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JTACとはー II 計画と要請

この記事は第II章です。前回の近接航空支援を支える統合末端攻撃統制官 (JTAC) とはー I 指揮と統制をご覧になっていない方は、先にそちらを読むことをお勧めします。

 近接航空支援には大きく分けて以下の3つのフェーズが存在します。

Plannning  Phase (計画)
目標の特定から指示、攻撃方法の選定を行い、支援機を要請します。
Preparation Phase (準備)
計画の検証と予行、準備、通信、移動、観測を行います。
Execution Phase (実行)

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近接航空支援のタイムラインの長大なモデル。

 今回はその最初の段階である Plannning Phase について、JTAC にまつわる箇所を解説していこうと思います。

 なお、ここから先で頻出する全て大文字で書かれた略語でない英単語はBrevity Words という米軍の航空作戦用語です。これらには辞書の意味とは異なる特定の意味が存在します。形式化された用語であるため、それ以外の単語を使って同じ状況を表現しようとしたり、また、異なった意味で使ってはいけません。

II.1 近接航空支援の計画立案

 近接航空支援はなにも JTAC がいきなり航空機に指示を出すわけではありません。

 まず、地上指揮官と TACP のメンバーである AO (Air Officer) と ALO (Air Liaison Officer) が中心となって、作戦地域に展開している航空機や管理空域についての情報を収集します。彼らは部隊の作戦目標はもちろん、敵の配置や地形、民間人の有無など作戦に関わるありとあらゆる情報を精査し利用可能な近接航空支援について検討します。

 敵脅威の把握や攻撃目標の優先順位、JTAC の展開位置に加え、必要であれば SEAD (敵防空網制圧) の調整などを行い、確実な近接航空支援の実現のために数多くのプロセスを経て計画が立案されます。

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計画フェーズのモデル。大半は JTAC よりも遥か上位の士官たちによって決定される。

 近接航空支援の計画は支援を受けるであろう地上部隊が任務に就いた時から始まっており、数多くの士官と関係機関との調整を経て、最終段階でようやく JTAC に役割が与えられるのです。

II.2 計画段階におけるJTACの役割

 それではこの計画段階における JTAC の役割とは何なのでしょう。どちらかというと JTAC は近接航空支援の”末端”である Execution Phase (実行) でその主たる役割を果たしますが、計画段階においても責任を求められます。そしてそれらは全て Collateral Damage (付随的損害) を最小限に抑えるということを目的としています。

 戦場におけるコラテラルダメージの主な原因は不完全な Positive Identification によってもたらされます。PID というのは「攻撃対象が戦争法と交戦規定によって敵と認められる確実性」、もっと簡単に言うと「確実に敵である可能性」のことです。近接航空支援の成功には確実な PID と正しい状況が不可欠です。

 近接航空支援の最終段階である攻撃の制御を任される JTAC にとって、コラテラルダメージを最小限に抑えるために以下のような原因の理解と適切な対処が求められます。

1. 標的と民間人の認識不足
 コラテラルダメージの原因の一つに攻撃対象の認識不足が挙げられます。具体的には攻撃対象が確実に敵であると特定できない、敵の位置を確実に把握できない、また標的の近くの民間人を認識できないことなどを指します。

 JTAC はこれらを避けるために、民間人の生活パターンを考慮して指揮官に伝えます。また、他の偵察部隊や JFO、映像データリンクなどを用いて間接的に目標を指示する場合は特に注意が必要です。
2. 不適切な兵器の使用
 兵器の種類と信管の設定及び攻撃方法などは全て、被害の程度に大きく影響します。よって、目標の達成、友軍の保護、そしてコラテラルダメージとなりうる民間人やその他の建造物の近さなどを考慮して選択する必要があります。

 JTAC は地上部隊の指揮官が許す限り、なるべく小威力かつ高精度で破片の飛散が少ない兵器を選択します。また、破片の飛散を抑える遅延信管や、建造物の貫通と爆風の影響を和らげる空中炸裂信管など、コラテラルダメージを最小限に留めるための信管設定を使用します。しかし、このような信管の設定は不発弾となるリスクを高めたり、兵器の効果が低下する恐れがあります。さらに、着弾位置をずらすことで他への被害を和らげたりします。
3. 兵器の誤作動と人為的ミス
 あらゆる兵器の誤作動、また誘導や離隔の失敗を考慮に入れた攻撃進入する方位の決定に不備があれば、副次的被害をさらに拡大させる恐れがあります。

 これを避けるために、友軍と攻撃目標以外の建物や民間人を考慮に入れて航空機の攻撃進入方位を決定します。これにより万が一誘導に失敗したとしても他への被害を防ぐことができます。

