【塚本晋也】衝撃作『野火』の監督が推薦! 優れたドキュメンタリーは“いいトラウマ”を与える

塚本晋也(映画監督・俳優)

1960年、東京都生まれ。『鉄男』(89年)で劇場映画デビュー。『六月の蛇』(03年)、『野火』(15年)など、自ら製作、監督、脚本、撮影、編集などを手がける作品群が、国内外で数多くの賞を受賞している。俳優としても評価が高い。

『ハーツ・アンド・マインズ ベトナム戦争の真実』
(監督:ピーター・デイヴィス/公開:1975年/販売:キングレコード)
戦地での取材映像、ニュースフィルム、政治家や帰還兵のさまざまな証言を通じてベトナム戦争の実像に迫った。第47回アカデミー賞最優秀長編ドキュメンタリー映画賞を受賞。

 戦争ドキュメンタリーといえば『ゆきゆきて、神軍』、『アクト・オブ・キリング』、最近では『沖縄スパイ戦史』などの衝撃作が印象に残りますが、個人的にはベトナム戦争の実像に迫った『ハーツ・アンド・マインズ』が金字塔と言えると思います。映像には、ベトナム戦争当時のアメリカの政治家や官僚のインタビュー、帰還兵たちの証言、村を焼かれ、子どもを殺されたベトナムの民衆の様子などが克明に記録されていて、ここに戦争のありとあらゆるバカバカしさ、愚かしさが詰まっています。

 ここで言うバカバカしさっていうのは、大義を語る権力者と戦地で殺すか殺されるかの戦いをしている一般人たちの温度差みたいなものです。戦争しようって考えるのは昔から権力を持つ人たちで、彼らは資源だとか利権が欲しいだけ。そこで、無理やり考えた大義名分によって洗脳された若者たちが、戦地で内臓が飛び出したり、脳みそが飛び散ったりという目に遭ってるわけじゃないですか。そもそもどうしてそんな愚かなことが歴史上何度も繰り返されているのか――そういうことを考えさせられる映画です。

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