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『愛の証明』(BL表現あり)

『この鏡は何でも答えてくれるらしい。
「鏡よ鏡。世界で一番――」
 
さて、何を聞こうか。』

から始まる物語を書く、というお題から書いたお話。
主催:てんつぶ様
発案・書き出し文:猫宮 乾様
BL縛り。
白雪姫をベースにすること。
『毒林檎』を必ず入れること。


この鏡は何でも答えてくれるらしい。
「鏡よ鏡。世界で一番――」
 
さて、何を聞こうか。


「どう、少しは進んだ?」
 ハルが淹れたてのコーヒーを持ってきてくれた。
 僕はお気に入りの鉛筆をくるりと指先で回して、振り返った。
「なかなか、ハードだね。ぜひ先生の感性で新しい白雪姫を、なんて誘い文句に騙されたふりして引き受けてみたけど、……古典作品のパロなんて世の中には腐るほどあるし」
「まあね、ハードルは高いよね」
「視点の変換、どこに重きを置くか。……やっぱりポイントは毒林檎と目覚めのキスかな」
「それは、はずせないよね」
「ハルだったらどうする?」
「俺?そうだな、聞きたいのは、世界で一番俺を好きなのは誰か。それと、愛する人のためなら、毒林檎だって食べられるか、って感じかな」
「さすがハル、売れっ子アイドルしてるだけあるね。毒入りとわかってても食べるのは、愛の証明ってやつか」

 愛の証明、これは使える。
 白雪姫が自分の父親を信じつつも、森をさ迷い、差し向けられた刺客と向き合い、自分が死ぬことで父親が幸せになれるのなら、と考えたとしたら。けなげな白雪の姿に全米が泣く。
 
 それにしても、と僕はハルのイケメン思考の徹底ぶりに感心しながら、コーヒーを飲んだ。
 いつもより、少し苦い。舌がざらざらする。ハルの淹れたコーヒーにしては、変だな。
 後ろから肩に手を置いたハルが僕を覗き込む。

「だから、さ。ナツもこのコーヒー、全部飲んで、愛を証明してよ」
「え?……ハル、まさか!」

 僕の全身から血の気が引いていく。
 ガラスのように冷たい床の感覚が足元からせりあがってくる。

「うそうそ、大丈夫、ただの睡眠薬だよ。ナツ、最近全然寝てないじゃん」
「まっ……」

 僕は最後まで言い切ることができず、まぶたを閉じた。
 鉛筆が指から滑り落ち、ドロリと思考が溶けていく。肩にかけられたタオルケットと共に抱きしめられた感触はもう、夢との判断がつかない。

「大丈夫、王子さまに負けないくらい熱いキスで起こしてあげるから」

 ハルが優しく笑う声が、シャットダウン寸前の僕の脳の中で渦巻いた。
 

#書き出し白雪姫