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人差し指のオルタネイトてどういう事よ、という話

タイトルで察しが付く人は日本では稀であろう。
まずエレキベースの演奏に興味があり、更に比較的テクニック志向であり、カナダのプログレッシブバンドの雄、RUSHのゲディ・リーを知らなければならない。
ゲディ・リーという人は知る人ぞ知るベーシストだが、たとえばYESのクリス・スクワイアとプログレッシブ・ロック界では1・2を争う人気ベーシストだ。
今どき洋楽好きというのは少数派だし、30年以上以前に興隆したジャンルのプログレッシブ・ロックに興味がある人なんているの、という所から更に少数派だし、ギタリストじゃなくベーシストというところが、ギター志望を争って下手だからベーシストになった、みたいなルサンチマンを抱えた記憶が性格を鬱屈させて、何だか哀しくて更に少数派だし。
まぁ、今やどこに出しても恥ずかしくないくらい“知る人ぞ知る”存在、それがゲディ・リーという変態ベーシストである。
因みに件のRUSHは40年を閲する活動をドラマーの哲人ニール・パートの喪失により停止した。このドラマーも神と崇めたてられる超のつく天才なんだけど、今回は割愛。長くなるからね。

で、そのゲディ・リー。
この人は個性の塊のような人で、斯界では「究極の変態ベーシスト」と言われて居たり、いなかったり。
そもそもRUSHというのは3ピースバンドで、当初はレッド・ツェッペリンの亜流くらいのハード・ロックを演奏していたのだが、先のドニール・パートが新規加入してから、超絶技巧道を突っ走る事になり、変拍子やらキメやらがバッキバキのプログレッシブ魔道へと突き進む事になる。
ギター、ベース、ドラムしかいない3人バンドとなれば、ボーカルは兼任しなきゃならない。どのような会話が交わされたかは不明だが、ここでゲディが「んじゃ、オレやるわ」となったのかもしれない。
「鶏を絞め殺すかの様な」などと揶揄される超ハイトーンボイスは、恐らくロバート・プラントのコピーから始まったもの、と思われるが、特徴的なボーカルでゲディはボーカルを兼任した。
ここまでは理解できる。割と多いよねそういうバンドも。
3人のアンサンブルで音を埋める場合、どうしてもギターやドラムは手数が増えて大忙しになる。ベーシストっつーのはルート音弾いてりゃ曲は形になるからね。それならボーカルも出来るだろ?みたいな流れ。
しかし、ゲディ・リーの才能は技巧派のベーシストとして開花していた。また音楽性がプログレに傾倒していくにつれ、バッキバキな技巧派へと成長するのも自然な事だ。クリス・スクワイアやジョン・ウェットンを聞いて御覧なさいな。ベースで埋め尽くす気か、と言わんばかりだから。
普通はベースがボーカルかで、どちらかに偏る。エイジアのジョン・ウェットンが良い例だ。
ゲディ・リーの変態性は「訳の判らん変拍子の曲を歌いつつも技巧派ベーシスト」として、両立させてしまったところにある。
どれか数曲でも聞いてもらえば判るのだが、グリグリと動き回るベースラインを弾きながら歌うのは、非常に難しい。右手で四角を描きながら左手で円を描くような、と評すれば判るかも知れない。
まぁ単に目立ちたかっただけかもしれないが、自己顕示欲も突き詰めればこうなるという究極のベース兼任ボーカリストがゲディ・リーという男なのだ。
で、私はこの男についついハマってしまったのだ。
私のベース遍歴というのは、このRUSHというバンドに触れてしまったがために始まってしまった。なんつーカッコいいベースだよ。弾きてー!!とあっさりギターからベースに乗り換えた。

一般に「ベースなんて聞こえないじゃん」と言われる事が多い縁の下の力持ちというか、バンドアンサンブルを知らない人には存在さえも抹消されかねない、ベーシストに何故そんなに惹かれたか。
答えは簡単。
自己顕示欲の鬼であるゲディ・リーはベースの音色もまたギラギラに目立ちまくっているのだ。
初期はリッケンバッカーの中域がドライブした、歪んだ音。その後スタインバーガーを使用して一時アンサンブルにうもれ掛かるが、Walを手に入れてからの80年代以降は、エッジの効いたドンシャリ気味でアタックの強い音。その後ジャズベに移行するが、その独特な音色は唯一無二のアタックの強いゲディ・リーの音で完成されている。
つまり、まぁ目立つのよ。彼のベース音は。誰にでも判るくらいに。
ギターの用なピック弾きなら、それも判らなくはない。というかピック弾きとしか思えない鋭いアタック音なのだが、フィンガーピッキングなのは写真やMVで判る。
右手のポジションはどちらかと言えばネックよりなので、指を叩きつけて指板に当て、強い独特なアタック音を作り出しているのだ、と察せられる。
例えば速弾きのベーシストというとビリー・シーンなどが有名だが、彼は寧ろアタックは弱めに聞こえる。薄くディストーションをかませて倍音を稼ぎ、軽いタッチで早いパッセージを弾いているように聞こえる。音作りとしては真逆の志向ではないだろうか。
私はゲディ・リーのコビーをするに当たって、ごく普通にアプローチした。右手はネックよりに構えて指板に弦を叩きつけ、スラップ風のアタック音を稼ぐオーソドックスな奏法、と当時は考えていた。
しかし動くゲディ・リーの演奏は、何だか少し奇妙な構え方をしている。
ベースをツーフィンガー奏法で弾く場合、ボディに対して手の甲は左側に向くのに、ゲディは反対の右側なのだ。
これはおかしい。
通常、人差し指と中指のツーフィンガーだと人差し指の方が短いので、ボディに対して左側に傾ける。そうすることで均等なアタックになるからだ。
逆では中指がより強く弦にヒットしてしまい、音の粒立ちがバラバラになってしまう。何なんだありゃ、私は結構長い間悩んでいたのだが、その解答は得られなかった。
そんなある日、ゲディのインタビュー記事で謎はあっさり判明した。
曰く「僕はワンフィンガーでオルタネイト奏法をしているんだ」えええええええええええええ!!!!
これがどれだけ変態的な奏法かというのを詳しく解説するのは難しい。
まずワンフィンガーというのは判るだろう。一本指だ。恐らく人差し指だと思われる。
で、オルタネイト奏法。オルタネイトというのはギターのピック弾きで一般的に使われる「弦の上に当てたピックを下に向けて弾いて音を出し、振り抜いたピックを弦の下に当てて上に弾いて音を出す」奏法だ。現に対してピックを上下に弾いて連続音を出す。
これを人差し指で行うというのだ。何だそれ。
一応ね、練習してみたよ。
例えばスラップ奏法ではサンピングのオルタネイト奏法は存在する。親指の上下で連続音にする弾き方だ。それはたまにやるので、親指を人差し指に切り替えるだけだ。
・・・って、出来るかーーーいっ。
何度か練習してみたが、違和感が半端ない。振り下ろす時に爪が当たり、音の粒立ちがバラバラだしリズムキープが不可能レベルなのだ。
なんだこれ。無理無理無理無理。
ゲディ・リーの変態性を、コピーを始めて30年目にして改めて再確認させてもらった。
なんでこんな人にハマってしまったのやら。
私の無駄話の中でも群を抜いて誰も興味の無い話である。

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