日は雲一つない晴れで、冬の冷たい空気もスキップするような良い天気だった。
そんな世界に僕一人、なぜこんな罰を背負わねばならないのだ。

その後、授業に行く機にはなれず、昼飯にラーメンを食べていた。そこでふと思った。
ノートがこの世から消えるなんてそうそうなくないか?普通ノートを拾ったら中身を覗くにしても忘れ物センターに届けるか、もしくは近くの机に置いていくだろう。わざわざゴミ箱に捨てる奴なんているか?
もしかしたら僕のノートを拾ったのは僕と同じ生粋のリョナラーなのではないか?そして、彼は僕のイラストを見て感銘を受けたのかも知れない。「これだ!これが見たかったのだ!」と。
だとしたら、僕のイラストはその彼が所有しているのかもしれない。
そう思うと、悲しみはふっと消え去り、一筋の光が差し込んだ。

この大学には僕と同じ人間がいるのだ。
それは僕を肯定してくれることとなった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?