【超短編小説】いつも家族が
最近部下のミスが目立つ。
いらだち気味な自分を会社では必死に抑え、家ではずいぶんとピリピリしていたように思う。
息子が明日小学校の入学式だというのに、また部下が大きなミスをして、それどころではなくなってしまった。
家に帰るとまだ息子と妻は起きていた。
息子が、
「お父さん、見て見て、ランドセルだよ」
と嬉しそうに僕に言う。
「ああ。よかったな。明日楽しみだな」
なるべく明るい口調で言おうと思ったのに、そこには険が含まれていた。
息子は敏感にそれを感じ取って、怯えた様子で部屋へ駆け戻ってしまう。
やってしまった。
後悔を感じながら椅子にどかっと座り込む。
「あなた、大丈夫?」
「うん。正直しんどいよ」
妻が心配そうな顔をしている。何をやってるんだ、僕は。
しばらくぐったりしていると、まだ起きていたらしい息子が部屋から走ってくる音がする。
そして僕の前に立つと、
「これ」
と言って一枚の紙を手渡してくる。
「じゃあおやすみ」
そう言って息子はすぐに部屋へと戻って行く。
息子に渡された紙を見る。
『おとうさん いつもおしごとしてくれてありがとう つかれてるのかな げんきだしてね だいすき』
そう書かれた手紙だった。
なんという・・・
息子にまで心配をかけて。情けなくも嬉しくて、涙がでてくる。
部屋へ行く。
息子はランドセルと一緒に眠っていた。
その髪を優しく撫でる。
妻もやってきて、
「無理しないでね。本当にきつかったら休んでもいいのよ」
と言う。
「大丈夫。もう大丈夫」
「本当に?」
「ああ。元気でたよ」
僕には家族がいる。きっと大丈夫だ。
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