マガジン漫画原作『ヘタレ王子と熱砂の旅路』 1話「DO ZE ZA」

 一台の船がキャタピラを転がせ、広大に広がる砂漠の上をゆっくりと進んでいる。

■船内
ルド「暑い、アチいよぉ~」

 船内はクーラーが効いておらず、砂漠のど真ん中、蒸し風呂状態である。

ルド「へいッ! メカニック、空調どうなってんだ空調は!」
 俺は内線でメカニックに怒鳴る。

メカ「あー船長。今、エアコン切ってます」

ルド「なぁーんで切ってんの! この俺を殺す気か!」
メカ「油が足りないんでさぁ、ガス欠で砂漠のど真ん中立ち往生するわけにはいかんでしょう?」

ルド「なんで油足んないの! この間、満タンだったじゃん!」
ロロン「まあ国一番のオンボロ船じゃあ燃費もクソですね」

ルド「あんのクソ親父ぃ!」
 俺は受話器を叩きつけて叫んだ。

■時は出航前に遡り、王宮

父「我が息子ルドよ、折り入って頼みがある」
ルド「はっ、父上」
 俺は跪き、父が王座に座って見下ろしている。

 この国エルニマはこの砂漠一帯の中で最も栄える国だ。
 その王であり、俺の父は圧倒的なカリスマと武芸で勇王と謡われるお方だ。

父「近年、数多くの地下水源の消失による水不足が深刻である。このままでは近い将来、民の命が危機に晒されるであろう」
ルド「存じております。大変心苦しい限りです」
 悔しそうに俯いてみせる。

父「うむ、そこでだルドよ。東の果てにあると言う水に囲まれた土地、ジャッパンにたどり着くのだ!」
 父は立ち上がってそう言った。

ルド「ファッ⁉」
 俺は思わず後ろにずっこける。
父「ん? どうした?」

ルド「ち、父上、お、お言葉ですが、私にその任は過大かと思われます。ここは有名な探検家などを雇って……」
 震える声で説得を試みる。

父「うむ、そうだな」
 父は目を閉じて考える。
ルド「分かっていただけたでしょうか?」
 態勢を整え、ジッと父を見る。

父「よし、お前がその勇姿ある者たちを束ねてジャッパンにたどり着くのだ!」
ルド「そうじゃねぇよ!」
 思わず父に怒鳴る。

父「あ?」
 ギロリと鋭い目線が突き刺さる。
ルド「あ、いや、私みたいな者が行っても足手まといになるだけで、その」
 目を泳がせて最後のあがきといく。

リーグ「くどい! お前が信頼たる仲間を集めて行くのだ!」
ルド「ええ! 仲間も私が集めるのですかっ⁉」

リーグ「そうだ! お前の力を信じているぞ!」
ルド「はわ、はわわわ」

リーグ「安心せい! お前が乗る船は用意しておこう。そしてその船は……」
ルド「はぁはぁ」

 ダメだ、呼吸が出来ない、クラクラする。

 胃が痛い痛いぃ!

 話、頭に入らないぃぃぃ! 

リーグ「……というわけだ。では行け!」
ルド「ぶ、ぶひぃぃぃいっ!」
 俺はその場で気絶しぶっ倒れた。

■そして現在

ルド「あれからなんとか人数集めて出てきたってぇのに! 船もオンボロだなんて、ぁああ! 絶対死ぬ、道半ばで死ぬ、確定事項じゃないかっ!」
 頭を抱て悶絶していると、双眼鏡を手にした部下が一人やってくる。

ザック「船長船長」
ルド「船長は一人だ! で、なんだザック?」

ザック「進行方向に誰か倒れている人が」
ルド「……助けてやれ」

 救助して、船内に運ぶ。
 そいつは差し出した水をゴクゴク飲み干すと顔を上げる。
 美人な女性で服装はどこかで見た国の兵服のようであった。

?「た、助かったであります」
ルド「おい、なんであんなところで行き倒れてた? 訓練中にはぐれたとかじゃないだろ?」
 女に話しかける。すると、疲れ切った顔が希望のある顔に変わる。

?「あ、あなた様は! 勇王の息子、ルド王子ではありませんか!」
ルド「げっ」
 俺のこと知ってるやつか。嫌な予感がバチバチする!

