小説 (仮)被災者になるということ~能登半島地震より 第12話

1月12日

朝は賞味期限切れの菓子パンだった。白湯と一緒に食べた。

母と祖母のシャワーの順番は9時からで、一番最初だった。
スタッフの人からシャワーの使い方の説明を受けた。
一人15分だが、二人同時なので、30分で大丈夫と言われた。
昨日の予定通りにシャワーを行い、祖母をバスタオルで拭いて、服を着せた。
ドライヤーが手洗い場に置いてあると聞いたので、かけてあげた。
しばらくしてから母がきて、さっぱりしたと言っていた。
私も生理が終わればシャワーを浴びたい。
普段冬にシャワーは浴びないが、ぜいたくは言えない。

放送があって、1.5次避難に出発する予定が変更になり、
11時に早まったと言った。
夫は急いで義父母に連絡をした。
母と祖母も準備をした。

自分の体調がおかしいことに気が付いた。
寒気がし、息が荒くなっている。
赤十字の医師がいる保健室に行き、体温計を借りてきた。
39.3度あった。
保健室に体温計を返しに行くと、使い捨てエプロンの捨て方を教えてくれたKさんが、保健室前の廊下の椅子に座っていた。
コロナとインフルの検査をして、結果待ちだと言っていた。
他にも来ている人がいるようで、私も椅子に座って待った。
私の順番がきて、名前や今いる部屋、症状、ワクチンの回数などを
紙に書いた。
今のところは、熱と関節痛と寒気とのどの痛みだった。
看護師さんが少し話をしてくれた。阪神淡路大震災の被災者だったと言う。
仮設住宅の申し込みはしておくといいですよ、
要らなかったらキャンセルすればいいし、家を修理するときにも
便利ですから、と教えてくれた。
なるほど、と思った。
医師が私の鼻に綿棒を入れ、検査結果がでるまで保健室で休むよう言われた。
その間に11時をまわってしまった。
みんな、出発してしまっただろう。
そもそも熱があるのに、見送りに行くのは迷惑になる。
でも見送りたかった。
二人も熱が出なければいいけれど。
検査結果は陰性だった。
明日も熱があったらもう一度検査しましょうと言われ、解熱剤と咳止めをもらった。
ランチルームに戻っていいと言われた。

父は弟の家に行き、私は一人でゆったりと横になれた。
そういう意味では熱がでるタイミングは良かった。
食欲がなく、昼ご飯を取りにいかなかった。
昼ご飯はどこかのたこ焼き屋さんがきていたらしい。
夫がとってきてくれたのだが、たこ焼きなんか食べられない。
食べないと元気になれないと言われたが、いらないから食べてといって、
つっぱねた。
それを見ていたのか、Nさんが野菜ジュースをくれた。
自分で飲むためにどこかで買って持ってきていたのだろう。
ありがたかった。

ずっとマスクをしたまま、こたつ布団と家族の分の毛布をあるだけかぶって寝ていた。
私は避難所に来てから寝ている間以外ずっと、マスクをしていたのだ。
マスクはあまり交換できなかったけれど。
コロナは5類に移行していたから、避難所でもマスクをしていない人はたくさんいた。
今、私はマスクをしていない人たちに対して怒りを覚えていた。
のどが痛かった。
コロナでも、インフルでもないのなら、溶連菌なのではと思った。
以前に溶連菌になった時に、すごくのどが痛くなったからだ。
コロナが流行してから、熱が出たことはなかった。

睡眠不足でなければ、熱はでなかったかもしれない。
もっと休んでいれば、熱はでなかったかもしれない。
栄養不足でなければ、熱はでなかったかもしれない。
避難所にいなければ、熱はでなかったかもしれない。

いつも熱があるときは、ネガティブになるが、今回はますますひどかった。

夜はDさんが心配して、炊き出しのご飯を持ってきてくれた。
中華丼のようなおかずだったが、一口しか食べられなかった。
においが気になり、どろどろした食感が気持ち悪かった。
普段は中華丼はどちらかというと好きなほうなのだけれど。
申し訳なかったが、残食入れに捨ててもらった。
昨日のおかきが残っていたのでそれをそっと食べた。
おかきのほうがにおいが少なくて、食感が良かった。

簡易ベッドが欲しい方は本部に来てくださいという放送があった。
数が足りないので、全員にはいきわたらないということだった。
足の悪いような、本当に必要な人に使ってほしい。

お汁粉と葛湯のセットのことを思い出した。
空港のあるK市のお菓子屋さんが作っていて、カップに入れてお湯で溶かして飲むものだ。
お汁粉はハトの形の紅白のあられが入っていてかわいい。
葛湯は桜の塩漬けが入っていて春らしい。
そしてどっちも甘くておいしい。
生協で年末に販売するので、毎年買って実家に持っていくことにしている。
渡せないまま、祖母と母は行ってしまった。
避難所で人目がある中で飲むのをためらっていたからだ。
賞味期限が切れない間に渡せるだろうか。

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