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色川武大のファッツ・ウォーラー

ひとり者のラヴ・レター

第9章の標題曲は「ひとり者のラブレター(I'm Gonna Sit Right Down and Write Myself a Letter)」=aka「手紙でも書こう」。また「眠そうな二人(Two Sleepy People)」にもスポットが、この2曲がこの章でのメイン、ともにファッツ・ウォーラー[Fats Waller]でもお馴染み、つまりそのフィーチャー回。

まず「ひとり者のラブレター(手紙でも書こう)」、公式で。

音源ルーツ、おそらく1935年の録音。編成、ハーマン・オートリー[Herman Autrey]トランペット、ルディ・パウエル[Rudy Powell]クラリネット、アル・ケイシー[Al Casey]ギター、チャーリー・ターナー[Charlie Turner]ベース、ハリー・ダイアル[Harry Dial]ドラム、そしてボーカルとピアノはファッツ・ウォーラー。

次「眠そうな二人」、公式で。

音源ルーツ、おそらく1938年の録音。ボーカルとピアノはファッツ・ウォーラー、アンサンブルは"& His Rhythm"で、これはジーン・セドリック[Gene Sedric]サックス、ハーマン・オートリー[Herman Autrey]トランペット、アル・ケイシー[Al Casey]ギター、セドリック・ウォレス[Cedric Wallace]ベース、そしてトラップドラムはスリック・ジョーンズ[Slick Jones]の...はず。

(手元にあるのが昔のRCAモノラル盤、これ録音日などの記載はあれど、その他データに省略が)

1曲目「ひとり者のラブレター(手紙でも書こう)」は作曲家フレッド・E・アーラート[Fred E.Ahlert]とライターのジョー・ヤング[Joe Young]による1935年の作品でペーソスにユーモラスな一種のトーチソング。当時、完成間もない楽譜を見て、即、録音を決めたそうで(青木啓史観)、お気に入りの曲であったようだ。

フレッド・E・アーラートは「ミーン・トゥ・ミー(Mean to Me)」の作曲家。ジョー・ヤングは「ダイナ(Dinah)」で名高い作詞家、案外、国内ではバーニス・ペトキア[Bernice Petkere]との「木の葉の子守唄(LULLABY OF THE LEAVES)」でも有名? エラ[Ella Fitzgerald]にアニタ[Anita O'Day]も唄っている、ベンチャーズ[The Ventures]もヒットさせている(エレキ・インストだけれど)。

2曲目「眠そうな二人」は作曲家ホーギー・カーマイケル[Hoagy Carmichael]とライターのフランク・レッサー[Frank Loesser]による作品。大家ホーギー・カーマイケルは割愛、フランク・レッサーは、例えば1939年「ボーイズ・イン・ザ・バックルーム(The Boys in the Back Room)」は、以前ワイントラウブス[Weintraubs Syncopators]で紹介のフリードリヒ・ホレンダー[Friedrich Hollaender]作曲、唄はディートリヒ[Marlene Dietrich]=同年の映画「砂塵(Destry Rides Again)」劇中歌として有名。

話は戻り、この曲の成り立ちには、まず1938年の「百万弗大放送(The Big Broadcast)」というヒット映画が、その劇中歌がシャーリー・ロス[Shirley Ross]とボブ・ホープ[Bob Hope and]による「サンクス・フォー・ザ・メモリー(Thanks for the Memory)」で、これは第1回で紹介した。そしてその続編として同年「思い出によみがえる(Thanks for the Memory)」が制作公開、そのために書き下ろされたのが「眠そうな二人」だ。このオリジナル映画版(シャーリー・ロスとボブ・ホープ版)にも興味があればサントラもある。

この曲にはホーギー・カーマイケル自らが唄うバージョンも。ではそれを公式で。

音源ルーツ、おそらく1956年の録音。主な編成、アート・ペッパー[Art Pepper]サックス、ハリー・エディソン[Harry "Sweets" Edison]にドン・ファガーキスト[Don Fagerquist]トランペット、ジミー・ロウルズ[Jimmy Rowles]ピアノ、そしてコンダクターはジョニー・マンデル[Johnny Mandel]。アルバムでは「ホーギー・シングス・カーマイケル(Hoagy Sings Carmichael)」に収録が、このアルバムも色川御大おすすめの名盤。

もう一曲、これも御大おすすめ「エイント・ミスビヘイヴン(Ain't Misbehavin')」=「浮気はやめた」を紹介、では公式で、ボーカルのない初期バージョン、ピアノ・ソロに耽溺されたし。