ユーリ「私の名はユーリ、お願いです! 我が国を、姫をお救い下さい!」
 ユーリは頭を下げ、床にこすりつけている。
ルド「……」

アル「何があったんですの? 説明下さいな」
 騒ぎを聞き付けて面倒なのがやって来た。

ユーリ「あ、あなたは愛と勇気のアルシャラフ王女!」
ルド「(アンパン〇ンかよ)」
 ユーリはさらに希望に満ちていく。

 こいつはアルシャラフ王女、色々あって強引に旅についてきた。
 勇敢か知らないが少々無謀で手を焼いているし、出来ることなら国に帰らせたい。

ユーリ「実は我が国オーイルは突如現れた謎の盗賊団に襲われ、金品が盗まれただけでなく、国の宝リュナ王女まで拐われたのです!」

アル「まあ、それはいけませんことね。こんな事態、このアルシャラフが見過ごせませんわ!」
バイブロ「ガハハ、その通りですなお嬢、お救いいたしましょうぞ」
 アルシャラフの側近兼執事のバイブロ(執事服にプロレスラーの仮面を付けた男)が豪快に笑う。

 さらに面倒なことに他の船員が次々とやって来て俺を囲む。

セーナ「活躍して結婚を認めさせましょう、旦那様!」
 婚約者のセーナが上目遣いで目を輝かせる。

サスネ「仕方ないわね、手を貸すわ」
 狙撃手のサス姉がクールに髪をかき上げる。

ジャステス「困った人は見過ごせないよ!」
ラピット「はい! お兄様!」
 正義を掲げるイカれた兄妹は今日も元気がいい

 他も色々いるがいちいち説明できないので割愛。

全員「さあ、やろう! 船長!」

 普通、物語の主人公ならこういう時、手を貸すのだろう。
 「困った人を助けれないような奴は自国も救えない」とか、くっさいセリフを吐いたりするのだろうか?

 ……だが、


ルド「む、り!!」
 俺は腕をクロスさせて意思表示する。

 皆からの一斉に非難が浴びせられるだろう。だが、いつものことだ。

アル「まあ! それが王族のする行いですの!」
バイブロ「ガハハ、見損ないましたな」

サスネ「相変わらずね」
 サス姉は呆れている。

ジャステス「困った人を見過ごすのかい、船長!」
ラピット「この玉なし船長!」

?「それでも本当に主人公かよ! 交代しろ!」

ルド「うるさーい! だいたいお前ら全員主人公気質すぎだろ! あと誰だ交代しろって言ったの!」

クロエ「ご主人様、多数決というのをご存知ですか?」
 俺のメイドのクロエが横にすっと現れて進言してくる。

ルド「だまらっしゃい! 船長は俺だぞぉ! 船の行き先は俺が決めるんだ!」
 足をどんどんと床に踏みつけて言う。

全員「ぶーぶー、この人でなしー」
 ブーイングがすごいが、手を大きく上げて静かにさせる。

ルド「そもそものそも、イスカルを使わない時代遅れの石油船で、今日か明日かを拝めるか分からんのに人助けなんてやってる余裕あるか! 俺はさっさとジャッパン見つけて宮殿に帰るんだ!」