 この他にも、コラテラルダメージの可能性があるにも拘らず、標的の戦略的重要性が高いために攻撃命令が下されることがあります。JTAC はこのような場合においても、ありとあらゆる手段を講じることで標的の確実性を高め、作戦目標の達成に貢献しています。

II.3 武器の使用権限とクリアランスコール

 ここからは実際に JTAC が航空機に指示を出すなかで利用される要素について紹介します。まずは武器の使用権限についてです。

 作戦において武器の使用許可を出すのは現場指揮官ですが、JTAC はこの一部の権限を委任されることで、その範囲内において攻撃を許可することが可能です。JTAC が用いる武器使用の符号のことをクリアランスコールと言い、それには以下のようなものがあります。

ABORT
攻撃中止。全ての管制方式において使用されます。
CONTINUE

進入継続。全ての管制方式において、攻撃のための進入を継続させるために発令します。
CONTINUE DRY
進入継続。全ての管制方式において、訓練や威嚇のための模擬的な攻撃をさせるために使います。
CLEARED HOT
攻撃許可。Type 1もしくはType 2 Control において、航空機に特定の目標に対してのみ武器の使用を許可するときに使います。2機以上の編隊に対して与える場合はコールサインの後に"flight"と付けてから使用する必要があります。
 (例:"Ragin 41, flight, CLEARED HOT.")
CLEARED TO ENGAGE
交戦許可。Type 3 コントロールにおいて JTAC によって指示された範囲内の敵を攻撃する許可を与える用語です。こちらは編隊に対してもそのまま使用できます。

 ”CLEARED” という単語は、クリアランスコールのなかで実際に武器を使用する場合にのみ用いられます。こうすることで ”CONTINUE DRY” において間違って攻撃するのを避けることができます。また、誤爆を防ぐために上記以外の方法で指示してはいけないという決まりがあります。

II.4 Types of Control

 JTAC の役割を理解する上で不可欠なのが Terminal Attack Control です。これは標的を攻撃するにあたって、JTAC から航空機に伝えられる管制と攻撃の権限のことです。近接航空支援の手順については全て形式化されており、JTAC はそれに則って攻撃指示を与えることになります。まずは、Types of Control と呼ばれる、航空機を管制し攻撃を統制する方法について解説します。

 航空機を管制する方式は3種類に分けられ、作戦目標や友軍の位置、付随的損害のリスクなどの要素によって決定されます。JTAC はまず、具体的な攻撃内容を伝える前にゲームプランの一部として使用する管制方式の種類を航空機に伝えます。

 なお、以下の説明の中で登場する用語について先に解説を挟んでおきます。

"ゲームプラン"
使用する Types of Control と Methods of Attack を含めた攻撃の流れを簡潔にまとめた情報
"CAS Brief"
攻撃に必要な具体的な情報を形式的にまとめたもの。9-line とも呼ばれる
”Restriction”
CAS Brief に含まれない攻撃を制限する付帯的な情報
"Correlation"
JTAC が指示した標的とパイロットが捉えている標的が一致しているかどうか確認する作業
”9-Line”
9行から成る攻撃に必須な形式化された情報
 Line 1 攻撃進入の起点とするIP
 Line 2 IPから標的への方位 (度)
 Line 3 IPから標的までの距離 (海里)
 Line 4 標的の高度 (フィート)
 Line 5 標的の種別
 Line 6 標的の座標
 Line 7 標的のマーキングの方法
 Line 8 最も近い友軍部隊の位置 (4方位とメートル)
 Line 9 離脱方法

Type 1 Control

・JTAC はそれぞれの攻撃ごとに許可を出す必要があります。
・JTAC は攻撃する航空機と標的の両方を目視確認する必要があります。

 この Type 1 Control の目的は、JTAC が航空機の攻撃姿勢を目視することで兵器の投下から着弾までの軌道を予測し、意図しない場所への被害を防ぐことです。

 Type 1 Control が使用される例として、多国籍軍の航空機を管制するときの言語の壁があるときや、攻撃に関わるシステムを運用する自信が無いとき、また、悪天候など航空機パイロットの操縦能力に不安があるときなどが挙げられます。

 なお、GPS/INS 誘導の兵器を使用するときは Type 1 Control を使うべきではありません。これらの誘導兵器は航空機の姿勢に関係なく入力した座標に向かって飛行し、JTAC がその軌道を予測することはできないためです。

