宮沢賢治 作 「ぢしばりの蔓」8月の豪雨と倒伏。保険金での弁償。
水稲の倒伏とは
8月になり、水稲の草丈が伸び、穂が出ると、重心が高くなり、倒伏の危険が高まります。
有名作品「もうはたらくな」の前駆型
倒伏を描いた詩は、「もうはたらくな」が有名ですが、この「ぢしばりの蔓」はそのもととなった作品です。
「死んでとれる」はこの作品のみ
「死んでとれる保険金」で「弁償」とは、ぶっそうな表現ですが、責任を感じて必死に働く賢治の姿が見えるようです。「もうはたらくな」では「死んでとれる」は出てきません。さすがにぶっそうだと賢治も思ったのかもしれません。死ぬよりも、生きて、農民のために働くことのほうが大事だと、思い直したのかもしれません。
本文
(本文開始)
一〇八七
一九二七、八、二〇、
……ぢしばりの蔓……
もう働くな
働くことが却って卑怯なときもある
夜明けの雷雨が
おれの教へた稲をあちこち倒したために
こんなにめちゃくちゃはたらいて
不安をまぎらさうとしてゐるのだ
……あゝけれども またあたらしく
西には黒い死の群像が浮きあがる
春には春には
それは明るい恋愛自身だったでないか……
さあ
帰ってすっかりぬれる支度をし
切できちっと頭を縄って出て
青ざめて
こはばったたくさんの顔に
一人づつぶっつかって
火のついたやうにはげましてあるけ
穫れない分は辨償すると答へてあるけ
死んでとれる保険金をその人たちにぶっつけてあるけ
(本文終了)
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