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奢る論争


声劇台本(男2)10分
コメディ

舞台(老人ホーム)
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石田:バブル世代の爺ちゃん。足が悪い。パワハラ・モラハラ・セクハラの3種の悪神器を持つ。
山崎:Z世代の大学卒。家庭の事情で高級老人ホームで働く。女装男子。
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(老人ホーム、石田の個室にて)
石田「姉ちゃん。これでジュース買ってくれ。」

山崎「石田さん、お医者さん指定の飲み物持ってきますね。お金はしまってください。あと私は山崎です。」

石田「はっはっは。買ってきてくれって言っているんだ。ちゃんと人の話を聞きなさい。」

山崎「私がお医者さんから怒られてしまいます。それにどこから持ってきたんですかぁ、そのお金。」

石田「そこに落ちてたよ姉ちゃん。拾っただけだ。ほうら500円だ。」
(チャリンチャリンと床に落ちるお金の音)

山崎「石田さん。500円落とさないでくださいよ。(屈んで拾って)はい。どうぞ。」

石田「(差し出された手をつかむ)手ぇ細いかと思ったら、結構しっかりしてるじゃん。」

山崎「石田さん、お金受け取ってください。そして腕を掴まないでください。」

石田「二の腕太いねぇ。こんな仕事しているからだよ。」

山崎「石田さん。二の腕揉まないでください。セクハラです。そしてお金を受け取ってください。」

石田「可哀想な爺さんに少しくらい付き合ってくれたっていいじゃないか。セクハラだって?胸も尻も触っていない。こんな仕事しているんだからお金が欲しいだろう。それで姉ちゃんのジュースを買いなさい。」

山崎「やめてください。それにお金は受け取れません。」

石田「(カッと怒鳴って机を叩く)奢ってやるって言ってんだろ!!!女は黙って受け取れば良いんだ。」

山崎「怒鳴らないでください。机を叩かないでください。(糊塗して)……さぁ、今日は地元の合唱団が来て歌ってくれますから、ベットから車椅子に移動しますよ。手を組んで私の首にかけてください。」

石田「(怒り冷めやらない感じで)感謝くらいできないのか!!!これだからゆとりは。」

山崎「石田さん、奢ってくださってありがとうございます。あと私はゆとり世代ではありません。さぁ……、手を組んで首にかけて……、せー、のっ。」


(石田がベットから車椅子に移動される。)

石田「こんな大の男1人抱えて移せるんだから凄いもんだ。(意地悪く笑いながら耳元で囁く)良い腰してるよ。」

山崎「(首に回った手を解きながら)少しベットを整えますから、このまま待っててくださいね。」


(バシンッと山崎の尻を石田が叩く。ベットメイクで中腰だった山崎はバランスを崩しかける)

山崎「何するんですか!」

石田「倒れないのか。良い尻……いや良い腰だ。」

山崎「セクハラはやめてください!」

石田「セクハラじゃないだろ。足腰の強さがちょっと気になっただけだよ。なぁ姉ちゃん、ジュース奢ったじゃないか。」

山崎「奢ったからってセクハラしていい訳ではありません。それに私は山崎です。姉ちゃんじゃありません。この500円は返します。」

石田「あげたんだ。俺のじゃない。」

山崎「では落とし物に届けます。もう二度と受け取りません。」

石田「(憤慨して)なんでそんな冷たいこと言うんだ!」

山崎「(少し怒って)冷たくありません。当然のことです!さぁ、ベットメイクも済みました。大広間に行きますよ。」


(大広間にて)

石田「(気分良さそうに)ゆとりはやっぱりダメだな。」

山崎「何がダメなんですか?あと私のことならZ世代です。」

石田「(急にいきりたって)姉ちゃんの話なんかしてないだろ!!」

山崎「失礼しました。どうしてゆとりはダメだと思うんですか?」

石田「(ニチャァと笑いながら)それは……あれだよ。姉ちゃんに言っても若すぎて分からないよ。」

山崎「そうですか。あと、私のことは山崎と呼んでください。」

石田「姉ちゃんが一人前になったら呼んでやる。ま、気長に待っててやるよ。」

山崎「ソレハドウモ。」

石田「(機嫌を良くして)こんな爺さん相手にしてなきゃいけないなんてって思っているんだろ。でも俺がいるから姉ちゃんはお金が手に入るんだ。姉ちゃんは他に取り柄も何もないからな。だから俺の世話している。」

