J-POPを知った「文化放送 Friday Super Countdown 50」

僕は、思春期のごく短い期間をある音楽番組と共に過ごした。わずか1年半くらいの期間だったが非常に思い出深いので振り返ってみようと思う。僕にJ-POPを教えてくれたラジオ番組「Friday Super Cowntdoen 50(スパカン)」である。

僕は中学生くらいからラジオを聴き始め、夏休みなんかは宿題をやりながらラジオの野球中継ばかり聴いているような毎日だった。ちょうどそのころは、クラスのみんなと話を合わせるために流行についていこうと思っていた多感な時期でもあった。ところが、そもそも時代に逆行してラジオばかり聴いているようなおかしな中学生である。ラジオばかりでろくにテレビも見ていなかったのではやりのJ-POPの曲、ドラマやバラエティなど何があるのかを全然知らなかった。話についていくにしてもドラマやバラエティは観るのに時間がかかるのでめんどくさい。その点手っ取り早く知ることができるから良いと思い邦楽から聴いてみることにした。最新ヒット曲を流してくれるような番組はないだろうかと探した。みんなが観るものとしてMステやCDTVなどテレビの音楽番組も良いのだが、家族の中でのチャンネル権の序列も低かったため、そもそもテレビ番組は候補として弱かった。もっと手軽に、一人で楽しめるものがないか。結局いきつくのはラジオであった。よくよく調べてみると、くしくもいつも聴いているライオンズナイターを放送している文化放送にFriday Super Countdown 50という番組があることを知った。調べたというよりも文化放送内のCMで聴いたのが始まりだったろうか。毎週金曜の21時30分から24時までの番組だった。2時間半という、なかなかの時間を使ってJ-POPの曲を流してくれるらしい。Mステでさえ1時間である。番組名にCountdown 50というくらいだから、どうやら50曲ものヒットチャートを発表してくれるのだろう。

実際に番組を聴いてみると、この放送スタイルはなかなか独特だった。まず、基本的にトークというトークがない。進行としてはアナウンサーのK太郎さんともう一人、アシスタントさんとして女性がいらしただろうか。まず、この二人の掛け合いというのが特になかった。AM曲ではなかなか異例と言えるのではないだろうか。流した曲の感想を言いあううわけでも、リクエストメールやそれにまつわるトークを展開するわけでもなかった。ゲストも来ない。ただ淡々とランキングの曲とそのリリース日などを紹介し、番組内のほとんどの時間は曲に費やされている。改めて考えてみると、実質2時間(前半30分は着メロのランキングや注目曲を流していた気がする)の放送時間内で50曲を紹介しきるにはとてもトークを挟む余地なんかはとてもなかった。

しかしこのスタイル、独特だが良いところが多かった。思い返すと、トークを挟まない分集中して音楽を聴けるし、番組の構成がはっきりとしておりどこで曲を終わらせるかの予想がある程度つくので非常に聴きやすかった。
というのも、最新50曲のヒットチャートのうち、

・50~21位の曲はサビだけ10秒程度
・20~11の曲は基本的にワンコーラス、そのあと間奏がない場合には歌が途切れるところまで
・10位以上は問答無用でフルコーラス

というふうに曲の順位ごとに流される時間の割り当てが決まっていた。AKBやジャニーズ全盛の時代だったが、彼らであろうが10位以内に入らなければフルコーラスでは流れない、厳密な決まりだった。もっとも、この番組自体は名を変えながら20年以上続いていた老舗番組であったので、ずっとこのやり方ではなかっただろう。あくまで僕が聴いていた、番組晩年の方式である。

