ポエム&ポエム
『生と死』
あの人は、この灼熱地獄に焼かれて死んだ。
ほんの数分前に読んでいた本を閉じたように、
椅子から立ち上がり
ドアを開け外に出て、
熱波で熔けてゆく身体を横目で眺めながら、
「どうせ、死に向かって俺は生きている。」
「焼かれたところで痛くも痒くもない。」
あの人は目を閉じ、 そう思った。
「ここが潮時なんだよな。」
一筋の涙が流れる
誰の為に?
生きる事を諦めたのか?
さっきまで読んでいた本が
棚に戻された。
あの人の死を知らない世界で、
あの人は言った。
俺たちは、死に向かって生きている。
と、
本当にそうだろうか?
本当に死に向かって生きているのだろうか?
あの人は、生きている
さっきまで本を読んでいた
あの場所で
本は、棚に返され
あの人は、生きている
灼熱地獄に焼かれた夢を見て
熱波に熔けた身体を抜け出し
わたしの元へ還って来る
わたしの生のよろこびの為に
あの人は、生に向かって生きている
ほんの数分前の出来事まで
わたしは彼を愛していた
─ 林 花埜 ─
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