 俺は快適だった宮殿生活を思い出して少し涙を浮かべる。

ユーリ「それは良かった」
 ユーリが部下をかき分けて目の前に現れる。
ルド「良くあるか!」

ユーリ「我が国オーイルは石油の原産国です」
ルド「……」
 俺は口をへの字にする。船員全員が希望の眼差しでこちらを見る。

ルド「あーもう! 分かったよ、行けばいいんだろ! 行けば!」
 目を閉じ、頭を抱て言った。

アル「それでこそ、船長ですわ!」
セーナ「大活躍待ってます!」

ルド「……はぁ、なんで俺が」

■オーイル

 船を入港させた俺たちはオーイルに降り立つ。

ルド「ここがオーイル」
 周りを見渡すと盗賊団の被害からか破壊された家が見受けられる。

ユーリ「ささ、王宮に向かいましょう。そこで事の全貌を聞くことが出来るはずです」
ルド「分かった。案内してくれ」

 外に大半を待たせて王宮に入る。
 広い部屋に案内され、小太りの男が出てくる。

ナップ「ようこそおいで下さいました。ルド王子に、セーナ王女、そしてアルシャラフ王女。私、この国の大臣を勤めるナップと申す者です」
 ナップは丁寧に頭を下げ、はげ散らかした頭部を見せてくる。

ルド「髪……いや、王は不在か?」
ナップ「いいえ、おります。しかし、近頃ゼハール王は病で床に伏しており、代わりに私目が参上した次第です」

ルド「分かった。それでこの街の現状を説明してくれるか?」
ナップ「はい、2日前のことです。突然、謎の盗賊団が夜に襲来し、一夜で様々な金品が盗まれました」

 暗き夜、強く光る炎が叩きつけられ、破壊された城壁から盗賊に入っていく様を絵で説明される。

ルド「盗まれたのは王宮か? それとも民草か?」
ナップ「両方でございます。ただえさえ近年の我が国は石油の産出が思うように行かず、疲弊するばかりだと言うのに……」

アル「まあ! それは大変ですわ!」
ナップ「ええ、ええ、民を苦しませてしまうこと大変心苦しい限りです」
 ナップはこぼれる涙をハンカチで拭いている。

セーナ「盗賊団の足取りは分かっていますか?」
ナップ「兵たちは皆負傷し後を追った者はおりませぬ。ですがまだ近くにいるとするとここから南の岩石地帯かと、他は開けた砂漠ですので」

アル「なら悪党どもはそこですわ! 私たちが華麗に退治して金品を取り返して来てあげましょう!」
 アルシャラフは椅子に片足を乗せて拳を突き上げる。
ナップ「おお! 本当ですか!」

