8 日本シリーズ第三戦


さて、日本シリーズ第三戦である。

現在9回の裏。キンタマファイターズの攻撃である。

ジャイアンツ対ファイターズは、現在49対49

ここを持ちこたえれば、延長戦突入である。

読者のみなさんは、点数だけ見れば、第二戦までの流れがウソのような、超乱打戦になったのかと思うだろう。

ところが、第三戦も、両チームとも一度もバットを振っていない。

俺と相手チームのキャッチャー佐竹に49回ずつボールがキンタマに当たるという驚きの展開になったのである。

稀に見る投手戦である。

もうここまで続くと、稀に見る投手戦とも言えない気がしてきた。

当然の投手戦である。

俺は、49回もキンタマに当たったことで、痛みで何がなんだかわからなくなってきた。

昨日、木村に約束した通り、リードを変えて、フォークボール主体にしたせいか、キンタマに当たるか、ストライクかのどちらかが続くという驚異の展開になった。

相手チームの攻撃と言ったが、もはや気持ちは、こちらの攻撃である。

なんせ、キンタマでしか点が入らないからである。

深呼吸する。

最後の打者である。

延長戦など考えるものか。

ここでケリをつけてやる。

俺の出したサインは真ん中低めのフォークボール。

キンタマを狙え!俺のキンタマはここだ!!

俺は勇気を振り絞った。

本当は怖くて怖くて仕方なかった。
ペナントレースを勝ち抜いた意地が俺を奮い立たせたのであった。

来た!木村の200キロを超える豪速球が!!

俺は、怖すぎて、少しよけてしまった。

球は逸れてしまい、俺の内ももあたりに当たった。

しかし、俺は、中学、高校とずっと演劇部だった役者魂をここで発揮した!

「ギィヤアーッ!!き、キキキキキ、キンタマがあーっ!!キンタマがあーっ!!!!痛いーっ!!」

50対49

日本シリーズ第三戦も我らがキンタマジャイアンツの勝ち。

しかし、俺は、49回ものキンタマへの直撃の痛みで、気を失っていた。50回目のみフェイクキンタマだったが、それまでのダメージの蓄積である。

ここから書く内容は、後から人に聞いた話である。

「放送席、放送席!!
今日のヒーローインタビューはもちろん、この選手です!!見事なリードで、自らのキンタマへと50回もボールをいざなった、いざないの貴公子こと、中西選手です」

俺は口から泡を吹き、白目を向いていたが、そんな俺を支えるようにして、ピッチャーの木村がお立ち台にいっしょに登っていた。

木村は、俺が気絶しているのをいいことに、俺の体を腹話術のようにして、俺のふりをしてこう答えた。

「本当にすごいのは木村投手だよ。僕なんかキンタマにボールが当たっただけで、野球のセンスはなんにもないんだよ。第1試合、第2試合のヒーローインタビューも、本来は木村投手が立つべきだったんだよ。ヒーローインタビューを木村投手にかわるね!バイバーイ」

ワアアッと歓声が盛り上がるや否や、木村は、まるで小さな子供が飽きた人形をそこらへんにポイっと捨てるような態度で、俺の体をお立ち台から、無造作に放り投げた。

もともと、木村の書いた“死ね”というラクガキを徹夜で消したので一睡もしていない上に、キンタマに49回もの直撃を受けたのだ。

俺は死んでもおかしくなかった。

しかし、木村は、さっきのが腹話術であることを、インタビュアーに気づかれることもなく、ヒーローインタビューを最後まで受けたそうだ。

さすがは、中学、高校と六年間、腹話術部だっただけのことはある。

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