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 マッチ売りの少女

むかし むかし あるところに、小さな街がありました。
 寒いクリスマスの日、大きな声でマッチを売り歩く、少女がいました。
「マッチはいかがですか」「マッチはいかがですか」
手当たりしだい、道行く人たちに声をかけています。
しかし、人々は少女を見ると、逃げてしまいます。
というのも、少女の仲間たちが、悪い事をして、街の人たちを困らせているからです。
「あの子たちには、関わっちゃダメだ」
「親切にしたのに、ひどい目にあったよ」
街のあちこちから、ひそひそと話す声がします。
マッチ売りの少女は、身寄りのない子供たちと暮らしていたので、悪い子たちの仲間だと思われたのです。
それでも、マッチ売りの少女は、声をかけつづけました。
やがて、それぞれの家から、楽しそうにクリスマスを祝う声が聞こえてきます。
どの家も暖かい暖炉に、大きなクリスマスツリー、美味しそうなごちそうが並んでいます。
マッチ売りの少女は、窓から家の中を、そっとのぞいてみました。
「うわー!美味しそうな七面鳥!」
「クリスマスツリーの下には、たくさんのプレゼントまであるわ!」
マッチ売りの少女は、目をキラキラさせながら、みつめました。

ふと気づくと、あたりは暗くなり、雪が降ってきました。
「うわー 初雪だ!」
マッチ売りの少女は、うれしくてピョンピョン跳びはねます。
久しぶりの雪は、少女をふつうの子供にもどしました。
雪はどんどん積もり、誰もいなくなっていました。
マッチ売りの少女は、マッチを売るのをあきらめ、仲間のところに帰ることにしました。
「ああ 今日も一つも売れなかったわ」
マッチ売りの少女は、雪の降るなか歩いて、仲間の家に向かいます。

仲間の家につくと、ごちそうがテーブルにいっぱいならべられ、クリスマスのお祝いをしていました。
マッチ売りの少女が帰ってきたことなど、誰も気にもせず、大さわぎしています。
「また、どこかから盗んできたのね」
マッチ売りの少女は、そう思いました。
それから、そっと外に出て行きました。
「みんな元気でね、今までありがとう」
そうつぶやくと、来た道をもどっていきました。
マッチ売りの少女は、一人で生きていこうと、決めたのです。

行くあてもなく、雪の降るなかを歩いていると、いつの間にか教会の前にいました。
手も足も凍てしまい、もう一歩も歩けません。
マッチ売りの少女は、凍た手を暖めようと、マッチをすってみました。
「うわー 温かい」
しかし、マッチの炎は、すぐに消えてしまいました。
あわてて、もう一本マッチをすります。
しかし、またすぐに消えてしまいました。
何本すっても、すぐに消えてしまいます。
それでも、マッチの炎を見ているだけで、温かくなる気がしました。
「なんだか眠くなってきたわ」
目をこすりながら、残り少なくなったマッチをすると、暖かい部屋の中にいました。
「これは夢かしら」
マッチ売りの少女は、つづけてもう一本マッチをすってみました。
すると、今度はたくさんのごちそうが、あらわれました。
ところが、マッチが消えてしまうと、暖かい部屋もごちそうも消えてしまいました。
マッチ売りの少女は、夢中でマッチをすりつづけました。
何本も何本もマッチをすったので、とうとう最後の一本になってしまいました。
最後の一本に火をつけてみると、炎の向こうに、大好きなおばあさんが現れました。
「おばあちゃん」
マッチ売りの少女は、必死におばあさんを呼びました。
しかし、おばあさんは何も言いません。
ただ、にっこり笑っているだけです。
そして、最後のマッチの炎は、消えてしまいました。

次の朝、教会の前に人だかりができていました。
そこには、マッチ売りの少女が、冷たい雪の上に横たわっています。
少女は、まだ生きているように、ほほえんでいました。
マッチ売りの少女は、おばあさんのところに行ったのです。

    おしまい

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