小説 (仮)被災者になるということ~能登半島地震より 第7話

1月7日

朝、放送があった。
「おはようございます、本部です。
えーと、みなさん、慣れない生活でいろいろとストレスがたまっている
ことと思います。
ぶつかることもあるかもしれません。
でも、ここで一緒に暮らしていくのだから、家族のように思って、
みなさん仲良くしていきましょう。」

家族のように、という言葉が胸に響いた。

朝ご飯は8時に保存食の缶入りのパンとリンゴが配られた。
缶入りのパンは防災関係のイベントでもらって、一度食べたことがあった。
柔らかくて大きい。

今日はI県で一番発行部数があると思う新聞がきた。
N町出身のイラストレーターさんが連載していて、能登らしい内容で涙が出そうになった。

母は近くの個人医院が再開したので、薬をもらいにいった。
個人医院は電気がきたようだ。

祖母が、別の部屋にいる友達のところに行くというので、私も付き添った。
その部屋は2年生の部屋で、黒板に新学期の提出物が書かれていた。
書き初めとか、キュビナ(クロームブックでやる宿題)とか、
提出されるはずだったそれらを見ているとしんみりした気持ちになった。

祖母と友達のMさんは、話している内容は地震の内容だったけど
話している様子は地震前と何も変わりなかった。
帰るときに、小さな声で「これ持っていかし」といって飴を2つくれた。
部屋にいる全員には飴をあげられないから、そっと渡してくれたのだ。
仲の良い祖母に食べさせたいのだと思ってうれしかった。

弟は、お風呂とコインランドリーで洗濯するために、K市まで出かけたと父から聞いた。
まだ4時間ほどかかるらしいのだが、大きい車で、車の運転が苦にならない人はそうするようになってきたようだ。
まだ道路が悪いし、パンクや底を擦る危険もある。
私の軽自動車ではとても行く気にならない。

11時過ぎに炊き出しがあった。
味噌煮込みうどんとT県の袋入りいわしをもらう。
缶コーヒーはお湯にいれて熱々になっていて、飲まないけどカイロ代わりになるかもと思ってもらう。

食事のあとは夫と義父母の家に歩いて向かう。
みぞれに近い雪で傘が重くなる。

義母の携帯の充電が切れたという。
近くの避難所まで私が携帯を充電しに行く。
避難所の前では炊き出しのカレーを配っていた。
その避難所では入口前に仮設トイレがあり、炊き出しもその近くで行っているので、強くはないがふん尿とカレーのにおいが混ざり合っていた。

充電器にさして、近くの椅子に座った。
疲れていてうとうとした。
毎日長靴を履いて歩くだけで、疲れてしまう。
10分ほど待ったが10%だったので後でとりに来ることにした。

義父母は基本的に簡易トイレを使っているのだが、
この日、なぜかトイレを流そうとしていた。
トイレは使用すると逆流することがあるので、
使ってはいけないと言っておく。

義母は廊下にある棚を片付けていた。
私はお正月に義母が飾った花を片付けた。
義父は花が好きで、まだきれいなのにもったいないと言ったが
もうしおれていて駄目ですから、と言って庭に捨てた。

1時間ほどたったので、携帯を取りにいったが、51%だった。
あまり多くはないが、持ってきて義母に渡した。

家に帰って台所の片づけをした。
寒くて、上着を着たままでないと作業できない。
区長さんがきて、校区の小学校に給水車が来ていると教えてくれた。

年末に買っておいたフリーズドライの七草がゆのもとがあった。
炊き出しの味噌汁に入れることはできなくもないが、
あきらめてそのまましまう。

寒くて早めに撤収した。
雪はまだ降り続いていた。

6時にいか天かすいり味噌煮込みうどん(やっぱり小さい)がもらえた。
昼に赤十字の人が来て、ランチルームにテープで線を引いていった。
一人分のスペースは60~70センチといったところだ。

東日本大震災の時、避難所のニュースをみた。
最初は雑魚寝だったのだが、一週間後、段ボールのパーティションができ
女の人が「今まで着替えもできなかったので助かります」と話していた。
それは大変だな、と思って見ていた。
ここにはまだ、パーティションは来なかった。
私もずっと着替えていない。

近所のSさんが廃校になった中学校に行ってきた話をしてくれた。
中学校は統合により廃校になって、何も使われていなかった。
火葬場が壊れて遺体を燃やすことができないため
そこに遺体がいったん集められてK市に運ばれるのだそうだ。
Sさんの弟がそこに安置されていて、顔を見てきたといっていた。
きれいな顔をしていたと言う。
60体ほど並べられていたそうだ。

手の爪にあかがたまり、黒くなってきていた。

夜になり、灯りが消された。
横になっていると、一筋涙が流れた。

祖母をトイレに2回連れて行った。

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