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『挑む女』

「女じゃダメだっていうのかい?」
それはあんまりにもアナクロだろう。
あたしはその男に言ってやった。

テクはある。
スタミナもある。
そのうえ口じゃ負ける気がしないとくれば、モノがついてないことの何が悪いというのだ。

「だいたい、酒場の貼り紙には女はダメなんてひとっことも書いてなかった。愛車ブッとばしてはるばるここまで来たってのに、今さら追い返されるなんてゴメンだね」
あたしはふんと鼻を鳴らして腕を組んだ。
意地でもここを動かないという意思表示。

「でもねえ、あんた、てっきり男がくるもんだとばっかり思ってたもんで。貼り紙、見たんだろ?ありゃ女のヤマじゃねぇ」
「そんなのあんたや親方が決めることじゃないだろ!あたしがやるって言ってんだよ!」
男はあたしの口から飛び出すマシンガンに圧倒されたのか、押し黙った。

あと一息だ。

カウンターに詰め寄り、額をかち割わらんばかりに顔を寄せると、一気にたたみかけた。
「なぁあんた、とりあえず、やらせなよ。あたしの腕前を見てから決めたって、何も悪いこたないだろ?逆にあれだ、もしあたしがロックな腕の持ち主で、それをあんたが追い返したのがバレたら?……親方はなまくらなあんたをこのままここで雇うと思うかい?」
男はぶるりと震えた。
親方から飛んでくる怒号がちらついたのか、青っちろい顔で、引き出しから一枚の紙を引きずり出した。

「……もってけ。でもなぁ、あんた」

よっしゃ!賞金ロックオン!

男の話を無視してあたしは心の中で叫んだが、さも当然とばかりに差し出された紙を引ったくった。
「あんたが話がわかる奴でよかったよ。じゃなきゃ、あたしの相棒が黙っちゃいなかった」
そう言って、腰のベルトから羽ペンを引き抜くと、壁に貼られたフライヤーのど真ん中に突き立てた。

「女も古くなれば愛嬌より度胸だ。見てな、相棒を唸らせて、男どもを蹴散らしてやるよ」
 
 (続く)

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