漱石、芥川など純文小説だけではい! 日露戦の飛び散る肉片描写も!? 戦前ニッポンの本当にヤバい小説
――同時代の売り上げ規模としてはエンタメ系のほうが大きくても、後世まで残るのはほとんどが純文学系の作品。しかし、現在では忘れられてしまっている古いエンタメ作品の中にも、十分読む価値のあるものが多数存在する。そこで、明治、大正、昭和初期の知られざる傑物作家、傑作小説を一挙にご紹介!
『浮雲』(新潮文庫)
夏目漱石、森鴎外、芥川龍之介に太宰治。
国語の授業で取り上げられる戦前の小説というと、だいたいは純文学作家の作品だ。つまらないとは言わないが、どうにも肩が凝る。昔の人は、こんなのばかり読んでいたのだろうか?
いや、そんなはずはない。熱海サンビーチの銅像でおなじみの明治の大ベストセラー『金色夜叉』は超ベタなメロドラマだし、大正にはやったのは「エログロナンセンス」だ。江戸川乱歩が娯楽小説の極みのような『怪人二十面相』を発表したのは昭和11年、バリバリ戦前である。
ということは、戦前にも面白いエンターテインメント小説があったのではないか……。そんな推測を証明するため、戦前の大衆文学に詳しい谷口基・茨城大学人文学部教授に話を聞いた。
「もちろん、戦前にもエンターテインメント小説や大ベストセラーはたくさんありました」
そもそも、江戸期にはすでに一般庶民が戯作、つまりエンタメ小説を楽しむ習慣が根付いていたそうだ。
「しかし明治に入ると、江戸文化は質の低いものと見なされるようになり、西洋の小説作法を日本にも根付かせようとする動きが活発になります」
そこでまず模索されたのが、新時代にふさわしい「文体」だったという。
国語の授業で言文一致運動なるものが明治初期に起こったと習ったのを覚えていないだろうか。二葉亭四迷の『浮雲』とか、山田美妙の『武蔵野』など、テストに出るアレだ。
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