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宮沢賢治 作 「青い槍の葉」

1922(大正11)年6月12日、宮沢賢治は詩「青い槍の葉」を書きました。
田植えが終わり、稲が成長すると直立した葉がまるで槍のようです。「気圏日本のひるまの底の/泥にならべるくさの列」と目の前の水田だけでなく、大気圏から地面までが視野に入っているのが、賢治ならでは、だと思いました。

ところで現代の6月12日ころは、田植えから約1か月がたち、まさに、イネの葉が槍のようにしっかり立ちます。しかし、賢治のころの岩手県中部では標準の田植えが6月10日ごろでした。田植え直後の苗は植え痛みがでるなどして槍のイメージではありません。この詩は、早植えの田を見ながら書いたものと思われます。

ヤナギは水気を好む樹木で、水田や川の近くによく生えます。
この詩と直接関係はありませんが、2011(平成23)年3月の東京電力福島第一原子力発電所の事故で帰還困難区域となった数千ヘクタールの水田は、10年たってヤナギ林となっています。青い槍の葉がならぶ水田に戻していきたいと思います。

NHKニュース「葛尾村の帰還困難区域で地元の農家が震災後初めて田植え」
https://www3.nhk.or.jp/lnews/fukushima/20210522/6050014586.html

記事より「田植えを行った60代の地元の農家の男性は「この10年間、ふるさとの復興が進まないことに焦りを感じていたので、ようやく田植えという一歩を踏み出せて夢のようです。帰還する人が増えるよう、農地をしっかり管理していきたい」と話していました。」

(本文開始)
  青い槍の葉

     (mental sketch modified)

  (ゆれるゆれるやなぎはゆれる)
雲は来るくる南の地平
そらのエレキを寄せてくる
鳥はなく啼く青木のほづえ
くもにやなぎのかくこどり
  (ゆれるゆれるやなぎはゆれる)
雲がちぎれて日ざしが降れば
黄金(キン)の幻燈 草(くさ)の青
気圏日本のひるまの底の
泥にならべるくさの列
  (ゆれるゆれるやなぎはゆれる)
雲はくるくる日は銀の盤
エレキづくりのかはやなぎ
風が通ればさえ冴(ざ)え鳴らし
馬もはねれば黒びかり
  (ゆれるゆれるやなぎはゆれる)
雲がきれたかまた日がそそぐ
土のスープと草の列
黒くおどりはひるまの燈籠(とうろ)
泥のコロイドその底に
  (ゆれるゆれるやなぎはゆれる)
りんと立て立て青い槍の葉
たれを刺さうの槍ぢやなし
ひかりの底でいちにち日がな
泥にならべるくさの列
  (ゆれるゆれるやなぎはゆれる)
雲がちぎれてまた夜があけて
そらは黄水晶(シトリン)ひでりあめ
風に霧ふくぶりきのやなぎ
くもにしらしらそのやなぎ
  (ゆれるゆれるやなぎはゆれる)
りんと立て立て青い槍の葉
そらはエレキのしろい網
かげとひかりの六月の底
気圏日本の青野原
  (ゆれるゆれるやなぎはゆれる)

(本文終了)

#宮沢賢治 #青い槍の葉 #水稲 #水田 #ヤナギ

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