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新米PI日記 「はじめてのNIH R01 ②」

前回は申請の仕方の概要とESIについて、そして申請後の流れについて紹介しました。今回は、実際にどのような書類を準備したのか、についてご紹介したいと思います。

NIH R01助成金申請に必要な書類

今回、私はNIH R01の中の、PA-20-185というNOFO/Notice numberで応募したので、そこで必要となった書類を中心にまとめたいと思います。NOFO (Notice of Funding Opportunity) / Notice numberとは、助成金募集の機会を識別するための番号です。この番号は、NIHなどの資金提供機関が発行する各募集に紐づけられた番号となっており、NOFOには、申請の要件、提出期限、応募資格などの詳細が含まれています。申請者は、この番号を使用して特定の助成金募集を参照し、必要な書類や情報を確認します。ちなみにPA-20-185のカテゴリーは「NIH Research Project Grant (Parent R01 Clinical Trial Not Allowed)」というもので、基礎研究や観察研究など、臨床試験を伴わない広範な科学的研究を対象としたものになります。以下に、準備した書類のまとめを列挙します。

  1. 表紙(SF424 (R&R) Cover Page)

    • 基本情報(PIの名前、所属機関、プロジェクトタイトルなど)。私の施設ではeGrantというシステムを使っており、ここに必要な項目はグラント担当者がすでに記載してくれていました。

  2. プロジェクト概要(Project Summary/Abstract)

    • 研究計画の要約を30行以内で記述します。

  3. プロジェクトの重要性(Project Narrative)

    • 研究が公共の健康にどのように寄与するかを説明(2〜3文)。

  4. 特定の目標(Specific Aims)

    • 研究の具体的な目標を記述(1ページ以内)。

  5. 研究戦略(Research Strategy)

    • 背景と意義、イノベーション、アプローチの詳細(12ページ以内)。

  6. バイオスケッチ(Biographical Sketch)

    • PIや主要な研究者の経歴と業績(5ページ以内)。

  7. 予算(Budget)および予算正当化(Budget Justification)

    • 研究に必要な経費の内訳とその正当性。

  8. 施設と資源(Facilities and Other Resources)

    • 利用可能な設備やリソースの説明。だいたい同じ施設にいるPIがこういった書類をすでに準備しているので、彼らに依頼して書類がもらえると自分なりに修正を加えるだけで割と簡単に書類が完成します。また、core facilityの情報については入職するときにまとまった情報がもらえてたりするので、それを施設の情報に加えると充実した書類が作成できます。

  9. 設備(Equipment)

    • 研究に必要な主要設備。8の施設と資源との書類に似た内容になりますが、自分の提案した実験に必要な設備がちゃんとあることをこの書類で強調しておきます。

  10. 参考文献(Bibliography and References Cited)

    • 引用した文献リスト。これは主にSpecific AimsやResearch Strategyの書類で引用した文献リストになります。30-40くらいリストして満足していると、サンプルの申請書には100前後のリストが挙げられていたので、あわてて70前後まで増やしておきました。きっと多くの文献を参照して、ちゃんと綿密な計画を建てているというアピールが重要なんでしょうね。

  11. 人事計画(Personnel)

    • 研究に関わるスタッフの役割と責任。PI(自分)含めて実験に関与する主要メンバー(Co-investigatorやラボのスタッフを含む)について、それぞれのバックグランドとともに、どの実験にどれくらい関わるのかの詳細を記述します。

  12. Data Management and Sharing Plan (DMS Plan)

    • Data Management and Sharing Planには、データの種類、管理方法、保存期間、アクセスと共有の方法、再利用の措置、プライバシーとセキュリティ対策などが含まれます。NIHは、科学的な透明性と再現性を確保するために、助成金申請者に対してこの計画の提出を求めています。テンプレートがNIHのウェブサイトにあるのでそれを見ると参考になると思います。

  13. 補足資料(Appendices)

