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新米PI日記 「はじめてのNIH R01 ①」

NIHのR01って何?

今回、PIになることができたので、PIになることがあったら一度はしてみたかったNIH R01と呼ばれるグラントに応募した(しかも2つのプロジェクト)ので、その内容をまとめてみたいと思います。
アメリカ国立衛生研究所(NIH)は研究者に対してさまざまな研究助成金を提供しています。NIHの主要な助成金には、特定の研究プロジェクトを支援するR01、革新的な研究を奨励するR21、パイロット研究向けのR03、複数の関連研究を統合するP01があります。また、キャリア開発を支援するKシリーズ、個人フェローシップのFシリーズ、協力研究を促進するU01、トレーニングプログラムのTシリーズ、そして新進研究者向けのDP2があります。その中で、NIHのR01とは主に独立した研究者(PIとして自分のラボを持っている人)や小規模な研究チームが、自分たちの研究プロジェクトを実行するための資金を申請するためのものです。NIHの研究助成金は日本でいう科研費のアメリカバージョンみたいなものですが、助成金の額がとても大きいのでアメリカで研究者をしている人にとっては研究者として生き残るために必須な研究助成金と考えられています。

主なポイント:

  • 対象:アメリカにいる大学や研究機関の研究者。応募者は通常、独立した研究者であり、プロジェクトの責任者(Principal Investigator, PI)としての資格を持つ必要があります。ビザについてはNIH自体は特に規定をしていなかったりしますが、研究施設でPIになっていることが必要なので必然的にH1B、 O-1、グリーンカードなどの所持が必要になると思います。

  • 資金提供:通常3~5年間のプロジェクトに対して資金が提供されます(一般的には5年が普通)。資金提供額は年間数十万ドル(数千万円)から数百万ドル(数億円)になります。

  • 資金の用途:人件費(自分の給料含め、スタッフの給料など)、研究機器・消耗品などの購入、研究経費(動物実験にかかる費用や学会費用などを含む)、論文出版費用など。

NIH R01の裏技? ESIとは

ESI(Early Stage Investigator)とは、NIHが若手研究者を支援するために設けた特別なステータスです。これは、博士号を取得してから10年以内の研究者のことを指します。ESI制度は、新しいアイデアやアプローチを持つ若手研究者を奨励し、科学研究の多様性と革新を促進することを目的としています。研究者が早期に独立した研究キャリアを築くための重要なステップとなりますし、ESIのステータスを持つことで、研究助成金の申請が有利になる場合があります。NIHのウェブサイトにはESIステータスを申請書に記載するような指示はありませんが、念のためカバーレターなどにESIであることを書いていたほうがいいという意見もあるようです。

具体的には、ESIとして認定されると、以下のようなメリットがあります。

  1. 資金の優先配分:

    • 資金獲得評価内のスコアを持つESIの申請は、所属研究所やセンターからより優先的に資金が配分される可能性があります。

  2. 審査の重点:

    • 審査において、実績よりも潜在能力に重点が置かれ、学術的背景や研究背景などがより重視されます。新しいR01研究者は、予備データや論文数が少ないと予想されているからです。

  3. 審査プロセスの配慮:

    • ESIのR01申請は、同じFunding Opportunity Announcementに提出された他の申請と同じタイムラインで審査されます。可能であれば、レビュー会議で経験豊富な研究者の申請と混在しないようにされます。

  4. 総評の優先提供:

    • ESI R01の申請に対する総評は優先され、可能な限り他の申請よりも早く通知されます。

ESIのステータスを得るためには、博士号を取得してから10年以内であることが基本条件ですが、諸事情により研究期間に空白期間がある場合は延長申請を出すことができます。私の場合は、2023年9月にESIの資格が失効する予定でしたが、コロナで在宅ホームが続いた期間や、ラボの異動で実験ができない期間があったことを申請して2024年7月下旬まで資格を延長してもらえました。

NIH R01の申請方法

NIH R01助成金を申請するには、いくつかのステップを踏む必要があります。研究計画の準備、eRA Commonsアカウントの作成、応募セクションの検索、申請書の作成、所属機関の承認、申請書の提出、NIHの審査、助成金の決定といったステップが必要です。NIHのウェブサイトにはその詳細がまとめてありますが、情報が多すぎて何から始めればいいのか概要をつかむのはNIHグラント申請初体験の私にはちょっとややこしかったです。そのため、ChatGPTにざっとした概要を聞いた後に、1つ1つの申請を進めていきました。

以下にそのプロセスを簡単にまとめています。

NIH R01助成金申請プロセス

  1. 研究計画の準備

    • まず、研究アイデアを具体的な研究計画にまとめます。研究計画の準備には、文献調査から始まり、プロジェクトの設計、予算計画、ドラフト作成とフィードバック、最終チェックと提出準備まで、多くの段階が含まれます。これらの準備には短くても半年はかかると言われています。私の場合は以前の職場でしていた研究(1-2年かけてしていた研究ですでに十分なpreliminary dataがあり)をもとに作成を行ったので、2つ合わせても2ヶ月くらいで仕上げることができました。プロジェクト内容が概ね決まっていて、共同研究者がいない or 少ないと書類の作成自体はそこまで時間がかからないと思いますが、それが採択に値するくらいの質の高い研究計画になっているのかと言われると別問題ですので注意が必要です。

