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壊れる ☆88

昨日は『ゴールデンカムイ』について語ったが、

この物語に登場する人物たちは、脇役を含めて全て魅力あるキャラクターだが、ほぼ全員が、ちょっとオカシイ。有り体に言えば「壊れて」いる。

不死身の杉元鶴見中尉土方歳三をはじめ、その他の人達も、みなネジの1本や2本外れているような連中ばかりだ。

私はソーシャルワーカーの勉強をはじめたが、社会福祉はとても心惹かれるテーマだと思うのだが、

高齢化社会、独居世帯、貧困児童、児童虐待、・・・・数え上げれば限がない、そのどれにも興味を感じるけれど、

同じくらい精神疾患に関しても、学びたい欲求が強いのである。

母がレビー小体型認知症になってしまった事については過去の記事で何回か触れたが、

そこから個人的に本を読んだりして調べたのだが、調べれば調べる程じつに面白いと感じてしまうのだ。精神疾患について考える事は、まとも(?)な人の脳の働きを知る上で、良い手掛かりになるように思える。

いや、非難されるかも知れないけれど、敢えて言うけれど、人は簡単に壊れてしまうものではないかしら?誰であっても。

酒や、ギャンブルや、異性や同性や、子供や、親や、仕事や、趣味に狂う人はそこら辺にも居るけれども、


例えばですね、アメリカは南北戦争以来、ずっと、ほとんど絶え間ないくらい何処かで戦争を続けている国で、

その情報は膨大に蓄積されているけれど、

それほどまでに戦争を続けるには兵士を常に確保しなくてはならないから、

戦争にどうしても付きものの、兵士のブレークダウン(戦闘不能になる)に対しても、ずっと、頭を悩ませて来たのである。

アメリカ人などは、特に他人に弱味を見せない人達だ。強い事が正義で、兵士として戦場に赴いたからには、敵前逃亡など考えられない、他人から笑われるし、誰より自分が許さない。兵士にとってもブレークダウンは不名誉なことだった。

けれど、実際の戦場では精神的におかしくなって、使いものにならなくなって、戦線離脱する兵士は必ず出たのである。

そのような症状を、当時は「ノスタルジア」と呼んでいたそうだ。この呼び名は時代とともにコロコロ変わっていった。

第一次大戦ではシェルショック(爆弾ショック)と呼ばれた。塹壕の中で、昼夜、四六時中ずっと爆撃されていれば変になるのは当たり前だと考えられていたのだが、

実際は爆撃をあまり受けない地域に配属された兵士達も同じような症状になってしまうのである。

そこで、第二次大戦の時にはアメリカでは兵士達に心理テストを行った。そのテストで不安な結果を出した者は排除した。勇敢な人だけ兵士として採用したのだが、

結局、そのテストは失敗する。強い人ばかりの兵士のはずが、ブレークダウン率はむしろ上がってしまったので、選別したのは全く意味がなかった。

新兵とか、古参兵士とかの分け方も、時間が経つと同じだという事がわかった。つまり、精神的に弱いとか、そのような因子を含んでいたから壊れるのではなく、誰でももれなく壊れてしまうものなのである。

統計によると、第二次大戦では、1つの中隊が連続して戦い続けられる限界は、90日だそうだ。

戦場だから、実際に身体に重症を負って戦線離脱するケースも多いが、精神的な要因によってそうなるのは210日だそうである。

(『戦争する脳』破局への病理 計見一雄 参照)

だから、どんなに立派な精神力を持った人でも、ストレスが続けば、脳がもたなくなってしまうのだ、壊れている杉元、鶴見、土方も、最初から壊れていたのではないし、特別ヘンな奴だった訳ではないのである。


人間は機械ではないのだから、戦場でなくても、長くストレスに晒されては脳がもたない。

長く被災地で過し(大災害などで)たり、あまりに過酷な労働を続けたり、過度な勉強を続けたり、家庭環境が悲惨で、ずっと気が休まらなければ、これも壊れてしまう原因となろう。

しかし、これらの多くは重症になる前に、ゆっくり休めば大体は治ってしまうものらしい。(計見一雄先生によると)

精神疾患は、特別なことではなく、もっと身近に存在しているものだと思っている。


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