    • 追加データや図表(必要に応じて)。これはResearch Strategyにはいりきれなかった資料などを追加するものかな?と思いましたが、私は特に追加したいものはありませんでした。他にサポートレターという項目もあり、共同研究者からのサポートレターを添付できる項目もありました。私の場合は施設のサポートレター(Institutional support letter)を作成(研究施設の責任者がコアファシリティーの使用含めて申請者をちゃんとバックアップしますよという内容の手紙)したので、それを添付しておきました。

今回、2つのプロジェクトについて応募したわけですが、それぞれにおいて全ての書類をまとめると60-70ページくらいの分量になります。それだけ多くの書類を英語でまとめるのは大変そうなイメージがあるかもしれませんが、多くの書類(6, 8, 9など)は使い回しができるものなので、実質、頑張って書かなくてはいけないのは4のSpecific Aimsの1ページと5のResearch Strategyの12ページの書類になります。ちなみにSF 424 (R&R)とは、NIH含め米国政府の機関に研究助成金を申請する際に使用される標準的な申請書のことで、「Standard Form 424 Research and Related」の略です。主に電子申請システムを通じて研究助成金を申請するために使用されているそうです。

Specific Aimsとは

NIHの査読プロセスには、トリアージと呼ばれる段階があります。トリアージでは、査読者が最初にすべての申請書を評価し、科学的にあまり有望ではないと判断されたものはSRG(Scientific Review Group)の詳細な査読に回さないと言われていて、これは全体の申請書の約50%がトリアージされることが多いそうです。そこで鍵になるのがSpecific Aimsの書類と言われていてす。このセクションは、申請書の冒頭で見れるようになっており、研究の目的や目標を簡潔に説明します。

ちなみに、Specific Aimsセクションには以下の内容が記載されます。

  1. 研究の背景と重要性:

    • 研究がなぜ重要であり、どのようなギャップを埋めるのかを簡潔に説明します。

  2. 目的と仮説:

    • 研究の具体的な目的や目標、およびそれに基づく仮説を明確に述べます。

  3. 具体的な目標(Aims):

    • 研究プロジェクトの具体的な目標を列挙し、それぞれが全体的な目的にどのように貢献するかを説明します。だいたい3つのAimsをもつことが一般的だと思います。

  4. 予想される成果:

    • 研究が成功した場合に得られると予想される結果や成果を述べます。

このセクションは1ページ以内にまとめ、研究の意義や実行可能性を査読者に強く印象づけることが重要です。ただ、1ページしかないので、私はだいたい研究の背景と重要性、目的と仮説に加えpreliminaly dataがあればその概要、そして具体的な目標を3つというパターンで書いています。

Research Strategyとは

NIH R01助成金申請におけるResearch Strategyのセクションは、申請書の中心部分であり、研究プロジェクトの詳細を説明します。今回、私が応募したカテゴリーでは12ページが書類のページ制限になります。このセクションは、一般的には以下の3つのパートで構成されます。

  1. Significance(意義):

    • 研究の背景と重要性: 研究がどのような問題を解決するのか、その問題がなぜ重要かを説明します。

    • 知識のギャップ: 現在の知識のどの部分が不足しているのか、またそれを埋めるためにこの研究がどう貢献するかを示します。

    • 影響: 研究が成功した場合、どのようなポジティブな影響を与えるかを具体的に述べます。

  2. Innovation(革新性):

    • 新規性: 研究が以前と比べてどの点で新しいのか、既存のアプローチとどのように異なるかを説明します。

    • 技術的または概念的な新規性: 新しい技術、方法論、または概念を導入する部分について詳述します。

  3. Approach(アプローチ):

    • 予備実験について: 今回提案する実験計画に関わる予備実験の内容につて紹介します。この内容がしっかりしていると、提案している実験がどれくらい実行可能な内容なのかを補強することができます。