 また、JTAC が航空機を目視で確認できない場合、確認できるように航空機は攻撃進入の飛行姿勢を変更する必要があります。

 Type 1 Control の手順は次のようになります。

① JTAC が標的を目視で捉えます。
② JTAC は攻撃する航空機パイロットにゲームプランと CAS Brief (近接航空支援の具体的な内容) を伝えます。
③ パイロットはさまざまな手段を利用して、正しく標的位置を認識できているか確認します。
④ パイロットは 9-line のうち、Line 4 と Line 6、そして JTAC から指示された Restriction (攻撃に関する制限) を復唱します。
⑤ JTAC は必要であれば Correlation を実施します。
⑥ パイロットは必要であれば "IP INBOUND" (IP進入) と通達します。
⑦ パイロットは ”IN” (攻撃進入) を通達して攻撃の最終段階に入ったことを知らせます。JTAC はこれと併せて方位を報告するようパイロットに要求することがあります。要求するのは手順2か4のときです。
⑧ JTAC は攻撃進入した機体を目視で確認します。
⑨ JTAC は機体の姿勢から、攻撃が副次的損害を引き起こさないかどうか判断します。
⑩ JTAC は "CLEARED HOT", "CONTINUE DRY", "ABORT" のいずれかを命令します。

Type 2 Control 

・JTAC はそれぞれの攻撃ごとに許可を出す必要があります。
・JTAC は
攻撃する航空機を必ずしも目視確認する必要はありません。
・JTAC は攻撃する標的を目視確認するか、それが不可能な場合は他から標的の正確なリアルタイムデータを取得する必要があります。

 Type 2 Control が使用されるのは、地上部隊が標的と接敵しているとき、夜間や悪天候のとき、また、高高度からの攻撃やスタンドオフ兵器を用いるときなどです。

 Type 2 Control の手順は次のようになります。

① JTAC が標的を目視で捉えるか、他の部隊などから標的の正確なリアルタイムデータを受領します。
② JTAC は攻撃する航空機パイロットにゲームプランと CAS Brief (近接航空支援の具体的な内容) を伝えます。
③ パイロットはさまざまな手段を利用して、正しく標的位置を認識できているか確認します。
④ パイロットは 9-line のうち、Line 4 と Line 6、そしてJTACから指示された Restriction (攻撃に関する制限) を復唱します。
⑤ JTAC は必要であれば Correlation を実施します。
⑥ パイロットは必要であれば "IP INBOUND" (IP進入) と通達します。
⑦ パイロットは ”IN” (攻撃進入) を通達して攻撃の最終段階に入ったことを知らせます。JTAC はこれと併せて方位を報告するようパイロットに要求することがあります。要求するのは手順2か4のときです。
⑧ JTAC は"CLEARED HOT", "CONTINUE DRY", "ABORT" のいずれかを命令します。

Type 3 Control 

・JTAC は特定の制限を設けることで複数回の攻撃を許可します。
・JTAC は攻撃する標的を目視確認するか、それが不可能な場合は他から標的の正確なリアルタイムデータを取得する必要があります。

 Type 3 Control は Type 2 Control に近いですが、指定された範囲内の目標に対して複数回の攻撃を許可することができます。またこのとき、Type 3 Control 特有の制限を設ける必要があります。例えば攻撃時間枠の指定 (TOT: Time On Target) や、地理上の制限区域 (ACA: Airspace Coordination Area)、最終攻撃方位 (FAH: Final Attack Heading) などです。指定された範囲内の目標は全て、関連する機関の承認を受けている必要があります。

 Type 3 Control の場合、JTAC は "CLEARED TO ENGAGE" と言って武器の使用を許可するか、"Type 3, CONTINUE DRY" と言ってそのまま進入を継続させるかを選択します。

 また、意図しない対象への被害を可能な限り減らすため、可能であれば航空機の攻撃姿勢を目視確認します。そして、交戦許可の有用性を維持するために、無線通信もしくはその他のデジタル情報を確認、監視し続ける必要があります。

 Type 3 Control の手順は次のようになります。

① JTAC が標的を目視で捉えるか、他の部隊などから標的の正確なリアルタイムデータを受領します。
② JTAC は攻撃する航空機パイロットにゲームプランと CAS Brief を伝えます。CAS Brief には攻撃区域、また制限もしくは禁止区域攻撃時間枠も必要です。
③ パイロットはさまざまな手段を利用して、正しく標的位置を認識できているか確認します。
④ パイロットは 9-line のうち、Line 4 と Line 6、そして JTAC から指示された Restriction (攻撃に関する制限) を復唱します。
⑤ JTAC は必要であれば Correlation を実施します。
⑥ 航空機が目標を確認し攻撃可能になったら、JTACは ”CLEARED TO ENGAGE” もしくは "Type 3, CONTINUE DRY" と命令します。
⑦ パイロットは最初の武器使用の前に ”COMMENCING ENGAGEMENT” (攻撃を実行する) と JTAC に通達します。
⑧ JTAC は利用可能なあらゆる手段 (目視、映像、無線、デジタル情報など) を監視しながら交戦を継続させます。JTAC の指示が無い限り、パイロットは他の報告をする必要はありません。
⑨ パイロットは "ENGAGEMENT COMPLETE" と JTAC に報告します。