ルド「おい待て勝手に決めるな」
 そう言いながら、俺はアルを椅子から降ろさせる。
アル「なんですの?」

ルド「なんですの? じゃない! 俺は荒事は嫌だぞ!」
アル「この国の現状を見て何も思わないんですの?」
 アルは軽蔑した目でこちらを見てくる。

ルド「……向こうは国を落とす連中だぞ。ここは一旦国に帰って救護要請を出してだな」
 ルドは目を泳がせ、アルを直視できない。

アル「そんなこと言ってたら盗賊たちに逃げられますわ!」
ルド「か、かもしれないが」

ナップ「お、お願いしますルド王子、取り返して来た暁には我が国最新鋭の船を差し上げます」
ルド「え? マジ?」
 心が揺れ動く……新しいエアコン。

ナップ「はい、イスカルで動く船です」
ルド「ムムム」

セーナ「旦那様」
ルド「ん? 何、セーナ?」

セーナ「今手ぶらで国に帰ったら御父上様はお怒りになるのでは?」
 俺は父上の顔を思い出し青ざめる。

ルド「カッ、カヒュッ!」
 ルドは息遣いがおかしくなり、白目をむいている。

アル「大丈夫ですの!?」
セーナ「大丈夫、過呼吸になっただけだから」
アル「全然大丈夫じゃないですわ!」

ルド「し、仕方ない、盗賊たちをとっちめるぞ。はぁはぁ」
 セーナに背中をさすられルドは決める。
ナップ「おお、さすがは勇王の息子!」

ユーリ「南の岩山地帯なら訓練で土地勘があるであります!」
ナップ「では同行して案内してあげなさい」

アル「さあさあ張り切って行きますわよ!」
 アルは俺の背中をバンと叩く。
ルド「げふげふっ、もっと優しくしろよ」

 俺はセーナに肩を支えられ部屋を出る。
ルド「はあはあ、ふぅ少し落ち着いた。よし、クロエ」
クロエ「はっ、ご主人様」
 俺の傍にクロエがすっと現れ、耳打ちする。

ルド「この城の中を洗いざらい調べ上げろ」
クロエ「承知しました」
 クロエはその場から姿を消した。

アル「あれ、どうしたんですの?」
ルド「なんでもない、さあ盗賊退治だ」
 俺は決め顔でそう言った

アル「でもその足で大丈夫ですの?」
ルド「へ?」
 俺は見下げる、ガクガクに震え上がる両足を。

セーナ「盗賊への恐怖心で震えてるんですね」
 セーナはそう言って、俺の頬っぺをツンツンしてくる。
ルド「……頼んだゴウエン」

ゴウエン「はっ、王子」
 俺は一番の側近でヘルメットを被った巨漢の男、ゴウエンに背負わせる。
 うん、この逞しい背中安心するね。

 こうしてオーイルを襲った盗賊団を追いかけることになってしまった。

■王宮

ナップ「くふふ、バカ王子どもが、王族は身代金が高くつくだろうなぁ。では後は頼みましたよ」
 ナップ大臣は全身黒ずくめで顔を隠した男に話しかける。

?「ああ、ただし」
 男はナップに釘を刺すように鋭い目で見る。
ナップ「分かっています、分け前は半分です」
?「分かればいい」

クロエ「(……これは早くしなければなりませんね)」
 陰で盗み聞きしたクロエは王宮内を忍ぶ。

■岩山地帯

 岩山地帯に突入した俺たちだったが、一向に盗賊たちは見つからなかった。

ルド「まだ見つかなんないのぉ~元盗賊魂働かせろよザック」
ザック「おかしいっすね、見つかんないっす」
ルド「はくしろよ、ってかなんか寒くね? クーラー効かせすぎだろ」
 俺は身震いする。

