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広島県のDX推進・テレワークについて教えてください!【広島県 総務局 情報戦略担当部長 桑原氏インタビュー Vol.2/3】

2023年5月開催のG7サミットで話題の広島県。その広島県CIOの役割を担う、総務局 情報戦略担当部長 桑原様にセキュリティのこと、G7サミットのこと、などなどインタビューしました。
今回は、広島県のセキュリティ対策への取り組みの歴史について伺いました。
まだ過去の記事をご覧になっていない方はこちらをご覧ください。

西日本豪雨災害がきっかけでテレワーク環境を構築

  広島県では、コロナ禍以前からテレワーク環境を構築されていたとこのとですが、何かきっかけがあったのでしょうか?

平成30年(2018年)の西日本豪雨災害がきっかけです。当時こてんぱんにインフラをやられてしまい、テレワークもできない環境の中、業務に大きな影響がでてしまいました。その教訓を活かし、どこでも、どのような環境でも慌てずに仕事ができるようなインフラ構築を行いました。

テレワーク環境への移行…職員の反応は?

ですので、コロナ禍が始まった2020年、すでに理論上は全職員が即日テレワークを行える環境でした。ここまで環境を整備できていたのは、他の自治体や民間企業においても珍しかったのではないかと思います。他の自治体や民間企業においては、コロナ禍になり慌ててテレワーク環境を整えた、という話をよく聞きました。

  テレワークへの移行を職員の方々はすんなり受け入れたのでしょうか?

大きな抵抗はありませんでした。職員も西日本豪雨災害の経験がありますし、そのような職員からの意見を聞いてインフラを構築しています。Web会議に関しても、2015年からWebexを導入しており、多くの職員は少なくとも1~2回のWeb会議経験がある状態でした。テレワークの開始に際して、会議ツールやチャットツールの使い方の質問は受けましたが、テレワーク自体への大きな不満は上がりませんでした。
ただ、テレワークの急激な増加までは想定していなかったため、トラフィックの問題が発生しました。トラフィックの集中は通信速度の低下に繋がるため、そこに対しての不満の声は上がりました。コロナ禍以降、ネットワークの強化など、対策を講じています。

  被災経験を踏まえ、テレワーク環境を構築していたので、コロナ禍によるテレワークへの移行に慌てることなく対応できたんですね。

“一人情シス”状態の組織には、県全体でお互いをカバーしあえるような取り組みが必要

  “一人情シス”状態の自治体がセキュリティ対策を行うためにはどうすればよいのでしょうか。

本音を言うと、一人情シス状態をやめるのがベストです。一人情シス状態になってしまう背景には、情報システムや情報システム部門の位置づけが低いことが考えられます。特に地方に行けば行くほどその特徴が表れるのではないでしょうか。ですが、DXなどが進めばテクノロジーに依存する部分が増えてくるため、まずは情報システムの位置づけを高める必要があります。

不足しがちな情シス担当者、最初にすべきことは?

実際、広島県にも一人情シス状態の自治体が存在します。住民の数が少ない町や島は何人もの情報システム担当者を置けないため、そういった人員確保が困難な自治体に対しては、県が手を差し伸べる必要があると思います。

例えば、1つのシステムを複数の自治体で共同調達・利用することを提案するなど。県がリーダーシップを取り、自治体同士がカバーしあえるような取り組みが一人情シス状態の組織には必要です。

  “一人情シス”状態の自治体は、一人で何とかしようとするのではなく、県や国からの支援を活用することが必要ということですね。

そうです。国も地方自治体に対し支援を行っており、政府と地方自治体が共同で利用するクラウドサービスであるガバメントクラウドは、この支援のひとつです。

  広島県は、情報システム担当者の不足を支援する、“DXShip(デジシップ)ひろしま”の取り組みがあると伺いました。

広島県全体としてデジタル人材を採用し、不足している自治体で活用するという取り組みを始めました。実際に県庁の職員が情報システムの人手が不足している江田島市、三原市に行っています。(2023年3月時点)
これからもこの取り組みを広げていきたいと思っています。

DXShip(デジシップ)ひろしま とは
広島県全体のDXを効果的に進めるため,県と市町との間で情報共有等を強化しつつ,情報システム人材を県・市町共同で採用・育成・活用する新たな枠組み

広島県 情報システム人材の確保・育成について~「DXShip(デジシップ)ひろしま」の構築 | 広島県 (hiroshima.lg.jp)

目標は、“自治体のベストプラクティス”

  他自治体でも“DXShip(デジシップ)ひろしま”のような取り組みがあれば、“一人情シス”問題も解決に繋がりそうですね。

なると思います。広島県の大きな目的、目標は“自治体のベストプラクティス”です。私たちの取り組みが自治体のひとつのモデルになるとよいな、と考えています。システムのみならず、人材の活用や教育も率先してケースをつくり、全国に横展開していきたいですね。

政府の指示に従うと、今までの投資が無駄に

  政府が提言した三層分離と異なる道を選択したとき、何かビジョンがあったのでしょうか。

政府が三層分離を提言したきっかけは、2015年に発生した日本年金機構の情報漏えい事故です。

β'モデルで進むことを決めた当時の心境は?

当時、政府より地方自治体に対し4つの指示が出されました。
 1. セキュリティクラウドの構築
 2. ネットワークの強靭化
 3. ネットワークの分離
 4. 体制の強化

β'モデルで進むことを決めた当時の心境は?

当時、すでに広島県は働き方改革としてWeb会議ツールの導入、テレワーク環境の構築、iPadを全幹部職員へ支給し、会議のペーパーレス化を実施していました。他自治体より進んだ取り組みを実施していたかと思います。その状況で政府の三層分離の指示に従ってしまうと、テレワークもできなくなりますし、今まで実施してきた改革への取り組みがすべて後戻りすることになってしまいます。それは今までの投資が無駄になり、追加の投資が発生することになるので、政府の指示に従うには抵抗がありました。
とはいえ、100%政府の指示を無視するわけにはいかないため、当時かなり政府の担当者とやり取りをし、納得してもらいました。最終的には当初から構築していた、今でいうβ´モデルを認めていただいたわけです。

  県内での反発はなかったのですか?

広島県が進めている取り組みは正しいという声が多く、県の情報システムチームからの反対はありませんでした。
ただ、基礎自治体(市町)がどのモデルを選択するか、県から強制できないため、多くの基礎自治体は政府が提言したαモデルを選択しました。県内でモデルが混在しているのは苦労している点です。

YouTube動画にもご登場いただいています!

#3 広島県CIO桑原氏に質問!
広島県のDX・テレワーク推進について教えてください!

#4 広島県CIO桑原氏に質問!
三層分離の指示に対し、広島県が選んだ道とは・・・!

※文中やYouTube動画ではCIOと表現しておりますが、正式な職名は「総務局 情報戦略担当部長」(2023年4月時点)です。

ライター:高野