    • 研究デザインと方法: 研究の具体的な計画、方法、実験デザインを詳細に説明します。

    • データ収集と分析方法: データの収集方法や分析方法を明確に記述します。

    • 潜在的な問題と解決策: 予期される困難やリスク、およびそれに対する対応策を示します。

    • タイムライン: 研究の進行スケジュールを示します。

このセクションにおいて、いかに具体的に詳細が書かれているかどうかが、助成金獲得のために非常に重要と考えられています。NIHのウェブサイトにサンプルの申請書が見れるようになっていますが、どの申請書も実験手法についてかなり具体的に詳細が描出されており、申請者が提案した実験をちゃんと遂行できる知識、経験、施設・機器があることが強く強調されています。

予算計画書(Budet)

一般的なグラントは各年に使用できる予算の上限が決まっていますが、NIH R01については基本的に上限は設定されていません。そのため、自分の計画したプロジェクトに必要な費用をかなり細かく考えて予算書を作成する必要があります。基本的にはそれぞれの施設に予算計画書をサポートしてくれる担当者がいるので、その人に予算の内訳(Budget Justification)を提出し、細かい金額設定を調整していきます。特にややこしいのが給料で、各年に数%ずつ給料が上がっていくこと、また福利厚生(fringe/benefit)の分も考慮しないといけません。これらについては通常、自分を含め給料の支払い予定者の基本給、エフォートの割合(その実験に1年のうち何%労働時間を割くか)が分かれば担当者が計算をしてくれます(私の場合は以前の上司がその計算ができるエクセルシートを持っていたので、それを利用してだいたいの金額を算出させて、他のお金の計算もしています)。以下に予算 (Budget) と予算の内訳 (Budget Justification) について簡単に説明しておきます。

1. 予算(Budget)

  • 直接経費(Direct Costs): プロジェクトに直接関連する経費。

    • 人件費(Personnel Costs): 主任研究者(PI)や他の研究スタッフの給与と労働時間。

    • 消耗品(Supplies): 実験材料や消耗品。

    • 実験機器(Equipment): 必要な機器の購入やリース。R01では機器の購入金額の上限はありませんが、他のグラントでは上限が設定されている場合もあるので注意が必要です。

    • 旅行費(Travel Costs): 会議参加やフィールドワークのための旅行費。R01だと国内学会2回、国際学会1回くらいの計算で$10,000として提出しました。

    • 契約サービス(Consultant Services): 外部の専門家やコンサルタントへの支払い。これは共同研究する場合は考慮する必要があります。

    • その他の経費(Other Direct Costs): その他、直接プロジェクトに必要な経費。私の場合、大動物実験を行っているので、動物を購入・搬送する費用、飼育費用、アニマルテックの人たちのサポート費用などを計上しています。

  • 間接経費(Indirect Costs): 研究機関全体の運営に関連する経費。

    • 施設と管理費(Facilities and Administrative Costs): 研究プロジェクトの実施に関連する一般的な運営費用をカバーするために設定されたものです。これには、施設の維持費、管理費、事務費、ユーティリティ費用などが含まれます。これは担当者が計算してくれるのでおまかせしています。うちの施設の場合、直接経費の56%に設定されていました。

2. 予算の内訳(Budget Justification)

  • 詳細な説明: 上記で示したそれぞれの経費項目について詳細な説明と必要性の根拠を文章にして示す必要があります。基本的には直接経費の内訳についてその金額と必要性を説明します。

    • 人件費の詳細: 各スタッフの役割、給与、勤務時間の内訳を記載します。勤務時間については、例えば1年のうち30%をこのプロジェクトに従事するとなると、12ヶ月✕0.3=3.6ヶ月をエフォートとして時間を使うことになるので、その人員は3.6カレンダーマンスを実験に従事するとして記載します。