メカ「あー、今、エアコン切ってます」

ルド「はっ⁉ 何で切ってんの?」
メカ「外が寒いので必要かと」
 メカニックは窓を指さし、外は既に暗くなっていた。

ルド「もう夜か、よし帰ろう」
アル「この軟弱者!」
ルド「痛てぇ!」
 アルシャラフは俺をビンタし、派手に転がりこける。

アル「せっかくここまで来たのにおめおめと逃がすことは出来ませんわ!」
 アルは倒れて頬を押さえる俺を見下ろす。

ルド「そ、そんなこと言ったって、ここ、敵地真っ只中じゃないのぉ! こんなとこで夜はま、まずい」

 その時、船が急停止する。

アル「何ですの?」
ルド「やばい。俺の危険センサーがビンビンしてるもん」
 ルドのアホ毛が直立する。

 さらに船内は真っ暗になる。

ルド「ほら言ったんじゃん! 真っ暗じゃん! 帰るべきだったじゃん!」

 すると、明かりがつく。

 俺は眼を疑った。俺以外、全ての仲間たちが謎の黒ずくめの集団たちに取り押さえられ首元にナイフで突きつけられていた。

ルド「あー、マジなやつか」
 俺は一度、冷めて冷静になる。

 フードにアンテナが付いた、黒ずくめの集団のリーダーっぽい奴が近づいてくる。
リーダー「お前がルド王子だな?」
ルド「違います、人違いです」
 真顔で答えてみる。

リーダー「いいや、お前はルド王子だ」
ルド「じゃあ聞く必要ないじゃん!」

リーダー「お前は踏み込み過ぎた。だが俺は優しい。今から二つの選択肢を出す。10秒以内に選べ」
 
ルド「へ?」

リーダー「A:お前をボコボコにする代わりに全員命は助けてやる。B:王族以外全員ぶっ殺して身代金引換券になる。さあ選べ」


ルド「すんませんっしたぁぁああ! 命だけはごっ勘弁をぉぉおお!」
 俺は全力の土下座をかます。

黒ずくめA「王族が土下座してやがるぜw」
黒ずくめB「タクト隊長! こいつサンドバックにしようぜ!」

タクト「お前たち黙ってろ。どっちだ? AかBか?」
 タクトは土下座する俺に近づいてナイフを向けてくる。
ルド「いいや、Cだ」

 その瞬間俺は懐から既にピンを抜いておいた閃光手榴弾を転がす。

タクト「こ、こいつ⁉」
 その瞬間、凄まじい光が辺りを襲う。

タクト「め、目がぁ!」

 しかし、この手口既に仲間たちは履修済み。俺が土下座した瞬間皆既に目を閉じているた。

ルド「今だ! 俺を助けろ!」

 仲間たちは一気にこの隙を突き、黒ずくめの集団を制圧してしまった。

タクト「く、くそ、こんな姑息な手に……」
 黒ずくめの集団全員をロープで拘束している。

ルド「はっはっは、正解はC、土下座で気を引いての閃光弾だ!」
タクト「だからって王族が、しかも勇王の息子が、土下座って生き恥を知らんのか!」

ルド「うっせぇ! 俺は弱いんだよ! 助かるためなら土下座でもするわっ! 生き意地なめてんじゃねーぞ! オラぁ!」
 そして俺は縛られたリーダーの黄金を蹴り上げる。

タクト「っつ⁉」
 タクトは悶絶して倒れる。

ルド「よし、決まった!」
 ルドはガッツポーズを披露する。

サスネ「(動けない敵には強気なんだから)」
アル「全然かっこよくないですわ」

ルド「いいんだよ、弱い奴が威張ってられるほどこの世界は優しくねーんだ。だから、お前ら命のためならいくらでも土下座してやらぁ」

サスネ「いい話風にしているが、単に狡いこすいだけでは?」
ルド「そうとも言う。よし、黒ずくめたちよ、お前たちのアジトはどこかな? さもないと俺のゴールデンアタックが炸裂するぞ。グフフフ」
 俺は蹴り上げる真似をして脅す。

 皆、呆れた様子でため息をつく。

ザック「土下座に脅し、これがうちの船長主人公っす」

■盗賊団アジト前

ルド「ほう、あれか、道理で見つからないわけだ」

 盗賊団のアジトは巨大な岩山一つの中をくり抜いたものであり。入り口も岩一枚で防がれて完璧にカモフラージュされている。

アル「さあ悪党ども覚悟なさい! 全員突撃ですわ!」
 アルシャラフは行く気満々だ。
ルド「あー待て、アルシャラフ、お前はここに残れ」

アル「何でですの!」
 アルは突っかかってくる。
ルド「いざという時にすぐに船を出せるようにある程度は人数は残す必要がある。つまり誰かここに残って指揮する人物が必要だ」

アル「で、でも……」
ルド「お前じゃないと任せられないんだ!」
 俺はアルの両肩を強く掴んで訴えかける。

アル「そ、そんなに言うなら仕方ありませんわね」
 アルは自身のドリルのようなクルクルヘアーを照れながらいじっている。
ルド「(よし、チョロい。もし何かあったらこいつの親父さんに殺されるからな)」

ルド「セーナお前も残れ」
セーナ「はい、旦那様。でも旦那様は残らないのですね? 足、震えてらっしゃいますよ? 何なら私が代わりに行きましょうか?」
 セーナは意地の悪い笑みを浮かべて俺の胸元を指でなぞってくる。

ルド「好きな女を前線に出して、安全圏でふんぞり返るほど俺のメンタルは強くねえ」
セーナ「うふふ、それでこそ勇王の息子、頑張って来て下さいね」
 セーナは不敵に笑う。

