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2023年 モンゴル訪問の記録
昨年(2023年)8月、私は初めてモンゴルへ行きました。そして今年(2024年)も行きます!出発を目前にして、昨年の旅の記録を振り返ってみました。
以下の文章は、昨年秋にZINEとして販売したものですが、一部加筆・修正して公開します。※後半は300円で読めます。
モンゴル武者修行について
昨年も今年も、私が参加したのは「モンゴル武者修行」というワークショップ。モンゴル遊牧民から衣食住の技術や馬術を体得することを目的に、2007年より実施されています。→公式ページはこちら
旅出を決めるまで
5月。「今年のモンゴル武者修行 エントリー受付中!」という情報が目に飛び込んできた。「ナリワイ」の伊藤洋志さんの発信だ。そういえば、以前「ナリワイ」関係で知り合った方が「モンゴル武者修行、めちゃくちゃ良かったですよ!」と言っていたなあ。モンゴルに行くのもいいかもしれない、と思った。
私はそのとき、コロナウイルスによる移動制限が緩和されつつあるなか、4年ぶりの海外旅行を画策していた。5月末で仕事を辞める予定で、次の仕事をすぐに探す気分でもなかったので、どこか行ったことのない場所へ行って気分を変えたいと思った。行き先の第一候補は南米だったが、調べてみると、治安の問題で個人旅行は難しいようだった。添乗員付きツアーは一人あたり80万円という気が遠くなるような金額で、南米は無理か…と諦めていたタイミングだった。
さて、伊藤さんの発信を見て、直感的に「これだ!」と思い、まず武者修行の募集ページを詳細に読んだ。過去の参加者の感想がいくつも並んでいる。遊牧民との交流、満天の星空を眺めたこと、とにかく全部良かった、などの熱いコメントが並んでいる。私も星空を見たいなあ、と思った。日本では滅多に見られないし、夫は鳥目で星がまったく見えない人なので「見て、星が綺麗だよ!」と伝えても感動を共有することができなくてちょっと寂しいのだ。こういう場なら、他の参加者と星を眺める感動を共有できるかもしれない。
それから、草原でホーミー(喉歌。モンゴルの伝統的な歌唱法)を聞いてみたいと思った。私は高校生の頃、初めての沖縄で、移動中のバスの中で流れる沖縄の定番曲を聞き「この土地で生まれたのがこの音楽なんだ!」と突然腑に落ちて、いたく感動したことがある。その土地の植物の色、匂い、湿度などを体感しないとわからないことがあるのだ。それ以来、土地と音楽は繋がっているという認識がなんとなく頭の中にあった。ホーミーはこれまで日本で聞いたことがあるが、あの独特の音色をどうしても「美しい」と感じられたことがなかった。現地でホーミーを聞いたら、どんな感じなのだろうか。
そういうわけで、乗馬はほぼ初心者の私は、星空とホーミーを目的にこのキャンプに参加することに決めたのだった。
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旅程と移動手段
旅程
1日目 東京からウランバートルへ飛び、その後草原へ
2~5日目 草原で過ごす
6日目 草原からウランバートルへ
7日目 ウランバートル都市探索
8日目 ウランバートルから東京へ
日本からモンゴルまでは、成田—ウランバートル間に直行便がある。所要約5時間。関空から韓国経由でウランバートルへ行くことも可能だが、この八月はコロナ禍明けということもあるためか関空発のチケットを確保できず、成田から飛ぶことになった。
ウランバートルから滞在先の草原までは、約100キロの道のりを、手配してくれていた車で移動する。都市には鉄道や地下鉄がないため、移動はすべて車となる。当然、通勤時間帯には大渋滞が生じる。この100キロの道のりは、空いていれば1時間ほど、渋滞に巻き込まれれば3時間ほどかかるという。
私たちが到着したときも渋滞で3時間ほどかかった。車内でうとうとしていた間に、車は幹線道路を外れ、道なき道(真っ暗闇なので何も見えない。そもそも辺りは草原しかない)を進んでいた。本当に辿り着くのだろうかと不安になったころ、ヘッドライトに照らされる柵が見えた。こうして私たちは目的地のツーリストキャンプに到着した。
