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夏の終わり、遠雷と梨。

夏休みが終わり、また平常運転の日々が始まった……のだが、今年は二日間勤務したあと、すぐに休日というラッキーなシフトになっていた。

本来なら、頭と体を無理にでも仕事モードに切り替えなくちゃならないところを、多少ウォーミングアップしてから本格稼働できるで、これは嬉しい。

そんな嬉しくも有難い休日は、珍しく夫と被った。(夫もシフト制の仕事である)

朝、私がドラッグストアに買い物に出掛けようとしていると夫も行くと言うので、ならば食料品の買い出しも済ませてしまおうと(我が家は一週間分まとめ買い)、地元野菜の直売所とスーパーもハシゴする事にした。

買い出しには、いつも車を使う。炎天下の駐車場。停めてある車のドアを開けると、車内の熱気に思わず息が止まる。「あっつ!」速攻でエアコンをつけるが、もちろんすぐには涼しくならない。外気温計は34度を表示している。高温になったハンドルを持つと、首すじから汗が流れ落ちた。

そこから目的の店を回り、夫と二人で「買う→積み込む」を繰り返す。互いに早く終わらせようと黙々とやる。これはもう買い物というより、作業だ。

野菜の直売所で、夏野菜に混じって早くも梨が出回っていた。私は梨が好きである。普段なら、なるべく買い物袋を重くしたくなくて躊躇するところだが、今日は荷物持ちがいる。私はいそいそと今年初の梨をふたつ、カゴに入れた。

買ったものを家に運び、仕分けをして、それぞれの場所に収めると、もう昼近かった。

昼ごはんは簡単に、素麺を茹でて冷凍庫に残っていたギョウザを焼く事にした。それだけだと足りなそうなので、ナスとピーマンと豚肉を炒めて甘辛く味付けしたものを一品加えた。そして350mlの缶ビールを半分ずつ飲んだ。

お腹いっぱいになって、ゴロンと横になり、ぼんやりスマホを眺めていると、いつの間にか眠ってしまった。


目を覚ますと、なんとなく部屋の中が薄暗く感じた。スマホで時間を確認すると五時近かった。起き上がって電気をつける。ふと見ると、夫の部屋から明かりが漏れている。本を読んでいるか、動画でも観ているのだろう。特に声はかけず、そのまま風呂場へ行きシャワーを浴びる。

汗を流してサッパリしたら、水分が欲しくなった。そうだ、昼間買った梨が冷凍庫で冷えているはずだ。

今年初の梨は少々小ぶりだが、十分にみずみずしかった。カットした梨を夫の部屋に持って行き、「ほい」と渡す。

「おっ、さんきゅー!」

いえいえ、どういたしまして。さて私はリビングで食べる事にするかな。

レースのカーテン越しに見る窓の外は、すっかり陽が落ちていた。最近だんだんと昼間が短くなっている気がする。どこか遠くの方で、雷が鳴っている。少し風も出てきたようだ。

これから雨が降り出すのだろうか……

ゴロゴロゴロ。

雷の音を聞きながら、よく冷えた梨をシャクシャクと噛みしめる。心地よい歯応え、たっぷりの水分、ちょっと青くさいような香りと甘さ。その全てをゴクンと飲み込む。

ああ、喉が渇いていたから本当に美味しい。

なんて事ない休日に食べた梨は、なぜかめちゃくちゃ体に沁みて、私はちょっと泣きたくなった。

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