ルド「やめろよ、コンプレックスなんだから」

ザック「船長、他は誰が残るっすか?」
ルド「そうだな、ザックお前は来い盗賊知識をふんだんに使え、ジャステス、ラピットお前たちは好きに暴れろ」

 ジャステス、ラピット「はーい!」
 二人は嬉しそうにピカピカに磨いた剣を掲げている。

ルド「それからサスネ、甲板から敵を狙撃して全体を援護しろ」
サスネ「ええ」

 俺はサスネに近づき他に聞こえない小さな声で言う
ルド「もし、俺たちが戻って来なければ強引にでも船を出港させろ、いいな」
サスネ「……了解」

ルド「よし、それから……」
 俺は全員に指示を出していく。

ユーリ「凄いであります」
 ユーリは船長としての役目をこなすルドを見て感心する。
セーナ「あの人やるときはやるんですよ。ここにいる誰よりも弱いのにね」

ユーリ「そうなんでありますか?」
セーナ「ええ、ルドはお父様の強さは引き継がなかった。けど大丈夫、一番大事な所は継いでいるから」

ルド「おい、行き倒れ! お前もついて来い」
 ルドは振り返ってユーリを指さす。
ユーリ「あ、はいであります!」

ルド「よし、お前たち行くぞ!」
 ルドは集めた仲間を背に、アジトを指差す。

ザック「船長」
ルド「なんだ!」

ザック「船長の足が震えて前に進んでないっす」
 俺は見下ろすと、なぜ立っているか分からないほど足はブルブルと震えていた。
ルド「……ゴウエン」
ゴウエン「御意」
 ゴウエンは俺を肩車する。

ルド「行くぞ! お前ら!」
 仕切り直して、アジトを指差す。

全員「(なんか締まらないなぁ……)」
 全員呆れ顔が消えなかった。

■盗賊団アジト、幹部会議室

 暗い部屋、影で顔の隠れた三人が円卓を囲んで座っている。

?A「タクトがやられたようですな」
?B「ああ? 所詮タクトは俺たち四天王最弱、敵が思ったより強かっただけだ」
?C「私たちに四天王ってシステムありましたっけ?」

?B「今考えた」
?C「えぇ……」
?B「ああ? いいじゃねえか、なんかカッコいいし」

 すると、したっぱが一人部屋に入って来る。
したっぱ「四天王様! ルド王子たちがアジトに突入して来ました!」

?A「早くない?」
?C「メイクまだですのよ! っていうか何でついさっき出来た四天王システム知ってんの、このしたっぱ?」
?B「はっはー、じゃあ俺様が一番乗りだな!」
 張りのある声を出す、男が立ち上がる。

?A「好きにせい」
?C「じゃあメイク終わったら船の方、襲ってきていいです?」
?A「うむ、ここはワシがいれば事足りるでの」

■盗賊団アジト内

ジャステス「悪、滅するべし!」
ラピット「その通りですお兄様、皆玉無しへにゃチン野郎にしてやりましょう!」

 ジャステス、ラピットはアジトに入ると、盗賊の下っ端を倒しながら勝手に奥へ奥へと走って行く。

ユーリ「突っ込んでいきましたけど、大丈夫でありますか?」
ルド「大丈夫だろう、あいつら強いし。何より止める方が大変」
 俺は嫌な顔をして見せる。

ユーリ「苦労してるでありますなぁ」
ルド「分かってくれるか!」
 俺は涙を浮かべてユーリの肩を叩く。

ユーリ「でも、自分で歩くべきだと思うであります」
 そういってユーリは肩車されている俺を見る。
ルド「うぅ、優しくない」

 アジト内を順調に進んで行った俺たちだったが、これまでの細道と違い、大きな広間に出る。
 そこには赤髪で両耳にガイコツのピアスを付けた男が仁王立ちで立っていた。

バオ「よぉ、俺様はバオ、ここから先は通さねえ、なんたって俺様強いから」
ルド「いや、普通に俺の部下、素通りしていったと思うけど」
 俺はバオの後ろの通路を指差す。

