「攻撃的二元論」が幻想的な争いと陰謀論を生み出す!カルト教団から日教組、ナチスまで過激派集団の思想“元ネタ”本

――日本では右派、左派ともに過激な思想・行動を特徴とする集団が増加し、アメリカにおけるトランプ政権の誕生は、イスラム原理主義へのカウンターとも見られている。敵味方をハッキリと選り分け、敵対勢力の殲滅をもくろむこれらの過激な組織は、一体どこに思想のルーツを持っているのか?

『世界の「テロ組織」と「過激派」がよくわかる本』(PHP研究所)

 テロや戦争などの過激な行動を起こす集団や国家は、どのような思想的ルーツを持っているのか? 著書『現代オカルトの根源:霊性進化論の光と闇』【1】で、オウム真理教、幸福の科学、さらにはナチスの思想のルーツについて論じた宗教学者の大田俊寛氏に話を聞き、その思想の根源にある書籍を挙げてもらった。

 まず大田氏は「ニーチェやマルクスなどの思想が典型例ですが、危険な思想というのは、概して攻撃的な二元論の性質を帯びています」と語る。

「『自分たちの味方はこういう集団』『敵はこんな集団』と、世界を敵味方に二分し、敵を殲滅すれば理想的な社会が訪れる……という考え方ですね。当然、敵と見なした相手への行動は攻撃的になりますし、自分たちの見えないところで敵側が勢力を伸ばしているという陰謀論にもつながりやすいのが特徴です」

 そして大田氏がさまざまな新興宗教の思想の源流として挙げているのが、ヘレナ・ペトロヴナ・ブラヴァツキーの『シークレット・ドクトリン』【2】だ。ブラヴァツキーは、近代神智学の祖と言われる人物。神智学とは、神秘的直観や思弁、幻視、瞑想、啓示などを通じて、隠された神秘的知識の獲得、高度な認識を目指す、哲学的・宗教的思想のことだ。

 大田氏は神智学の思想を、「霊性進化論」と名付けている。その思想は、生物学的進化論とスピリチュアリズムを融合させることによって成立したものだという。

「霊性進化論は、人間を『霊的な人間』と『物質的な人間』の2種類に分け、霊的な人間が神に向けて進化する一方、物欲にとらわれた物質的な人間は動物に堕落していく、という考え方です。オウム真理教も、『世界を支配する主流派を、動物的種族から神的種族へと入れ替えなければならない』という思想を持っていました」

 その世界観が、地下鉄サリン事件にもつながっていったのだ。また教祖の麻原彰晃は、多くの人が「動物化」する背景に“邪悪な組織”が暗躍しているとし、その存在を『ユダヤ=フリーメイソン』と名指した。

「最近では、“パヨク”(左翼的な思想を持つ人の中でも、悪辣な発言をする人を指すネットスラング)と揶揄されるような幻想的な反体制派も、同じような陰謀論を信じ込む傾向にあります。政権中枢が日本会議と結託し、密かに戦前回帰を目論んでいるといったような考え方が、その一例です。こうした考え方の源流として挙げられるのは、ブルジョワジーの支配の打破、プロレタリアートの団結と暴力革命を提唱した、『共産党宣言』を始めとするマルクス主義の思想でしょう」

 日本教職員組合(通称、日教組)もまた、マルクス主義の影響が色濃い団体とされ、1952年に作られた「教師の倫理綱領」という教師の指針の10箇条には、

「五 教師は教育の自由の侵害を許さない」

「七 教師は親たちとともに社会の頽廃とたたかい、新しい文化をつくる」

「八 教師は労働者である」

「十 教師は団結する」

などの文言が見て取れる。なお、日教組と共産主義の関係については『日教組』【3】が詳しく分析している。

 このような二元論は「本来的自己」を目指す哲学・心理学の中にもあり、現代社会にも脈々と受け継がれている。

「本来的自己を目指す哲学・心理学とは、世の中には『本来的自己に到達した人間』と、『偽りの自己に埋没している人間』がおり、後者は、哲学的・心理学的なトレーニングによって本来的自己に近づかねばならない、とするものです。ユングの初期の代表作である『自我と無意識の関係』や、ハイデガーの『存在と時間』は、その流れに属するものといえます。批判を受けながら脈々と続く『自己啓発』もその延長にあり、過激な自己啓発セミナーでは、暴力によって自己の変革を迫るものもあります。オウム真理教もまた、そのような思想の影響を強く受けていたのです」

 そして、このような二元論が国家体制の根幹にまで及んでしまったのが、ナチス・ドイツの例だ。

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