【超短編パロディ童話】白雪姫

 昔々あるところに美しい王妃様がいました。王妃様はご自身の美しさをとても誇りに思っていました。
 王妃様は魔法の鏡を持っていました。
 魔法の鏡は尋ねると、どんな真実でも答えてくれる、そんな魔法の鏡でした。

「鏡よ鏡。世界で一番美しいのはだあれ?」
 鏡は答えます。
「それは王妃様あなたです」
 王妃様はその答えにいつも満足を感じていました。

 そんなある日のこと。いつものように王妃様が
「鏡よ鏡世界で一番美しいのはだあれ?」
 と尋ねると、
「それは白雪姫です」
 との答えが返って来ました。
 白雪姫は義理の娘にあたる、美しい少女でした。
「あの子さえいなければ・・・」
 激怒した王妃様は白雪姫を家来を使って殺してしまいました。

 すっかり安心して、
「鏡よ鏡世界で一番美しいのはだあれ」
 そう尋ねると、
「それは町娘ミレイです」
 との答えが返って来ました。
王妃様はまた激怒して、ミレイを殺してしまいました。

 これで大丈夫。
「鏡よ鏡世界で一番美しいのはだあれ」
 そう尋ねると、
「家臣の娘のカロリーヌです」
 との答えが返って来ました。

 カロリーヌを殺そうと、命令を出そうとした王妃様でしたが、ふと我に帰りました。
 私はいつまでこんなことを続けるのだろう。
 誰かが私より美しくなったのではない。私自身がもう容貌が衰えて、だれかに勝てなくなってしまったのだ。
 だれを消し続けても、鏡はもう二度と私を美しいとは言ってくれないだろう。

 そう思うと、王妃様はとてもとても悲しくなりました。
 そして思い出したのです。
 白雪姫は王妃様にとってもかわいい存在だった事を。
 あんなに愛していた白雪姫だったのに、バカな考えを起こして殺してしまった。
 その事を後悔してもしたりなかった王妃様。
「私はあの子への贖罪のためにこれからは生きることにする」

 そうして、王妃様はこの国にその人ありと言われるような、よい王妃様となったのです。

 しばらくして、すっかり鏡の事を忘れていた王妃様。
 ふと鏡の前に行き
イタズラ心でこうだずねました。
「鏡よ鏡世界で一番美しいのはだあれ」
 鏡は答えます。
「それは町娘キャサリンです」
 それを聞いても王妃様は薄い微笑みをたたえたまま。

 鏡の前を立ち去ろうとした、王妃様はちょっと行って、あ、そうだ。
 とまたイタズラ心をだしました。
「鏡よ鏡世界で一番心が美しいのはだあれ」
 そう尋ねると鏡は、
「それは王妃様あなたです」
 と答えました。
 それを聞いた王妃様は、

「わあああああああああ」
 そう泣き叫びました。
 こんな私の心が美しいはずはないのに、と。
 白雪姫を亡き者にして、その贖罪にとただただ必死にやってきただけ。
 そんな私が・・・

 でも鏡がそう言ってくれたなら。
 容貌の美しさは衰えるばかりだけれど、心は美しくあれるのかもしれない。
 これもまた奢りで、いま私の心は汚れてしまったかもしれない。
 でも心の美しさを目指そう。
 それは唯一人間の衰えない美しさだと思うから。

 そうして、王妃様はますますこの国にその人ありと言われるような心の美しい王妃様と呼ばれるようになっていったのでした。

 おしまい

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