    • 消耗品の詳細: 購入予定の消耗品のリストとその価格が含まれます。具体的には、DNA試薬や培地などの化学物質、ピペットチップや培養プレートなどの実験器具、細胞培養に必要な培養メディアやクライオバイアル、PCR試薬やプライマーなどの分子生物学用品などがあります。また、実験用のゴム手袋やラボコートなどの一般的なラボ用品も含まれます。

    • 実験機器の詳細: 分光光度計やクロマトグラフィー装置などの分析機器、光学顕微鏡や電子顕微鏡などの顕微鏡、PCR装置やシーケンサーなどの遺伝学機器、インキュベーターやバイオセーフティキャビネットなどの細胞培養設備、蛍光イメージングシステムやMRIスキャナーなどのイメージング装置、コンピュータやデータキャプチャーデバイスなどのデータ収集および解析装置が含まれます。

    • 旅行費の詳細: 予定されている学会やワークショップ、研究訪問などについて、その目的とかかる必要について記載します。これには、航空券、宿泊、食事、会議登録費などが含まれて、国内学会だと1回の参加につき$1,500〜$3,000程度、国際学会だと$3,000〜$5,000程度の見積もりになるでしょうか。

    • 契約サービスの詳細: コンサルタントや外部サービスの役割と費用について記載します。コンサルタントであれば1回の訪問につきいくら(もしくは時間あたりいくら)支払うか、外部サービスであれば、サンプル分析や遺伝子解析を行う分析サービス、データ解析やソフトウェア開発を提供するバイオインフォマティクスサービス、統計解析を行う統計解析サービス、機器メンテナンスやカスタム実験を行う技術サービス、動物モデルの提供や動物実験を支援する動物研究サービスなどが含まれます。

    • その他: 論文出版も費用がかかるので、それの経費も含めることができます。

Modular Budget (モジュラーバジェット) とは

モジュラーバジェットとは、年間予算が250,000ドル以下の場合に使用される簡略化された予算形式です。この形式では、経費を詳細に項目ごとに分けて説明する必要がなく、25,000ドル単位(モジュール)で予算を提示します。モジュラーバジェットは、研究機関にとって予算作成の手間を減らし、提出プロセスを迅速にするメリットがあると言われています。

具体的には、モジュラーバジェットでは人件費、消耗品費、設備費、旅行費などの直接経費をまとめて計上し、全体を25,000ドルの倍数で表現します。この形式では、通常の詳細な経費内訳が不要であるため、助成金申請が簡素化されます。ただし、主要な研究者(PI)や主要な協力者の役割と時間配分を示すために、Personnel Justificationは提出する必要があります。

モジュラーバジェットは、特に小規模な研究プロジェクトや予算が限られている場合に適していると言われており、研究費の管理や計画をより簡単に行うことができます。研究者は、助成金の申請書において、モジュール単位での予算を提示することで、申請書の作成時間を短縮し、評価者に対しても簡潔かつ明確に予算計画を伝えることができます。

今回、私はモジュラーバジェットで予算を提出することになったんですが、今まであまり高額なグラントを提出したことがなかったため、たまたま下書きで作成した予算案が年間$25,000前後になってしまいました。そのため、予算担当者からモジュラーバジェットにしよう!と提案されて、その通りにしたわけですが、冷静に考えると通常予算でしたほうがもっとお金が使えたのになとちょっと後悔しています。これから5年間はスタートアップのお金がある(持ち越しはできないので5年以内に使い切る必要あり)ので、それと合わせれば十分に大動物実験を行える予定なんですが、今回は少し予算をけちって計上したので、再提出のときにはもっと予算を増やそうと計画しています。ちなみに、普通の予算、モジェラーバジェット、どちらが審査を通りやすいとかはないそうです。一般的には実験内容でグラントを採択するかどうかが評価され、予算のことはそのあとに評価されるようです。

それでは、今回のNIH R01についての体験記をこれで終わりたいと思います。審査結果が帰ってきたら、また後日談を報告しますね。

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