山崎「石田さん。石田さんは女の子から嫌われている自覚があるんですね?」

石田「(怒鳴って車椅子を叩く)石田さん、石田さんと五月蝿い!!!」

山崎「ではどう呼べばいいのですか?」

石田「そのくらい自分で考えろ。」

山崎「……あなたは女の子に避けられている自覚がありますね?」

石田「(不機嫌に黙る)……。なんでそんなことを言うんだ。」

山崎「女性スタッフ全員からNGが出ていますから。」

石田「もっと優しく出来ないのか!!人の世話というのはもっと心を込めてするもんだ。これだから若いやつは。」

山崎「真心込めてお世話していますよ。」

石田「どうだかな。」

山崎「そうですよ。女性好きの石田さんの為に、わざわざ仕事場で女装しているんです。」

石田「……。……じょ。……なんだって?」

山崎「だから私のことは山崎と呼んでください。姉ちゃんじゃなくて。」

石田「いや……今、女装していると言ったか?」

山崎「えぇ。言いました。私は女装しています。」

石田「女装……。」

山崎「はい。女装です。」

石田「つまり男?」

山崎「そうですよ。私は男です。女装した。」


(夕方、車椅子からベッドに移動される石田)

山崎「今日は素敵な一日でしたね。素晴らしい合唱も聞けて、みんなでお歌も歌って、お上手でした。」

石田「アァ……。……ぅん。いや……退屈なだけだ。」

山崎「車椅子からベットへ移動しますよ。せー、のっ。」

石田「……ところで姉ちゃん。」

山崎「山崎です。男です。」

石田「女装しているのは……俺の為か?」

山崎「自分の趣味でもありますけど、仕事場まで女装して来ているのは、石田さんのためでもありますね。」

石田「……こりゃ驚いたよ。化け狐だ。俺のこと好きなの?」

山崎「違います。好きじゃありません。」


(離れぎわに山崎の尻を揉む石田)
山崎「何するんですか!」

石田「結構良い尻しているじゃないか。どうれ。」

山崎「セクハラですよ!!尻を揉まないでください!」

石田「良いじゃないか。減るもんじゃないし。俺の為に女装しているんだろう。」

山崎「石田さんが男性スタッフと口を聞かないからです!!致し方無く私が対応することになったんです!」

石田「なんて酷いことを言うんだ!!」

山崎「それに私は心身ともに男性です!女装が好きなだけで。」

石田「それがなんだって言うんだ!」

山崎「だから、セクハラはやめてくださいって言っているんです!」

石田「セクハラしてないじゃないか!」

山崎「はぁ!?? セクハラしているじゃないですか!」

石田「忘れたのか!合意の上だろう?」

山崎「合意した覚えありませんけど!?」

石田「500円受け取ったじゃないか!」

山崎「あれは落とし物として受付に届けました!」

石田「なんてことをするんだ!俺の500円だぞ!」

山崎「(スッと冷静になって)受付の人から手続きしてください。」

石田「......(ニヤッと笑って)そんなこと言ってまだ持っているんだろう。安月給なのは知っているんだ。」

山崎「いいえ。持っていません。500円は欲しいですが、セクハラと比べられません。明日受付で落とし物の手続きをしましょう。」

石田「今渡せば良いだろう。なのに返さないのは、俺のことが好きなんだろ?」

山崎「受付の子は既に定時で帰っているんです!また明日返します。」

石田「受付に入って取って来たら良いじゃないか。」

山崎「面倒な手続きがあるんですよ。」

石田「500円くらい誰も気にしないよ。(ニヤニヤしながら)仲良くしようや。」


(山崎が伸びてきた石田の手をはたき落とす。)
山崎「(パシッ)触らないでください。」

石田「(カッと激情して)なんだよ!お高く止まりやがって。いつもいつも巫山戯やがって!!俺のこと馬鹿にしているんだろう!!?」

山崎「馬鹿にしていません!もう石田さんのことは知りません!女装は止めます!他の人に世話してもらってください!」

石田「(消沈して)おい。なんてこというんだ。」

山崎「(無言で手早く車椅子を片付ける)……消灯です!」


(ピシャ!と引き戸が閉まる音と共に山崎が部屋を出る)
石田「(ピシャ!)おぉい!……全く。俺の気を引きたいなら別の手を使えよな。まぁ明日には機嫌も治っているだろう」