 以上が3種類の管制方式の解説です。これらの決定も近接航空支援の作戦の一部であるため、変更するには作戦を認可する上級部隊と調整して承認される必要があります。もし変更となった場合は、Type 1 及び Type 2 Control の "IN" コールの前、Type 3 Control であれば ”COMMENCING ENGAGEMENT” の前に通達しなければいけません。これらのコールの後に変更する場合は、"ABORT" で攻撃を中止してから行う必要があります。

II.5 Methods of Attack

 Types of Control とは作戦目標や友軍の位置、付随的損害のリスクなどの要素によって決定される3種類の管制方式のことでした。それと併せて計画される重要な要素がこの Methods of Attack です。日本語に直訳すると”攻撃の方法”ですが、それでは的確な意味が伝わりにくいため原語のまま説明します。

 これは簡単に説明すると ”標的を確認して攻撃” なのか ”標的の座標に攻撃” なのかの違いです。前者を Bomb on Target、後者を Bomb on Coordinate と言い、BOTの場合、パイロットが標的そのものを目視やカメラなどで視覚的に確認 (TALLY/CONTACT/CAPTURED) する必要があります。

TALLY
標的の位置が確認できていること
CONTACT
レーダーやカメラなどのセンサーが目標を探知すること。特定の参照点を目視したこと
CAPTURED
地上標的を特定し、搭載したセンサーで追跡可能なこと

 JTAC は Types of Control で説明した管制方式のうちどれを使用するかパイロットに伝え、それに続けてこの Methods of Attack、つまり BOT か BOC のどちらかを伝えます。そして攻撃に必要な標的の情報を簡潔かつ的確に伝えて、パイロットが正しく目標を捉えているか確認します。この確認作業のことを Correlation と言います。

 BOT と BOC の使用を間違えると混乱の元となり、コラテラルダメージを発生させかねないため、作戦状況に相応しいほうを選択することが重要です。

Bomb on Target

・JTAC から要求されない限り、Line 4 と Line 6、及び Restriction を復唱する必要があるのは編隊長機のみです
・JTAC が指示している標的をパイロットが視覚的に確認している必要があります

 BOT の利点は静止したり移動したりするような機動目標 (Mobile target set) を攻撃するのに適しています。パイロットが標的を捕捉できるようにJTAC は標的の種類や特徴などを簡潔に伝える必要があります。

 包括的な作戦の中で BOT が計画されている場合は、標的を捕捉する作業に費やす時間を無駄にしてはいけません。これらが遅れると攻撃時間が伸び、結果的に攻撃のチャンスを逃すことになります。

 なお、BOT を使用する場合は以下の点を全て満たしている必要があります。

・パイロットが TALLY/CONTACT/CAPTURED している
・航空機が継続して標的を捕捉できる低脅威環境
・低TLEを確立できない、もしくは必要ないとき

 TLEというのは Target Location Error の略で、特定した標的の位置と実際の標的の位置との誤差の度合いのことです。TLE が低いというのは誤差が少ない、すなわち高精度で捕捉しているということになります。例えば戦闘機に搭載された目標指示ポッドでは CAT II の座標精度が生成できます。

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TLE のカテゴリーと実際の目標が位置する確率

 BOTは航空機によって照射されたレーザーを利用して誘導爆弾を投下する場合や、雲の下から目視確認した標的に無誘導爆弾を投下する場合、ロケットや機関砲を使用する場合などに使われます。

Bomb on Coordinate

・攻撃する全ての航空機は Line 4 と Line 6、及び Restriction を復唱する必要があります。Line 4 と Line 6 においては武装に入力されたものをそのまま読み上げます。

 BOC は特定の座標に対しての攻撃が標的に効果的な被害を与えられると判断された場合に用いられます。そのため、使用する座標は高精度でなければいけません。

 また、BOC ではパイロットが標的を捕捉する必要が無いため、より安全な位置から素早く攻撃を行うことができます。

 パイロットは JTAC から伝達された座標を武装やナビゲーションシステムに入力するために細心の注意を払う必要があります。また、復唱する場合は先ほど入力した、システムに表示されている数字をそのまま読み上げます。一度復唱したあとは入力した座標を変更してはいけません。