音源ルーツ、おそらく1929年の録音。もちろんピアノはファッツ・ウォーラー。

そのオルガンにも惚れ込む御大、今度はそれ、同曲、ボーカル版、公式で。

音源ルーツ、おそらく1938年の録音、アルバムでは「"Fats" In London」に収録されている。曲はファッツ・ウォーラーとハリー・ブルックス[Harry Brooks]共作、作詞はアンディー・ラザフ[Andy Razaf]、このハリー・ブルックスとアンディー・ラザフは特にファッツ・ウォーラーとの共作が多い印象。ブルックスはやはりラザフとの「ブラック・アンド・ブルー(Black and Blue)」など、ラザフでは「ハニーサックル・ローズ(Honeysuckle Rose)」など。

この「浮気はやめた」、邦題からして意味深は、初めて聴いた時"ain't"はともかく"misbehavin"で何故に"浮気"かがさっぱり。青木啓訳に"謹む"云々とあり(海野弘共著「ジャズ・スタンダード100」新潮社)、例示に「Love Is the Thing(恋こそはすべて)」が、そんな解説を参照に歌詞を追うとなるほどなぁ、と。でも深くは気に留めず、が、この歳で(老いて)改めて聴くとファッツ・ウォーラーの演奏も相まって、身につまされるのだ。

バーレスクの王様

ところで御大、1936年の映画「バーレスクの王様(King of Burlesque)」にふれている、戦前、国内公開もされたそうで、簡単には「巨星ジーグフェルド(The Great Ziegfeld)」的な興行主の恋愛物語のB級版。劇中歌を駆け足で紹介、まずアリス・フェイ[Alice Faye]の「フーズ・ビック・ベビー・アー・ユー(Whose Big Baby Are You?)」で幕開け。「スウィート・ジョージア・ブラウン(Sweet Georgia Brown)」ではアリス・フェイとパクストン・シスターズ[Paxton Sisters]のタップが(このシーン短い)。

この映画で初めて知ったのですが、パクストン・シスターズ=アーリン・ジャッジ[Arline Judge]とヴァージニア・デール[Virginia Dale]で、ヴァージニア・デールとは1942年の「スヰング・ホテル(Holiday Inn)」でのダンスでアステア[Fred Astaire]の相手役を務めた女優。

他にアリス・フェイでは「アイム・シューティング・ハイ(I'm Shooting High)」に「アイ・ラヴ・ライド・ザ・ホーセズ・オン・ア・メリーゴーラウンド(I Love to Ride the Horses on a Merry-Go-Round)」など。ベテラン・ダンサーのディキシー・ダンバー[Dixie Dunbar]のタップと唄でも「Whose Big Baby Are You?」だったはず? 空中ブランコの場面「ラブリィ・レディ(Lovely Lady)」はケニー・ベイカー[Kenny Baker]で、この方、1946年「ハーヴェイ・ガールズ(The Harvey Girls)」でも唄っていた。それとタッパーのエディ・フォイJr[Eddie Foy Jr.]だと思うのだけれど、ダンスシーンなどなど、と、拙い知識では、よくわからん! これは往年のダンサーに詳しい方が見ると、結構な発見があるのでは?

肝心のファッツ・ウォーラー、エレベーターボーイ役で登場、そして終盤「アイヴ・ガット・マイ・フィンガーズ・クロスト(I've Got My Fingers Crossed)」をじっくりと、ここでもディキシー・ダンバーのタップが華を添える。映画総体では、否、音楽シーン以外は印象が薄い...と、申し訳ないが。映画タイトママにバーレスクのシーンでは、制作当時(30年代)のバーレスクの捉え方が参考になった。そのバーレスク、お色気に傾倒という他には特に定義はないとされており(エロ=主観であって)、レビューでもエロ度が顕著であればバーレスクと言い得るだろう。

(ストリップティーズ一歩手前がバーレスクと認識しているが、古いバーレスク作品を見ていると、あくまでも基本はボードビルであるというのがよくわかる)

またファッツ・ウォーラーの映画では1943年の「ストーミー・ウェザー(Stormy Weather)」が、しかしブラック・ムービーでは歴史的作品=私なんぞの解説は蛇足。ただ、本章ではタッパーのビル・ロビンソン[Bill "Bojangles" Robinson]にもふれており、少しだけ。世界的にも著名なダンサーの一人、タップでのパイオニア。劇中レナ・ホーン[Lena Horne]の相手役がビル・ロビンソン(ピアニスト役のパートナーはベイブ・ウォーレス[Emmett 'Babe' Wallace])。

他にもエイダ・ブラウン[Ada Scott Brown]の「ザット・エイント・ライト(That Ain't Right)」、その酒場シーンでのドラマーがズッティ・シングルトン[Zutty Singleton]。終盤、コンビでの大階段タップがニコラス・ブラザーズ[Fayard Nicholas & Harold Nicholas]など。もちろんファッツ・ウォーラーの唄と演奏も堪能と盛り沢山な内容は、特にこれはサントラ云々よりも劇中歌として見ていただくのがよろしいかと。

第20回[色川武大のジョージ・ガーシュウィン]
第22回[スウィングしなけりゃ意味がない!]