このようなシステムで、番組2時間のうち前半1時間は50~11位まで一気に、残り1時間は10位以上をたっぷりと流してくれていた。
サビだけしか流れない曲が半分以上といっても、そもそも一回の放送で50曲を一気に聴くことができる。しかもサビ10秒聴くだけでも良い曲は良いものであるとわかる。おかげで耳にする曲の量は格段に増え、好きになる曲の幅が広がった。言ってしまえば強制的に50曲を聴かされるので、自分からは進んで聴かないような意外な掘り出し物な曲に巡り合うことも多かった。以前にnoteにかいたようなHeroやLiarのように、それほどメジャーではないもののコアなファンには好まれているような曲をたくさん知ることができたし、アーティストへの興味の幅も広がっていった。なにより、当初の目的であった、友達との話のひとネタとしても十分すぎるほどの情報を得ることができた。

スパカンを聴くのが毎週の恒例になってくると、ランキングの傾向も大体わかってくる。例えば、新曲のリリース前週にはトップ10にランクインすることは相当難しいとか、それでもAKBやジャニーズは10位どころかトップ争いに食い込んでくるとかである。この番組の特徴の一つは、すべての曲はリリース1カ月前からランキングへの参加資格があるということであった。曲が解禁されると同時といったほうが適当かもしれない。そのため、AKBやジャニーズ勢など一部の人気アーティストの曲はリリース3週前にはトップ20入りしていて、リリース2週間前、あるいは1週前にはもうトップ10入りを果たす、という順位の流れがあった。多くのアーティストの曲がトップ10に入れるのは基本的にリリース週のみである。

そういった傾向をもとに、スパカン聴取2年目となった高校1年時には順位の予想をするようになった。11位以下はさすがに分からない。あくまでトップ10である。「関ジャニのTWL強いな」とか「マルマルモリモリ全然落ちてこないな」とか、放送のたびに予想と照らし合わせてあれこれ考えていたのが懐かしい。誰に公表するでもない単なる自己満足なのだが、音楽評論家にでもなったようで楽しかった。順位予想の確度を高めるために、各週のスパカンの放送は最低3回は聴いていた。リアルタイムでの放送、MDに録音したものを土日に1回、そして翌週の放送前に1回、といった具合である。高校では学年主任が「予習・授業・復習の黄金のサイクルを確立しろよー」とことあるごとに説いていたが、スパカンに対する僕の姿勢はまさに「予習・授業・復習」の構図になっていた。爆笑問題のウーチャカこと田中さんが、徹子の部屋に出演した時に、「ザ・ベストテン」のある週のランキングをすべて当てたことを当時ベストテンの司会をしていた黒柳徹子さんに話したところ、「あ、そう」と相手にされなかったエピソードがある。かけた熱量の大きさのわりに人にはあまり理解してもらえないマニアックさを示すこのエピソードは、当時の僕と重ね合わせて聞いてしまう。

ただ、そんなスパカンも、僕が聴きだしてから2年ほど経った2012年春の番組改編とともに終わってしまった。金曜夜のスパカン放送後、寝不足のまま翌土曜日を迎えるのはなかなか大変で、隔週の土曜授業がある日なんかはいつも眠いし頭が痛かった。けれど、それをはるかにしのぐ価値がスパカンの2時間にはあった。スパカン終了後、冠を拝借してトークを主体とした音楽番組にリニューアルされた。しかし、従来のスパカンのトークなしに慣れきってしまったためか新番組のトークの多さと、それに反比例して減少する曲数に耐えきれなかった。

それ以降も、スパカンに匹敵する「究極の」音楽番組は現れていない。いや、もしかしたら自分のアンテナを張っていないがために見落として(聴き逃して)いた番組もあるのかもしれないが。今ではサブスクでヒット曲はたいがい聴けるようになったが、選択肢がたくさんあるからこそいつも聴いているような曲・アーティストばかりに偏ってしまいがちだ。新たな曲の開拓として「あなたへのおすすめ」も表示されるが、なまじ聴く曲が偏っているためにいつものと同系統の曲をおすすめされやすく、これも意外性には欠ける。そういう点では、知らない世界を知ることができたスパカンの存在は貴重であった。番組終了からはや8年、未だどこかに良い番組がないかな、と思い続けている。

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