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『トム・クランシー/CIA分析官 ジャック・ライアン』 シーズン1 (2018)   これだけお金のかかったシリーズが、いきなりプライム・オリジナルとして無料で観られるのは驚き。南米が舞台というシーズン2が今から待ち遠しい。

『ホームランド』並みの緻密なストーリーの質の高いドラマ、『倒壊する巨塔』のようなリアリティとシリアスさを期待したいが、マイケル・ベイが絡んでいるようなので、映画『キングダム』のようにアクション寄りで、ややシリアスといったあたりを狙ってくるのか?映画『13時間 ベンガジの秘密の兵士』のような普通の戦争アクションの可能性もある(主演がジョン・クラシンスキーなのもマイケル・ベイ繋がりだろう)。『倒壊する巨塔』は本国ではHulu独占配信だったのだが、このジャック・ライアン・シリーズは最初からプライム・オリジナル。8月31日、日米欧で配信開始予定。既に全16話(8話×2シーズン)が決定していて、シーズン2も既に撮影に入っており来年公開らしい。もし『ホームランド』なみのクオリティなら、プライム・ヴィデオの伝説的作品となるだろう。
(2018/08/31追記)
毎週1話ずつ追加かと思っていたら、全8話が一挙にリリース。予想していたことだが、主人公ジャック・ライアンやジェームズ・グリーアといったキャラクターがトム・クランシーを基にしているだけで、ストーリーはクランシーの小説とはほぼ関係のないものとなっている。アメリカでも一部で「こんなのジャック・ライアンじゃない」との低評価も見受けられるが、映画の007シリーズと同じで、原作とは別物と思って観たほうがいいだろう。『ホームランド』や『倒壊する巨塔』程のシリアス作品ではなかったものの、アクションと映像的にはこれらの作品に勝るとも劣らないものとなっている。エピソード1はちょっと『ボーダーライン』も入っている気がする。ちなみにジョン・クラシンスキーはエミリー・ブラントの夫である。エピソード1には地獄の黙示録へのオマージュが入っていて、字幕ではスルーだが、グリーアは海外で頭がおかしくなったらしいという意味で「カーツ大佐」というセリフもある。グリーアがカーツでライアンがウィラードなら、「対テロ戦争」という名のアメリカの狂気を主人公を通して描いた作品ということになるのだろうか?その割には、イエメンのブラックサイト(アメリカが尋問を行うための秘密施設)での非人道的な拷問は控えめな描写にとどまっている。また、ブラックサイトの準軍事要員は、CIAスペシャル・アクティヴ・ディヴィジョンのSOGと、JSOCから派遣された隊員との混成とされていて、設定が極めてリアルな割に能力が低いが、これはストーリー上、仕方がないだろう(金属探知機やX線で死体を調べるはずとか、デルタやデヴグルといった特殊部隊員からなるJSOCの隊員ならあの程度の攻撃は撃退してしまうだろうとか言い出したら、話が第1話で終わってしまう)。エグゼクティヴ・プロデューサー/脚本のグラハム・ローランドはイラクにも派遣された元海兵隊員だし、ミリタリー・テック・アドヴァイザーのケヴィン・ケントは元シールズで、実戦での勇気ある行動でブロンズ・スター賞を授与されている人。ケヴィン・ケントは13時間やトランスフォーマーシリーズなど多くのマイケル・ベイ作品でアドヴァイザーを務め俳優に銃の構え方などを指導、本作品の劇中では本人も軍事要員役でチョイチョイ写り込んでいる。

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またケントの上司であるハリー・ハンフリーはヴェトナムで特殊作戦に従事した元シールズで、本作品には直接は関わっていないようだが、数多くのハリウッド大作でアドヴァイザーを務めた、この世界では伝説的人物。決して制作側に軍事やタクティカルの知識が無いわけではなく、時には細かなリアリティよりストーリーを優先させるのは、ドラマである以上当然である。
主演のジョン・クラシンスキーは『13時間 ベンガジの秘密の兵士』をはじめ日本未公開作品の出演が多く、日本ではほとんど知られていないと言ってもいいくらいだが、The Officeというドラマで長くレギュラーとして出演し、アメリカではその時の役名のジムとして知られている俳優。彼の顔や雰囲気がジャック・ライアンという主人公にふさわしいかという点では評価も分かれると思うが、ジャック・バウアーのようなやや超人的なヒーローではない、普通の男の英雄的行動を描いていくシリーズという意味で適役なのだろう。デルタ出身のバウアーに対し、ライアンは元海兵隊員とはいえMARSOCやFORCONといった特殊部隊/精鋭部隊ではなく、一般大学を出て歩兵部隊の小隊長であった程度である(そのためタクティカル面での失敗もある)。また過去の作品では、非常に頭脳明晰で超一流大学へ充分いけるような知能の高い人物であったためCIAにリクルートされたように描かれたこともあったが、本作品では、理知的でDr.ではあるものの、ローレヴェル・アナリストにすぎない。いわば『コンドル』の主人公に近い人物であり、自転車通勤もそのオマージュだろう。
グリーア役ウェンデル・ピアースはTVドラマでも映画でも良く見かける顔だが、代表作はなんだっけ?と思いだしてみたら、プライム・ヴィデオで観られるHBO作品『コンファメーション』でトマス判事を演じていた。キャシー役アビー・コーニッシュはリミットレスやエンジェルウォーズに出ていた。CIA長官役ブレア・ブラウンはフリンジがらみか。副長官役はここ数年TVドラマ出演で評価の高いティモシー・ハットン。大統領役マイケル・ガストンは、アメリカの映画やTVドラマが好きな人には、お馴染みの顔(ちなみに彼はトランプ大統領支持らしい)。
個人的に期待していたような『ホームランド』『倒壊する巨塔』のようなシリアス/リアリティ志向のシリーズではなく、やはり『キングダム』や『13時間 ベンガジの秘密の兵士』に近い路線であったが、一応トム・クランシーが基になっていることだし、スパイ物と言ってもミリタリー物に近いアクション作品になっているのは、これで正解なのだろう。今までHBO作品などの大作ドラマシリーズは相当観てきたが、それでも、これだけお金のかかったシリーズが、いきなりプライム・オリジナルとして無料で観られるのだから驚きである。予告編の段階のレビューでは「プライム・ヴィデオの伝説的作品になるかも」と書いたが、amazonという枠を超えてウェブ・テレビジョンの歴史に残る事となるだろう。『24』のような長く続くシリーズになる可能性もある。南米が主な舞台になるというシーズン2が今から待ち遠しい。


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2018年8月30日に日本でレビュー済み

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