  2. eRA Commonsアカウントの作成

    • NIHの電子研究管理システムであるeRA Commonsにアカウントを作成します。これは研究機関を通じて行わるので所属機関の担当者に確認する必要があります。通常はグラントを担当している部署に依頼をします。私の場合は、以前の職場ですでにeRA Commonsのアカウントがありましたが、施設を異動したため新しい施設名などを登録し直す手続きを行う必要がありました。

  3. 応募セクションの検索

    • NIHのFunding Opportunity Announcements (FOAs)を確認し、R01助成金に適したものを探します。NIHのウェブサイトで公開されています。どの機関かを選ぶ必要がありますが、私の研究エリアはNHLBI (National Heart, Lung, and Blood Institute)になるので、NHLBIを選択したあとに、その下のActivity CodeをR01に選択して応募できるグラントを探しました(結局応募できそうなものは1つしかなかったんですけどね)。

  4. 申請書の作成

    • 助成金申請書を作成します。これには、研究計画書(Research Plan)、予算計画(Budget Justification)、バイオスケッチ(Biographical Sketch)などが含まれます。これについては次のnote記事で詳しく紹介したいと思います。

  5. 所属機関の承認

    • 申請書は所属機関の助成金管理部門に提出し、内容の確認と承認を受けます。これはどの施設も同じと思いますが、まずはグラント担当者にメールで連絡、もしくは施設内のグラント応募フォームに登録する必要があります。

  6. 申請書の提出

    • ”eRA Commonsを通じて、申請書を電子的に提出します。”というふうに説明があったので、eRA Commons内になるASSISTというシステムにログインして申請書を作成していましたが、私の所属している施設で使用しているeGRANTという施設内のグラント登録システムがeRA Commonsと連携しているらしく、そこに必要書類をアップロードしていくというシステムでした。そのため申請書の提出の仕方についてはそれぞれの施設のグラント担当者に確認する必要がありそうです。

  7. NIHの審査

    • 提出された申請書は、NIHの科学的レビューグループ(Scientific Review Group, SRG)により評価されます。科学的価値、研究計画の実行可能性、申請者の能力などが審査 対象です。審査は通常、応募から約4〜5ヶ月後に行われるので、今回、6月5日に応募したので、10月〜11月に審査が行われることになります。その審査にパスすると二次審査に進み、NIHの各研究所やセンター(Institute or Center, IC)の評議会によってプロジェクトの重要性やNIHの優先事項との整合性が評価されます。これは初回審査から約1〜2ヶ月後に行われので、6月提出の場合は12月〜1月に二次審査が行われ、1月〜2月に通知が送られることになるそうです。

Study Sectionとは

グラントを申請するときは最後にstudy Sectionを選ぶ必要があります。Study Sectionとは特定の分野の専門家グループが申請書の科学的および技術的な内容を評価するために選択するものです。各申請書は適切なStudy Section(自分で3つまで希望のstudy sectionを決めることができます)に割り当てられ、メンバーが事前にレビューし、会議で議論して最終スコアを決定します。このプロセスにより、申請書の強みと弱みが評価され、資金提供の決定が行われます。どれが適切なStudy Sectionか分からない場合はNIHのウェブサイトに適切なStudy Sectionを提案してくれるサイトがあります。ここに実験のタイトル、プロジェクトのサマリー、Specific Aimsの内容をコピペして検索をかけると該当するStudy Sectionを教えてくれます。今回、私は2つのプロジェクトを応募したわけですが、これが同じセクションにいってしまうと自分のプロジェクトがライバルとなってしまうため、別々のセクションに振り分けることが重要となります。

審査に落ちたらどうなるの?

申請者は、eRA Commonsを通じて審査結果を通知されます。科学的レビューグループ(SRG)の審査まで進めたプロジェクトについては、SRGからのフィードバックやスコアが含まれるそうです。この文書には、申請書の強みや弱み、審査員からの具体的なコメントや提案が記載されているので、これを基に、研究計画のどこを改善すべきかを検討します。
次に、NIHのプログラムオフィサーに連絡を取り、総評についての詳細なフィードバックを求めることが大切なようです。プログラムオフィサーは、申請の改善点や再申請に向けたアドバイスを提供してくれます。また、次回の申請に向けた戦略を相談することもできます。これはグラントを応募するときにも相談できるらしいのですが、私は今回時間がなかったのでこの手順はスキップしました。初回応募なので今のところ採択される可能性は低いかなと思っているので、次の応募のときにはNIHのプログラムオフィサーに相談してみようと思います。ちなみに次の提出は8ヶ月後の2月5日になりそうです。通常、再提出は1回まで認められているので、ESIのステータスのまま申請書が出せるのは次までになります。再提出の詳細についてはこちらのリンクを参照して下さい。次はもっと本気でやらないとやばいと思います。

次の記事では実際にどのような申請書を準備したかについて記載したいと思います。


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