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草原にて
馬で草原を駆ける
草原では基本的に午前も午後も馬に乗った。
毎朝、私たちの乗馬をアシストしてくれる遊牧民の方たち4、5人が、馬を連れてキャンプへやってくる。朝10時前、馬を繋いでおくロープのあたりで待っていると、草原の遥か遠くから馬に乗った小さな人影が見え、だんだんこちらに近づいてくる。「あ、あれかな?」と見ていると、ある程度近づいてきたところで、やはりいつもの人だとわかる。馬に乗って駆けてくる遊牧民の人はとても格好がいい。
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これまで競馬を見ても、馬に乗る人を格好いいと思ったことはないはずなのに、なぜだろう。そういえば、と帰国した今思い出したのは「暴れん坊将軍」だ。私が子どもの頃、大河ドラマで松平健さんが主演を務めていた。私が生まれ育った和歌山市は徳川吉宗のお膝元で、なんとなく親近感を抱いてドラマを見ていたのを覚えている。馬に乗って駆けてくる上様と、あのテーマソングはいつでも頭の中で再生することができる。あのシーンを格好いいと感じる感性が、私のうちに眠っていたのだろうか。
さて、馬と人が揃うと、遊牧民の方たちがそれぞれの馬に鞍をつけ、私たちを順に馬に乗せてくれる。一度乗る馬が決まったら、滞在中はずっと同じ馬とのお付き合いだ。私が乗ったのは、きな粉のような色をした少し大きめの馬だった。
皆が馬に乗ったら、参加者五人と通訳さん一人、遊牧民の方々、キャンプのオーナーの計十数名のグループで、草原へと歩き出す。馬に乗って辺りを見渡すと、360度どちらへ行っても草原で、途中で方向がわからなくなってしまいそうだ。こちらの人はどうやって行き先を認識しているのだろうか。車が通った跡のような道らしきものはあるが、道に沿って進む訳でもない。とにかく、ほぼ初めての乗馬なので乗ることだけに集中する。
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1日目は、私たち日本人の手綱は遊牧民の方が持ち、馬を誘導してくれた。遊牧民の方たちは自分の馬をコントロールしながら、他に1、2頭の馬を引いていく。馬同士にも相性があるようで、いつもぴったりとくっついている馬たちもいれば、近づきすぎると相手を蹴りだす相性の悪い馬たちもいる。その日の馬の機嫌によっても変わる。
馬は、歩いている途中で突然ウンチを始める。立ち止まらずに、ブッブッと泥団子のようなフンを尻尾の下からいくつか落とす。前方の馬がフンをし始めたら、そのすぐ後ろの馬に乗っている私の脚にもフンをかけられそうになる。「こっちにはかけないでくれ!」と内心思いながらも、馬の上で下手に動くと馬を驚かせてしまうので、ただじっとしているしかない。ときどき馬が立ち止まってしまうこともあるが、そういうときはおしっこである。
広い草原はカモミールのようなハーブの香りがする。草原に香りがあるなんて知らなかった。馬と触れ合うこと自体もヒーリング効果があるそうなので、草原での乗馬は最高のヒーリングではなかろうか。周囲にはバッタが絶えず飛んでいる。日本では見たことのない虫で、パシッパシッと羽音を立てて弧を描いている。滞空時間がめちゃくちゃ長い。
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出発前、モンゴルの草原へ行ったら、日本のいろんなことが頭に浮かんで考えに耽るのだろうと想像していた。しかし実際のところ、そんなことはない。まずは馬から落ちないようにすること、お尻の痛みに耐えることが必要だ。そして余裕が出てきたら、草原と遥かに見える山を眺め、この空気の感触や匂い、景色を全身で感じることに集中する。
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