 BOC を使う例として、誘導爆弾を JTAC や他の地上部隊が誘導する場合、雲の上から目視確認無しで無誘導爆弾を投下する場合などがあります。

II.6 回転翼機による近接航空支援 [未]

II.7 爆撃機による近接航空支援 [未]

II.8 無人機による近接航空支援 [未]

II.9 AC-130による近接航空支援 [未]

II.10 近接航空支援の要請

 近接航空支援の基本的な理論と方法を理解したところで、次は実際の流れに即した解説に入っていきます。

 近接航空支援の要請には2つの方法があり、1つが事前に計画されたもので、もう一つが即時の緊急要請です。

Preplanned Requests

事前計画要請の概念図。実線が要請、破線が対応を表す。

 ATO の作成よりも前に要請される近接航空支援は全て Preplanned Requests (事前計画要請) として処理されます。ATO というのは Air Tasking Order の略で、当該作戦地域に出撃している航空機のコールサインや種別、任務などをまとめた資料のことです。

 作戦目標の達成に必要な障害などを排除するために、部隊単位で要請され、その優先度、標的の種別、場所、望ましい攻撃効果などの詳細な情報と併せて上級部隊の本部に提出されます。

 各部隊本部の近接航空支援計画の担当者は、下級部隊からの要請を統合し、承認または不承認とします。必要があれば更に優先度を変更し、ATO 計画に含めるために JAOC (統合航空作戦センター) に転送します。

Immediate Requests

 上記の事前計画要請に含まれない近接航空支援要請は全て即時要請、すなわち JTAR (Joint Tactical Air strike Request) として処理されます。最前線にいる最小単位の部隊は TACP を通じて ASOC (航空支援作戦センター) もしくはDASC (直接航空支援センター) に JTAR を送信します。中間に存在する各本部の ALO/AO/FSO はこれらの要請内容を監視し、問題があれば介入して要請を却下することもできます。

 これらの各 JTAR には以下の優先順位が割り当てられます。

Emergency # 1 (緊急事態 # 1)
即時対処が必要で他の全てのカテゴリーより優先される標的
Priority # 2 (優先度 # 2)
即時対処が必要でルーティン標的より優先される標的
Routine # 3 (ルーティン # 3)
緊急性のない標的

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即時航空支援要請の実行プロセス。数字に対応した流れは以下の通り。
① 前線の部隊が標的を探知
② 指揮官が近接航空支援の要請を決定
③ 地上部隊が TACP に通達
④ TACP は ASOC/DASC に要請を転送
空軍の ASOC と海兵隊の DASC はそれぞれ、地上部隊を直接支援する航空作戦の指揮統制を行う管制機関。
⑤ 仲介役の TACP は標的を監視し、必要であれば詳細情報を取得
⑥ ASOC/DASC は地上部隊本部と標的情報を共有、調整
CRC は ASOC, DASC, AWACS, JSTARS の調整を行う。
⑦ ASOC/DASC は待機中の近接航空支援機がいれば WOC に、そうでなければ AOC/TACC に航空機のスクランブルを要請
WOC は C2 ユニットを提供する空軍の機関。
AOCは WOC の上級組織で、C2 ユニットと他機関の調整などを行う。
待機中の近接航空支援機がいなければ AOC/TACC は WOC に航空機のスクランブルを要請
Navy TACC は上陸部隊の航空支援を統制する。
Marine TACC は MAGTF の航空作戦を指揮統制する。
⑨ AWACS/CRC/ASOC/DASC は支援に割り当てられた航空機を管制/接触ポイントまで誘導
⑩ 管制/接触ポイントまで近づいたら適切な C2 (指揮管制) 局が航空機に対して JTAC に連絡を取り、状況の更新内容を取得するよう伝達
⑪ JTAC が航空機に CAS Brief を伝達
⑫ 航空機がIPに到着
⑬ JTAC が航空機を管制
⑭ 攻撃実行
⑮ 被害評価

 これら2つの違いは主に、JTAC よりも上位の組織のなかでの対処の方法にあり、JTAC にとっては関係の薄い話かもしれません。


 以上が近接航空支援の最初の段階である Planning Phase (計画) です。実際に計画を作成する話は次回の Preparation Phase (準備) でも出てくるため、こちらはそれら計画立案の根幹となる理論や方法の解説と理解してもらえれば良いでしょう。

第III章は以下からアクセスできます。

近接航空支援を支える統合末端攻撃統制官 (JTAC) とはー III 準備

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