バオ「おい、お前ら進むの早すぎだろ! あれか、ゲームさっさとクリアしてイベント逃す系のやつか」
ルド「いや、俺はどちらかというと回収したい派だが」

バオ「まあいいや、先に行った奴より強い奴はお前らの中にいるか? そいつを残してけ、だったら先に行かしてやる」

ルド「……」
ゴウエン「王子、俺が残ります」
 ゴウエンは俺を下ろす。

ルド「ゴウエン、こいつは強いか?」
ゴウエン「はい、おそらくこの盗賊団で一番かと」

ルド「そうかお前の勘はよく当たる、ここを頼む。お前ら行くぞ」
 俺たちはゴウエンを残して先に進む。

ユーリ「だ、大丈夫ありますか? あいつは我が国の城壁を破壊した男でありますよ」
ルド「大丈夫だ、あいつは今まで負けたことがないんだ」

ユーリ「そうですか……でも、これは一体どういうことでありますか!」
 その時、俺はユーリの背中に乗っていた。
ルド「だって、ゴウエンいないし、膝小僧が笑い死にそうだし」

ユーリ「何という王子でありましょうか⁉」
ルド「ははは、盗賊退治を俺に頼んだのが運の尽きだったな!」

ユーリ「開き直らないで下さい!」

ザック「船長、そろそろ奥地に着くっす」

 俺はユーリから降りてアジトの最奥の部屋に入る。
 しかし、そこには目を疑う光景があった。

 一人の老人の前にジャステスとラピットが倒れているではないか。

老人「ほっほっほ、もうここまでやって来るとは、バオは何をやっておるんじゃ」
ルド「俺の部下と楽しくやってるぜ」
 親指で来た道を指す。

老人「遊びおって、まあよい。お前さんらを倒すことは容易いからのぉ」
 老人の背後には沢山の金銀財宝が積まれており、さらに奥に見える牢屋にはドレスを着た少女が倒れているのが見える。

ユーリ「姫!」
ルド「なーるほど、じいさん、あんたを倒せば全て解決するってわけか」
 俺は相手がじじいだと思って舐めた態度をとる。

老人「舐めるでないぞ、わしにこの宝玉がある限り誰も近づくことは叶わん」
 老人は杖に取り付けられた紫に光る宝石を見せる。
 その瞬間、辺りは暗く、不気味な雰囲気に包まれる。

 周りの皆は次々と倒れて行く。

ルド「は、はは、これヤバイやつじゃね?」

■広場

 ゴウエンはバオと対峙していた。

バオ「上手く避けるじゃん!」
 バオは赤い宝石が取り付けられたグローブをしており、手の平から炎を生み出してゴウエンに飛ばしており、ゴウエンは避けるので精いっぱいだった。

ゴウエン「何だ、それは?」
バオ「はっ! これは宝玉、我ら秘密結社イスカルの中でも選ばれし者のみ扱える最高の武器だ!」

ゴウエン「イスカル、だと」
バオ「あれ、これ言っちゃダメだったか? まあいいどうせお前もここで上手に焼けちまうんだからなぁ」
 そう言うと、バオを両手を上げ、巨大な炎の玉を生み出す。

ゴウエン「くっ」
バオ「避けようたってそうはいかねえぜぇ、避けたつもりか知れねえが、既に周りは炎だらけ、逃げる場所はねえ!」

 そう言ってバオは巨大な炎の玉をゴウエンに向かって投げる。

■王宮地下

クロエ「こ、これは⁉」
 潜入していたクロエは王宮地下倉庫に大量の金銀財宝が貯蔵されているのを発見する。

クロエ「やはり、被害をあっていたのは民だけ……このことをルド王子に報告せねば」
 しかし、その時背後にナップ大臣と話をしていた謎の男が。

?「もしやと思い、戻ってみればこんなところに鼠が一匹」
クロエ「⁉」

 背後からの一撃でクロエは倒れる。
 クロエは薄れゆく意識の中、男の頬の刺青模様を見る。
 それはエネルギー会社イスカルの会社マークと非常によく似たものだった。

クロエ「王子、皆……」
 そこでクロエの意識は途絶えた。



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