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『ウインド・リバー』(2017)    テーマは良いが、低評価する人がいるのも理解できる

〈物語の核心や結末に関する記述あり〉
テーマは良いがケーブル/ウェブTVのミニ・シリーズにしたほうが良かったかもしれない。
全体としてやや説明不足な感もあり、終盤の病室のシーンやフェイス・ペイントした被害者の父親などは、監督の思い入れがあるのだろうが、107分では足りなかったのではないか。特に日本人からすると分かりにくいところも多い。

主人公の元妻がジャクソンに面接に行くと言っていたのは、カジノやホテルの仕事だと思われる(カジノはインディアンの多くの部族の主幹産業になっている)。
保留地内の国旗の上下逆掲揚だが、これは誇張というか少数例だと思う。インディアンには合衆国軍の退役兵は少なくない。第一次世界大戦では陸軍のチョクトーとコマンチ、第二次世界大戦では海兵隊のナバホのコードトーカー(部族語を使用した通信兵)が有名だが、ウィンドリバー保留地に住む北部アラパホ族と東ショショーニ族からも二つの世界大戦とその後の朝鮮戦争やヴェトナム戦争に出征している。インディアンに市民権が与えられるのは1924年のことであり、さらに投票権は1948年にようやく認められたのだが、これは二つの大戦に多くのインディアンが出征したことが影響していることは言うまでもないだろう。また徴兵制が停止している現在でも、志願して軍に入る者も少なくない。劇中でも少し触れられていたが、インディアンにとって軍の給与は悪くないことや大学奨学金が出ることも大きな理由だろう。
ところで、私があえて「インディアン」という言葉を使うのは、友人のインディアンが「ネイティヴ・アメリカン」などという言葉は使わないからだ。「インディアン」という言葉で不便なのは、ネット上だとインド人と勘違いされることくらいだそうだ。彼は10歳くらいから古い猟銃で狩りをし、15歳から一人で車を運転していたそうである。
被害者は18歳で夜中にボーイフレンドの所へ行ったという。FBI女性捜査官からすると「かろうじて(barely)大人」という感覚なのだが、ニューヨーク・タイムズによるとウィンド・リヴァー保留地のインディアンの平均寿命は49歳。アメリカ人の平均寿命より30歳近く短いのだ。
また、居留地内の性的暴行事件はFBIの管轄にならないというのは事実と異なるようである。
採掘場の警備員たちが、性的暴行とせいぜい第2級殺人罪から逃れるために、部族警察官達と群保安官補達とFBI捜査官を殺そうとするとか、まったく割に合わないはずなのだが、警備員たちはイラク/アフガニスタン帰還兵で気性が荒く仲間意識が強いとか(殺された警備員は元海軍なので他の警備員達は陸軍か海兵隊出身と考えると合点がいく)、余罪があるとかいうことなのだろう。このあたりの描き方が浅いので、「ネオ・ウェスタンだから」で済ませているように感じるかもしれない。
主人公がライフルのカートリッジをハンドロードするシーンがあるが、Fish and Wildlife Serviceの職員なのだから、節約のためではなく、目的に特化したり精度を向上させるためだろう。火薬量は不明だが、500グレインの弾頭のようだ。主人公が後半使うライフルは45-70ライフル・カートリッジを使用するが、この45-70-500カートリッジは対グリズリーに最適といわれており、マウンテン・ライオン駆除には強力すぎる。対人、それもボディー・アーマーを着用した相手を想定しての準備か…?また、この45-70カートリッジはアメリカ軍が1800年代後半に対インディアンに、アパッチ族の戦士達も対白人抵抗戦に使用したという因縁があるのだ。

それにしても本作品の製作総指揮がハーヴェイ・ワインスタインというのは、なんとも皮肉だ。本作品のアメリカ公開は2017年8月。その2か月後にはワインスタインの性的搾取が次々と明るみに出てくることになる。現在では本作品のクレディットからワインスタインの名前は消されているようだ。

★★★★★

2019年12月21日に日本でレビュー済み

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