“特権”に気付いてゲタを脱げるか?「生きづらさ」解体から批判まで……男性学【基】ブックガイド

――「男性学が今アツい」と言われたところで、これまで継続的にジェンダー問題に関心を向けていなかった男性からすれば「なんのこっちゃ」という向きもあるだろう。そこで本稿では、日本における男性学の潮流を追いつつ、読んでおくべき“話題の書”をレビューする。

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『男性学の新展開』(青弓社)

 なぜ今「男性学」に注目が集まっているのか。「#MeToo」や「ブラック・ライヴズ・マター」運動からもわかるように、世界は社会公正を求める流れになっており、個人の差別はもちろん、構造的差別の解消が課題となっている。世界に深く根付いた構造――それは男性優位社会だ。あまりにも自然に優位性を持っているため、自分の「特権」に気づかない男性は多い。また、その構造に組み込まれることで自分自身が害を被っていることにも気づきづらい。

 そうした自覚を促すための書籍が近年増えている。本稿では話題の書を取り上げながら、日本における男性学の大まかな潮流を追いかけてみたい。

 まず前提として、日本において男性学が本格的に議論されるようになったのは1980年代後半だ。フェミニズムの興隆を受ける形で盛り上がりを見せ、続く90年代にはメンズ・リブなどの市民団体が誕生。全国各地の自治体に設置された男女参画センターなどでも「男らしさとは何か」を問う勉強会が行われていた。

 しかし、90年代末~00年代にフェミニズムへのバックラッシュ【注:選択的夫婦別姓への反対や性教育への政治介入、「慰安婦」問題の否定など、保守系政治家や市民団体などによる反・男女共同参画への動き】が始まると、不況による就職難・非正規雇用増加といった社会背景も相まって、「男は仕事、女は家庭」といった性別役割分業を支持する風潮が強まってゆく。同時に男性学も、勉強会や運動の規模を縮小し、後退のフェーズに入ってしまう。

「草食系男子」が再び動かした「男らしさとは何か」議論

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