(翌日。石田の個室)
石田「おとこ……?……出ていけ!!ここは俺の部屋だぞ!!」

山崎「山崎です。」

石田「……山崎?……女装やめちゃったの?」

山崎「仕事場ではもうしません。それから……、あと数ヶ月で新規の女性スタッフを雇いますので我慢してください。そしたら私は辞めますので。」

石田「姉ちゃんが嫌だなんて言ってないじゃないか!なんでだよ!!なんでなんだよ!!!」

山崎「尻を掴まないでください!!それに自分の胸に聞いてください!」


(お昼)
山崎「石田さん。お昼ご飯ですよ。今日は美味しそうなシャケです。」

石田「姉ちゃん……。姉ちゃんは俺のことが好きなんだよな?」

山崎「山崎です。違います。ほらご所望の500円ですよ。」

石田「なんて意地の悪いやつなんだ!!俺の姉ちゃんを返せっ」

山崎「貴方のモノじゃないです。腕を掴まないでください。」

石田「ぁぁ……。でも数ヶ月後には可愛い子が来るんだって?(意地悪く笑いながら)あんたも残念だなぁ、辞めたら働き先がないだろうに。500円あげるよ。」

(チャリンと500円が床に落ちる)
山崎「石田さん。お金を投げないでください。」

石田「投げてないさ。手から滑り落ちたんだ。」

山崎「ソウデスカ。」

(屈んで500円を払う山崎。それを愉悦の表情で見る石田)
石田「女性の姿で1番グッとくるのはやっぱり四つん這いになった姿なんだよ。」

山崎「(サッと立って被せるように)500円は机の上に置いておきますね。」

石田「男の姿じゃイマイチだ。なぁ。女装してくれよ。奢ってあげるから。」

山崎「もうしません。ジュースも結構です。」

石田「冷たいやつだ。新しい女の子が楽しみだなぁ。」

山崎「セクハラしないでくださいよ。嫌がられたらまた男性スタッフになりますからね。」

石田「(カッと怒鳴って)うるせえよ!!!お前にはもう関係ないないだろ!!」

山崎「心配しているんですよ。1人になってしまうのではないかと。」

石田「心配?心配なら自分で世話するべきだろう!この無責任なやつめ!クソ女が!!」

山崎「落ち着いてください。暴言はやめてください。それから何度も言いますが私は男ですし、恋愛対象は女性です。」

石田「お前の心は女だ!!!……俺のこと好きだろう?」

山崎「違います。心も男ですし女性が好きです。」

石田「女装する男なんてモテないだろう。」

山崎「彼女いますよ。」

石田「そんな、またまた。見え透いた嘘付いて。」

山崎「本当です。3年付き合う彼女がいます。」

石田「3年ねぇ……。別れどきだな。3年付き合って結婚してないなら破局するもんだ。」

山崎「適当なこと言わないでください。順調ですし次の仕事場で上手くいったら結婚する約束もしているんです。」

石田「次の職場ねぇ……。」

山崎「さぁ、お昼ご飯を食べてください。」


(夕方、石田の個室)
石田「次の仕事場はどこなんだい。」

山崎「化粧品系ですよ。」

石田「ふーん。すりすり(山崎の尻をイヤラしく撫でる)」

山崎「(パシッ)尻を触らないでください。」

石田「良いじゃないか。減るもんじゃないし。」

山崎「私の心が擦り減ります。」

石田「(ニチャァと笑って)男なら……分かるだろう。男っていうのは女の尻を触らないと働く気力が出ないんだ。女の尻を触ってこそ毎日働けるのさ。」

山崎「女性じゃないし、セクハラの理由になりません。や・め・て・ください。」

石田「いや?なかなかまろくて良い尻だ。弾力はあるが硬すぎない。女の尻みたいだ。」

山崎「(静かに怒って)いい加減にしろよ。」

石田「姉ちゃん。そう怖い顔すんなって。優しくしてよ。天涯孤独の身なんだよ俺。子どもには恵まれず、妻にもサッサと旅立たれちまった。」

山崎「ハァ……優しくしてますよ。これ以上ないくらいに。それにしても奥さん居たんですね。」

石田「失礼だな!若い頃は本当にモテてモテて。」

山崎「モテて……(ちょっと意地悪く)奥さんのお尻以外も撫でたんじゃないですか?」

石田「当然だろう?触りまくったさ。だが後妻をとろうとした時、何故か上手くいかなくてな。」

山崎「そりゃそうでしょうよ……。」




つづく。

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