知らない誰かの恋の話。
先日、職場の休憩室で休んでいた時のこと。
常時何人かは利用している休憩室だが、その時は珍しく私以外誰もいなかった。一人でのんびりコーヒーを飲んでいると後から若い男性社員が三人、ワイワイ話をしながら入って来た。
私服に着替えている彼らは、昼間の勤務を終えて帰るところらしい(私の職場は三交代制の工場である)。仕事終わりのくつろいだ雰囲気が伝わって来た。帰る前に休憩室の自販機で飲み物でも買っていこうって感じだろうか。社員数が多い会社なので部署も名前も知らない人達だ。
「元カレのために頑張るってLINEが来てさ、もう諦めるしかないかなーって」
いきなり、一人がそんな話をしているのが聞こえて来た。
(えっ?楽しそうに喋ってると思ったら、まさかの恋バナ⁈)
(なんだか面白そう……あ、いや、そうじゃなくてこの話、私に丸聞こえでいいのか?)
急に始まった恋バナに私は少々焦った。
(でも先に休憩室にいたのは私だしなー。うーん、まあいっか)
どうやら彼は私の事はあまり気に留めていない様子で、そのまま話を続けた。
「まあ付き合ってる時から、元カレと連絡とっててさ、そういうのやめてって言たんだけど」
(そっか、という事は彼女とはもうお別れしてるわけだね。でも付き合ってる人がいながら元カレと連絡をとる彼女ってどうなの⁈)
素知らぬ顔でコーヒーを飲みながら、脳内ではもう勝手に話に参加している私。
「お前と付き合ってるのに元カレと連絡とるって、あり得ないでしょ」
同僚の一人が私の気持ちを代弁してくれた。
(ソウダ、ソウダ)
彼は少し考えてから、ポツリと呟いた。
「んー、でもさ、好き…だったから」
おー、なんと健気な「好き」なのだろう。
イヤだけど強く言えない。イヤだけど許してしまう。なぜって、彼女の事が「好き」だから。
「まあでも、元カレのために頑張るって言われたらさすがにもう無理かなって、諦めたんだわ」
おそらく彼は彼女と別れてからも、このまま諦めずにいたらいつかもう一度自分を好きになってくれるんじゃないかと、淡い期待を胸に抱いていたのだろう。けれど彼女からのLINEで(具体的な内容は分からないけれど)やっぱり元カレには敵わない事を知った。
「あの後、しばらく引きずったなー」
その言葉は全く恨み節っぽくなく、「俺、頑張ったけどダメだったわ」みたいな感じでさらりと彼は言った。それが逆に彼女への気持ちの大きさを表しているように思えた。
見た目はややチャラそうな感じもするイマドキの若者も、そんな一途な恋愛をするんだなぁ。
私自身は当然の事ながら、最近誰からも恋バナなんて聞く機会など無かっただけに、名前も知らない誰かの話に少々グッときてしまった。
彼にこれからもっと素敵な出会いがありますように。
思わずエールを送りたくなった。
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